8.王と謁見する
雪と慎は、食事後、王と謁見することになった。
イーリス姫が慎を迎えに来た。
雪はなぜかメリクリンに手を引かれて、王の間に案内される。
衛兵がいる大きな扉の前に案内され、中に通される。
部屋の中には、玉座に座った王がいた。
雪が炎の中で見た王様を、もう少し老けさせた姿で座っていた。
髪は茶髪で、顔にはたくさんの皺がより、厳しい表情で二人を見下ろしている。
「その方が、私の甥であるイト公爵と娘のイーリスを助けたものか?」
「その通りよ。お父様。」
イーリスが、うれしそうな声で説明している。
王は、娘から筆頭魔導士に、目線を動かした。
「間違いございません。私がこの目で”屍の剣”で貫かれた公爵の傷が、癒されているのを、確認しました。」
メリクリンは、王にはっきりと宣言すると、うやうやしく頭を垂れた。
「うむ、なんと本当であったか?」
「ちなみに、そちに同じことは?」
「申し訳ありません。私では力不足で、あのように治すことは、とても・・・。」
メリクリンはそう言って、先程と同じように、また頭を垂れる。
「うむ、あいわかった。」
王は、そう言うと、考え深げに頷くと、皆に下がるように命令する。
「お父さま?」
イーリス姫が考え深げに、父王に問いかけると、
「私は忙しい。先程の件なら、お前の好きなようにいたせ。」
王はそう言って、皆に退出を促した。
慎と雪は何も言えずに、王の間を後にした。
王の間を出ると、イーリスが慎の腕に、しな垂れかかってきた。
「ちょ、イーリス姫。そのぉーむ・・む・・むねが腕に当たるから、引っ付かないでくれ。」
慎は腕にあたるイーリスの胸が気になるようで、イーリスを引きはがそうとしている。
雪は横でイチャイチャしている二人を無視すると、食べたら聞こうと思っていたことを、メリクリンに問いただしていた。
「メイリクリン筆頭魔導士様。」
メリクリンは雪を振り向くと、
「メルクリンと呼び捨てで、構いませんよ。雪様。」
「じゃ私も雪で結構です。では、メリクリン。一つ質問が、あるんですけど。」
メリクリンは、雪の顔を真っ直ぐ見ると、
「いったいなんでしょうか?」
「あなたは、魔導士様ですよね。なら、私たちがいた、あの場所が、どういう場所なのか、知っているはずです。ぜひ教えて下さい。私、自分の友達を助けなければならないんです。」
雪は真剣な目で、メリクリンを見た。
慎もメリクリンを見ている。
「なぜ、私が知っていると思うのですか?」
雪はメリクリンのこの質問に、
「ただ、なんとなくです。」
素直に答えた。
「私が知らないと答えたら。」
「知っていて知らないと答えたなら、私もあなたの質問には答えません。」
「私がうそを言っているかどうか、あなたにはわかると?」
雪はその問いに、余裕で微笑んで、何も言わない。
メリクリンは、大きな溜息をつくと、
「分かりました。ここでは何ですので、こちらに。そこで私が今、知っている限りのことをお話しましょう。」
メリクリンはそう言うと、雪を案内した。
慎もそれについて行く。
イーリスは不満そうに、慎の後について行った。
メリクリンは、筆頭魔導士に与えられている部屋に案内してくれた。
そこは、とても見晴らしのいい、きれいな部屋だった。
雪の想像では、おどろおどろしい地下室をイメージしていたのだが、実際は、まったく逆の、清潔な部屋だった。
テーブルには、綺麗な花が飾られ、書類も整理整頓されている。
雪がそれを目にすると、メリクリンは恥ずかしそうに説明してくれた。
「妻がその花が好きで、よく活けているんです。」
ちょっとはにかんだ感じで、説明するメリクリンが、まったく彼のイメージと違っていて、似合っていなかった。
「こちらにどうぞ。」
メリクリンはバルコニーに雪を案内した。
バルコニーは、王城のかなり高い所に位置するせいか、遠くまでよく見える。
雪はメリクリンの勧めで、そこに座った。
慎も雪の隣に、腰を下ろした。
イーリス姫も仕方なしに座っている。
メリクリンが座ると、ものすっごくきれいな巨乳の金髪メイドさんが、紅茶とケーキを持って現れた。
「この度は、兄を助けていただき、ありがとうございます。雪様。」
「兄?」
「はい、イト公爵は私の兄です。」
確かに、よく見ると、あの公爵と呼ばれた人物と一緒で、金髪でなんとなく顔立ちも似ている気がする。
「そうなんだ。力になれて良かったけど、私の事は、雪でいいよ。」
「いえ、そんな恐れ多いことは、出来ません。」
