4.湖底に注ぐ滝
「おい、隼人。行くって、一体どこに行く気だ。」
慎はお腹を鳴らしながら、怠そうに隼人に、声をかける。
「とりあえず、水と出来れば食料を捜す。」
「おい、食料って、なにか当てがあるのか?」
「ここはどうやら洞窟みたいだから、地下水くらい、流れているさ。」
「それで、食料は?」
郷が怠そうに隼人に話しかけた。
「上手く行けば、その地下水の中にいる魚を、素手で捕まえるしかないな。」
隼人はそう言うと、歩き出した。
南も起き上がって、後に続く。
他の四人も、覚悟を決めて、二人の後に続いた。
六人は洞窟の奥に向かって、どんどん進んだ。
進むにつれて、だんだんと辺りが明るくなって来た。
どうやら、周りに生えいる苔が、発光しているようだ。
おかげで、足元が明るくて歩きやすい。
かなり歩いた所で、隼人が急に立ち止まった。
「どうしたの、隼人君。」
南が隼人の背中に、ぶつかりそうになりながら後ろから話す。
「シッ。何か聞こえないか?」
五人は耳を澄ませた。
「「「「「水の音。」」」」」
全員がうれしそうにハモる。
「よし、この音がする方に、行こう。」
六人は勇んで歩いていく。
10分も歩くと、水音がかなり大きくなってきた。
「ヤッホー、水が飲める。」
郷が先頭を切って、走り出した。
後の五人も走り出す。
キャー ドタン グシャ
「痛ァーー。」
雪が何かにつまずいて、その上に転んだ。
それは、ぐしゃりと嫌な音を立てて、崩れた。
「おい、大丈夫か?」
いつまでたっても、起き上がろうとしない、真っ青な雪を慎が引っ張り上げた。
引っ張り上げた慎の顔も、蒼白になる。
「おい、みんな止まれぇーー。その水を飲むな!!!」
四人は、慎の大声にびっくりして振り返り、すぐに彼らの顔も蒼白になった。
キャー
南は隼人に縋りついた。
通路が薄暗くなっている所々に、人間や動物の白骨化した遺骨が散乱していた。
よく見ると、白骨化した人間のものは、喉を掻きむしったような形で死んでいるものが何体かあった。
全員その場で、呆然としてしまった。
「これ何なの。」
雪が踏みつぶした骨を見ながら、呟いた。
「この先の水を飲んで、死んだんだろう。」
慎が喉を掻き毟るようにして、死んでいる白骨死体を指差した。
「やめて。」
南が耳を塞ぎながら、その場にへたり込む。
隼人は南に近寄ると、抱き上げて、元来た道を戻り始めた。
「さっきの別れ道まで戻ろう。」
後の四人も、なにも言わず、重い足を引きづりながら、二人の後に続いて、歩き出した。
かなり歩くと、やっと二股に分かれた所まで、たどり着いた。
「どうする隼人。」
雪の後ろを歩いていた慎が、後ろから声をかけた。
「わからないが、さっきの建物に戻ることが出来ない以上、この道を行くしかないだろう。」
そう言って隼人が歩き出そうとすると、南が泣き出した。
「南、どうしたの。大丈夫?」
後ろにいた雪が、南の顔を覗き込む。
南はしきりに首をふると、大声を上げて泣き出した。
「もう、いや!!歩きたくない。どうせ歩いたって、みんなこの洞窟で死んじゃうのよ。助かりっこないわ。」
「南。」
雪が南に手を貸そうとすると、彼女はその手を払いのけ、半狂乱になって叫ぶ。
すると、それまで黙って聞いていた隼人が南に近づくと、彼女の右頬を叩いた。
「なっ、なんで、隼人くん?」
「ちょっと、何考えているの。」
雪が、南の頬を叩いた隼人に、本人に代わって、くってかかる。
他の四人も慌てて、隼人を止めようとした。
それなのに、南が雪の手を振りほどいて、横をすり抜けると、隼人に抱き付いた。
「南。」
隼人は抱き付いてきた、南の背に腕を回して、しっかり抱きしめる。
他の四人が唖然とする中、二人は周りを無視して、見つめ合っている。
