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6.守護者との出会い

 光に包まれると同時に、雪に話しかけるものがいた。

 ”われの名を思い出せ、我は汝なり。”

「あなたの名前?」

 ”そうだ、我が名を思い出せ!”

「急にそんなこと言われても。」

 雪は途方にくれた。

 すると、目の前に”赤い炎”が浮かび上がってきた。

 雪はそれを手に取る。

 途端、頭の中に、たくさんの映像が流れ込んできた。

 戦争になり、死んでいく多くの兵士、民。

 なぜかそれを見ながら、自分は悲痛に天に向かって、泣き叫んでいる。

 気がつくと、知らないうちに雪は、スラリとした金髪碧眼になっていた。

 金髪碧眼の美女は、腰に剣をさげ、きれいな城の廊下を歩いている。

「アテナ、どこに行っていた?」

 そこに超絶美形で黒髪の細身でマッチョな男が声をかけた。

「アレスか。敵国の間諜が、城に忍び込んだようで、ちょっとな。」

 アテナは、そう言うと、その男を無視して、廊下を歩いて行こうとした。

 男はアテナに手を伸ばすと、

「どこに行く?」

 アテナを抱きしめた。

「一応、王に報告にいく。」

 アテナは、そっけなく返した。

「王は、今、王妃といちゃついている。行っても、会えないぞ。」

 アレスはそう言うと、アテナをもっと強く抱きしめた。

「あいつを想うのはやめろ。無駄だ。」

「なんのことだ?」

 アテナは、苦しそうな顔で、アレスを見た。

ヤツは、お前を利用しているだけだ。ヤツの心には、あのいけ好かない王妃がいるだけだぞ。」

 アレスはそう言うと、強引にアテナの顎を掴むと、キスをしてくる。

『ウソー、なんで私、超絶美形の細身マッチョ男にキスされてるの。いや、今、私はわたし、じゃなくて、あれ?あれ???。』

 アテナは男を突き飛ばすと、

「元、王妃の恋人が何をする。」

 アテナはそう言うと、そのまま”王の間”に向かって、歩いていった。

 雪はアテナの本当の心の内を感じた。

 アレスは勘違いしているようだが、アテナが好きなのは王ではなく、今、彼女にキスした男のようだ。

 衛兵がアテナの前進を阻んだ。

「アテナ様。今、王は取り込み中で・・・・。」

「わかっている。急ぎだ、そこを退け。」

 アテナは衛兵に当身を食らわせると、”王の間”に入った。

 王は王妃といちゃついている最中だった。

「なんだ、アテナ。なにようか?」

 王はそのまま、声だけで問いかける。

「砦の守備隊が国境付近で、敵戦力と交戦中です。軍の出動許可を。」

 王は面倒くさそうに手を上げると、

「一個中隊をお前に任す。好きにせい。」

 アテナは言質をとると、踵を返した。

 通路を戻ってきた所で、アレスとすれ違う。

「どこに行く、アテナ?」

「国境だ。」

 アテナは一言いうと、アレスを振り切ろうとした。

「俺も行く。」

 アレスはアテナの腕を掴んだ。

「アレス。お前は王宮騎士で、王を守るのがお前の仕事だ。」

 アテナはそう言うと、アレスの腕をはずさせると、そのまま通路を歩いていく。

「くそっ。」

 アレスは手短にあった壁を殴りつけた。

 アテナはこの後、国境で敵戦力と交戦、最後は国境の砦で戦死した。

 アレスは、この訃報を王宮で聞くと、王と王妃に軍の出動を要請し、すぐに敵軍を完膚なきまでに殲滅する。

 雪はこの光景を見ていた。

 そして、なぜかアテナが最後に一目会いたいと思い描いた”最愛の人”の顔も見えた。

『アテナ。』

 雪が哀しそうに、アテナの名を呟く。

 途端、目前の炎は収まり、神殿のはるか上空に、フクロウの背に乗って、飛んでいた。

「げっ、なんでこんなことに、なってるの?」

「そりゃ、俺のセリフだ。」

 横を向くと、慎が竜に乗って隣を飛んでいた。

「なんで、竜に乗ってるのよ。」

「そっちだって、フクロウに乗ってるじゃないか。」

 二人は睨みあう。

 その時、下で悲鳴が聞こえた。

「慎、見て人よ。」

 雪が下を指差した。

「ああ、何かに追いかけられている、見たいだな。」

 それは馬に跨り、鎧を着けた黒い騎士だった。

「くそ、とにかく助けなきゃ。」

 慎は、いつの間にか剣を抜くと、竜を降下させていく。

 雪も慌てて追うが、助ける武器がないことに気がついた。

『えっと、どうすればいいかしら?』

 ”わが名を呼べ、我は汝なり。”