巨乳の金髪メイドさんは、首を振って拒絶している。
そのおかげで、大きな胸も揺れて、慎がそのしぐさに目を血走らせている。
雪は思わず、隣にいた慎の足を踏んでいた。
イーリスも気がついたようで、慎のもう片方の足を踏んだようだ。
自業自得だ。
メリクリンは慌てて、拒絶しているメイドさんに、ニッコリ話しかけると、
「トリア、ここはいいから。すまんが大事な話があるんだ。下がってくれ。」
「はい、あなた。では、私はここで失礼します。」
トリアは、メリクリンの頬にキスをすると、唖然としている二人を置いて、下がっていった。
メリクリンが咳払いする。
雪と慎は、ハッとして我に返った。
あの金髪の巨乳メイドさんがメリクリンの奥さんだとは、思わなかった。
「お話しても?」
「ええ、お願いします。」
雪はやっと、それだけいった。
「まずは、最初にお尋ねのありました、あの洞窟ですが、この国では、”試しの洞窟”と呼ばれています。」
「「”試しの洞窟”?」」
「はい、私たちのような魔導士になる者たちが、使役する使い魔を得る為に、あの洞窟に入るのです。」
「じゃ、魔導士になれないような人が入ると、どうなるの?」
「それは、なんとも、わかりません。」
「ちなみに、今の私が入れば、中の人を助けることは可能かしら?」
「あの洞窟に入れるのは、使い魔を持たないものだけです。」
「それじゃ。」
「はい、お二人が入ろうとすれば、確実に弾かれて、中に入ることができないでしょう。」
「確かなの?」
「はい、かつて、私が試しましたので、間違いありません。」
「試した?」
「はい、私の魔導士見習い時の友が、今のあなた方の友のように、戻ってこなかったのです。私もまだ若かったこともあり、ちょうど使い魔も得ていたので、師の言葉を無視して、”試しの洞窟”に入ろうとしましたが、入り口で透明な壁に阻まれ、一歩も中に、足を踏み入れることが出来ませんでした。」
メリクリンは苦笑いを浮かべている。
「それと、雪様。いえ雪は、さきほど、魔導士になれないような人とおっしゃいましたが、洞窟に入れた時点で、すでに魔導士の素養があるので、それは杞憂にあたると思います。」
慎と雪はびっくりした顔で、メリクリンの言葉を聞いていた。
「魔導士の素養があるの?」
「はい、一般のものが洞窟に入ろうとしても、入り口で弾かれますので、中に入れません。それと、気になるようでしたら、使い魔に聞けば、あなたの友が生きているかどうかは、すぐにわかりますよ。」
「そうなの?」
「はい、間違いありません。私も師に無理やり入ろうとした後、教えて貰いましたから。」
メリクリンは少し赤くなって、話してくれた。
「教えてくれて、ありがとう、メリクリン。それともう一つ、もしあなたの言う、使い魔を得られなかった場合は、どうなるのかしら?」
「それこそ、大丈夫です。すぐに洞窟の外に吐き出されます。ただしそれは、洞窟に入ってから24時間後ですね。吐き出されれば、使い魔には、すぐに分かりますので、その時点で友達を迎いに行けば、問題ないはずです。私の推測ですと、明日の昼頃ではないかと、思います。」
「ちなみに、死んだりした人はいないの?」
雪の心配に、慎も聞き耳を立てた。
「精神を病んだものはいますが、死んだ者の話は、今まで一度も聞いたことがありません。」
「それじゃ、追加で質問よ。イーリス姫やイト公爵は、なんであの黒衣の騎士に、襲われていたの?」
「理由は簡単です。魔導士の素養がないものが、あの洞窟に近づくと、ああなるからです。」
「ちょっと、待って。私たちも最初、洞窟に入る前に出くわしたわ。」
雪が最初の夜に追いかけられて、あの廃墟に入った時のことを思い出して、メリクリンに説明する。
「ちなみに、あなた方の中に、その姿を見たものは、いましたか?」
「そう言えば、音だけで、姿は見ていないわね。」
「やはり、魔導士の素養があるものには、見えないんです。ただし使い魔を得た後でなら、視認可能です。」
雪は、メリクリンの言葉にホッとした。
『とにかく、みんな魔導士の素養とやらはあるようだ。』
「他になにか質問は?」
メリクリンの言葉に雪は、首を振った。
一応、気になっていたことは、全て聞けた。
「では、どうぞ。よろしければ、お召し上がり下さい。」
雪、慎、それにイーリス姫は、メリクリンの美人妻が、手作りしたケーキを美味しくいただいた。
ちなみに、イーリス姫は、その後、メリクリンに捕まって、たっぷりお説教を食らっていた。