5.遺跡
この絶壁を降りれない以上、滝から下にある湖、目がけて、飛ぶ込むしかない。
「私、飛び込みは、得意じゃないんだけど。」
雪が独り言を呟いた。
「僕は、それ以前です。泳げません。」
守は絶望的だと、真っ青になっている。
「まっ、そんなに悲観するな。俺が岸まで引っ張ってやるよ。」
郷が守の背をバシッと叩いた。
そのせいで守は、足を滑らせ湖に向かって落ちていく。
「ありゃ、不味い。」
郷が慌てて、守の後に続いて、飛び込んだ。
「ちょっ。」
雪が躊躇していると、その背を慎が押した。
「おい、後がつっかえるから、早く飛べ。」
キャー
雪は慎に背を押され、湖に落下していく。
慎はそれと同時に、自分も飛び込んだ。
南は隼人に近寄ると、目をつぶって、しがみついた。
隼人は南をしっかり抱きかかえると、
「飛ぶよ。」
そう南に囁くと、湖目がけて飛び込んだ。
ザッバーン
バッシャーン
ズボッ
六人は、次々に湖に落下した。
キャッ
南が隼人に抱き付いた。
「隼人君。」
「泳げるか、南。」
南は頷いて、隼人と一緒に、岸に向かって泳いでいく。
「あーん、私のメガネ。」
雪がメガネを捜して、バシャバシャやっている。
「頭の上だよ。」
隣を泳いでいた慎が、雪の頭に上にズレたメガネをもとに戻した。
「よかった、割れてない。」
雪はホッとすると、慎を無視して、岸を目指すと泳ぎ出した。
慎がなにか言おうとすると、後ろから声がかかった。
「おーい、慎。手伝ってくれ。」
郷が泳げない守を抱えながら、なんとか岸に向かって泳いでくる。
「わかった。」
慎は、力強いストロークで守たちのところに行くと、郷を手伝って、守を二人で引っ張りながら、岸に向かって泳いでいく。
先に岸に泳ぎ着いた隼人と南が、雪を引っ張り上げた。
後から泳ぎ着いた三人は、郷と慎が、自力で岸に這い上がると、泳げない守を二人で岸に引っ張りあげる。
「ここ、どこだ。」
慎は岸に上がると、ごつごつした岩が転がる、広い洞窟を眺めまわした。
「どこだっていいわよ。どうでもいいから、もう何も出てきて欲しくないし、何にも起こってほしくない。」
雪はさっき落とされた恨みと疲れで、その場にへたり込んだ。
スカートは滝に落ちた勢いで脱げたらしく、体操服を着ていたおかげで、上にはセーラ服を着て、下は短パン姿という、ちぐはぐな格好だ。
慎は雪のそんな珍妙な姿に、なぜかゴクリと生唾を飲み込んでいた。
『なんか変に色っぽいよな。』
雪が隣で、変な目で、自分を見ている慎を睨んだ。
『なにか文句があるの?』
二人の間で、何かが始まるそうになった時、南の叫び声に、五人は南を振り向いた。
南は湖を指差している。
「何かが浮かんでくる。」
確かに水面に無数の泡が見えた。
ブクブクブクブク
ブクブクブクブク
「今度は何?」
六人が見守っていると、ビチャッという音と共に、岸に何かが飛び上がって来た。
「うそ、蛇!!!」
雪の声に、その蛇の口から、何かが吐き出された。
ビュッ
慎が慌てて避ける。
慎が座っていたところが、綺麗に溶けた。
「げっ、うそだろ。」
慎は腰を上げると、走り出した。
「湖から離れろ!!!」
隼人も南の手を引いて駆けだした。
守も郷も走り出す。
六人は、蛇が吐き出す液を避けながら、手短な洞窟に飛び込んだ。
一番先に南と隼人が真正面の洞窟の通路に飛び込む。
守と郷は、その左隣の洞窟に飛び込んだ。
最後に右隣に慎と雪が飛び込む。
蛇たちは、なぜかすべて、最後に洞窟に飛び込んだ慎と雪を追って来た。
「うそー、なんでこっちに来るの?」
「知るか。取り敢えず走れ。」
二人は力の限り走った。
でも蛇は変な液を吐きながら、にょろにょろと追ってくる。
突然前を走っていた慎が止まった、雪は慎の背にぶつかる。
「ちょっ、何止まってるのよ!」
慎が蒼褪めている。
雪も慎の前を見た。
行き止まりだ。
「うそー、こんなのってあり。」
「くそっ、上は。」
見上げるが、壁がヌルついていて、とても登れない。
「イヤー、こんな所で、こいつと一緒になんて、死にたくない。」
慎がムッとして、振り向いた。
「お互い様だ。」
二人の目に、地面が蠢くように迫ってくる蛇の群れが見えた。
もう終わりだと、二人が思った瞬間、床がなくなった。
「「えっ」」
二人は、穴にまっすぐ落ちた。
イヤァー
ギョェー
二人は、ぽっかり空いた穴に、吸い込まれた。
穴は二人を吸い込むと、直ぐになくなった。
二人は、とてつもない落下速度で、グングン下に向かって、落ちていった。
ズッサァー
ドッ
雪が慎の背中の上に落ちた。
グェッ
「おい、雪、早く降りろ。俺を殺す気か?」
「言われなくても、今降りるわよ。」
雪が慌てて、慎の上から降りる。
慎は腰を抑えながら、立ち上がった。
「ふぅー、圧死するかと思った。」
雪がすかさず、慎を睨んだ。
「冗談だ。半分、本当になりそうだったが。」
「なんですって。」
雪が慎に噛みつこうとした。
慎はそれをあっさり無視すると、
「それより、ここどこだ?」
「聞かれても、わかるわけないでしょ。」
雪が近くの壁を撫でた。
さっきまで、固い岩だったものが、綺麗に磨かれた大理石のようなものに変わっていた。
「洞窟にいたはずだよな?」
「今まで、夢見てなけりゃそうね。」
雪は壁から手を離すと、その奇妙な大理石の廊下を歩き出した。
「おい、どこ行くんだ。」
慎が雪に声をかける。
「後ろに進めない以上、前に行くしかないでしょ。」
慎が後ろを見ると、さっき自分たちが落ちたはずの穴も、なんにもなくて、行き止まりになっていた。
「おっしゃる通りで。」
慎も雪に続いて歩きだした。
しばらく歩くと、二人は大きな神殿に着いた。
その神殿に続く通路の前には、真っ白いテーブルがあった。
何かのそのテーブルの上が光っている。
二人は光っているテーブルの上を見る。
何やらミミズが這い回ったような、文字が描かれていた。
「「汝、欲するものを思い描け!!!」」
二人は声に出して、読んでいた。
『『なんで読める(の)んだ。』』
二人の声に呼応して、光が広がると、二人は、それに包みこまれた。