 頭の中にさっきも聞いた声が響いた。

『名前って、アテナ?』

 雪の手に弓と弓矢が現れた。

 ”矢を弓につがえて”

 雪は声に従って、矢を弓につがえた。

 ”弓を引いて離しなさい”

 雪は声に従った。

 弓は慎が剣で応戦するより早く、黒騎士を仕留める。

 ”次の矢をつがえて”

 雪は言葉に従った。

 ”射る”

 あっと言う間に、五人の黒騎士を弓矢で屠ると、雪は下に降りた。

 慎は弓矢で屠られた、黒騎士を見て、唖然としているようだ。

 雪が隣に降りてくると、ハッと我にかえった。

「おい、大丈夫か?」

 倒れている人を抱き起す。

おんな!?」

 慎は、素っ頓狂な声を上げた。

 慎が抱き起した人間は、まぐれもなく女性で、抜けるような白い肌、金髪で巨乳な青い瞳の美女だった。

 雪は美女の顔を見て、驚愕していた。

 この女、あの炎の中で見た、王妃にそっくり。

 美女は軽く金髪を搔き上げると、慎に抱き付きキスをした。

 慎は唖然として、美女にされるがままになっている。

 美女は慎に体を擦り付けると、雪をチラッと見てから、慎の前に跪いた。

「我が主にして、我が伴侶と定められし人、天より降りて、我を助けん。」

 美女はそう言うと、慎を熱い視線で見上げた。

 慎はダジダジとなって、一歩後ずさると、慌てて手を振った。

「ちょっと待ってくれよ。それって、何かの誤解だぜ。」

「確かに、助けたの私だし。」

 雪はふくれっ面をして、言い放った。

 別に自慢したいわけではないが、結局、何もやらなかった慎が感謝されるのは、釈然としない。

 しかし、美女は雪をまるっきり無視すると、説明を付け加えた。

「わが王家に伝わる言い伝えです。あなたはまさしく、言い伝えそのものです。」

 美女はうっとりと答えた。

 雪はムカッとして、思わず何か言い返そうとしたが、もう一人彼女を守るために、襲われていた男が、うめき声を上げたので、思いとどまる。

 男は酷いケガをしていた。

「大丈夫?」

 抱き起すと、手にべっとりと血がついた。

『何か治療に使えるもの。』

 ”わが名を呼べ、我は汝なり。”

 雪は心の中で”アテナ”の名を呟いた。

 雪の手に炎が浮かび上がった。

「おい、それって。」

 慎が眼をまるくしている。

 雪は炎を、男の傷口に押し当てた。

 男は、この世も終わりのような叫び声を上げると、気を失った。

 慎が声もなく、その様子を見ていた。

 隣の美女も同様だ。

 その時、遠くで蹄の音が響いた。

「イーリス姫様ー。どこですかぁー。」

 馬に乗った男たちの一団がやってきた。

「敵ではありません。我が国の騎士たちです。」

 雪も慎も肩の力を抜いた。

「ここにいる。」

 イーリスの声に、騎士たちがやってきた。

「イーリス姫、良くご無事で。」

 隊長らしき男が、馬上から声をかけた。

「この方が私を救って、下さいました。」

 慎を指差して、イーリスが説明している。

 雪は肩を竦めた。

『もう好きにして。』

 雪が男を抱えたままでいると、騎士が雪の傍にやってきた。

「イト公爵、大丈夫ですか?」

 公爵の血まみれの姿を見て、騎士が傍らに跪いた。

「一応、応急処置はやったから、大丈夫だと思うよ。」

 雪がそう言うと、傍らの騎士が血まみれで、ボロボロになっている公爵の衣服を剥いで、傷口を見た。

 見た途端、騎士は驚愕で固まっている。

「どうした?」

 同僚の騎士が雪の傍で、固まっている男をどかすと、この騎士も公爵の傷口を見て、同じく驚嘆した。

「すばらしい。これこそ神の御業だ。」

「どうした?」

 公爵の傷口を見た、部下たちの言動をいぶかった隊長が、鋭い質問を飛ばした。

「見て下さい、隊長。屍の剣に斬られたのに、傷口が治っているんです。」

「そんな馬鹿なことがあるわけがない。」

 隊長も姫そっちのけで、雪が治療した公爵の傷口を見にやってきた。

 隊長が公爵の傷口を見ると、傷口の切った跡がピンク色の線になって、綺麗に治っている。

「なんと、確かに神の御業だ。」

 騎士たちが雪を見つめる視線が一遍した。

 まさに神を崇める目だ。

 雪は何だが、イヤーな視線にゾクリとした。

「何をやっている、そなたたち。私を助けた者を城に案内するのだ。」

「畏まりました。」

 慎と雪は、姫が住む城に向かうことになった。

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