四人が呆然としながら見ていると、南の潤んだ瞳が閉じられた。
「ちょっと、まさか、こんなところで・・・。」
雪が唖然と二人を見つめる。
「おい、隼人。」
慎が信じられないと言った様子で、隼人に声をかけようとしているが、二人にはまったく聞こえていないようだ。
二人は、そのまま四人を無視すると、キスを始めた。
「「「「おいおい、お前ら。」」」」
四人は唖然としていた。
「隼人君。」
南が泣きながら、隼人の胸に顔を埋める。
「大丈夫だから、南。俺が守るから。」
くさーい青春映画、真っ青なセリフを隼人が吐く。
雪は真っ赤になって、二人を見つめ、後の三人はニヤニヤと二人を眺めている。
二人はそのあと数十分も周りを無視して、抱き合うと、隼人は自分の胸に、顔を伏せたままの南の肩に、そっと手を置いた。
「行こう、南。」
隼人がそう言うと、南はコクリと頷いて、二人だけで歩き出した。
四人は先に歩いていく二人を、呆れ顔で見送った。
すると、ついて来ない四人に、イチャついていた隼人が声をかけた。
「おい、いつまでそんなところにいるんだ。いくぞ。」
四人は、互いに顔を見合わすと、しかたないと歩き出した。
すぐに二人に追いついた所で、四人に向かって、隼人が文句を言った。
「あんな所でグズグズして、はぐれたらどうする気だ。」
「はっ、良く言うよ、隼人。こう暑くっちゃ、とてもじゃないが近寄れないね。」
慎がぶーたれた顔で文句を言う。
『『『うん、うん。』』』
後ろにいた三人も、心の中で相槌をうった。
「なんだとぉー。」
隼人が慎の胸蔵を掴んだ。
「なんだぁー。」
慎も隼人が掴んだ手首を逆に掴む。
「おい、二人とも。」
慌てて郷が止めに入ろうとした。
「やめて、隼人君。」
南はオロオロと、前から見ている。
二人は周りが止めに入る前に、殴り合いを始めた。
雪と守は呆れ顔で見ていたが、二人は同時に足元の水に気がついた。
二人して顔を見合わせる。
隼人と慎の殴り合いは、想像以上に勢いを増して流れてきた水に遮られた。
二人とも踏ん張りがきかなくて、転倒する。
「「くそっ、なんで、こんなところに水たまりが、あるんだ。」」
慎と隼人は足元を見た。
いつのまにか、足首近くまで、水が来ている。
「二人が殴りあっているうちに、水嵩がましてきたのよ。」
雪が叫んだ。
「とにかく、すぐに高い所を捜さなきゃ。」
守がバシャバシャと水音を上げながら、先に進む。
他の五人も前に進み始めた。
でも水に足をとられて、なかなか先に進まない。
「芋虫の次は、水。なんかに祟られている見たい。」
雪が泣き言を呟いた。
「文句を言わず、足を動かせ。」
「殴りあってた人に言われたくない。」
「おい、どういう意味だ。」
慎が雪に食って掛かる。
「別に。」
雪もツーンと答えた。
今にもケンカが始まろうとした時、守が歩みを止めた。
「どうした守?」
立ち止まった守を、後ろから郷が覗きみた。
「ヒェー、うそだろ。」
雪と慎が、郷の背中越しに、前をみた。
「「なんでこんな所にでる(んだ)の?」」
二人は声を揃えた。
「どうした(の)。」
最後尾にいた隼人と雪も、二人が見えるように退いた慎と雪に変わって、前を見て、言葉をなくしている。
「「なんで、ここに滝がある(の)んだ。」」
六人の前には下に勢いよく流れる滝があった。
かなり下方に湖らしきものが見える。
「おい、まさかここを降りるしかないのか?」
郷がいやそうに呟いた。
「足元の水を見ていると、このままじゃ、そのうち流されそう。」
雪が呟く。
「降りられそうな、とっかかりとかないのか?」
隼人が一番前にいる守に聞いた。
「ここ、断崖絶壁の中間地点見たいで、とてもそんなもの見当たりません。あっても、素手では、降りれそうにないですし、仮に降りれたとしても、途中で、もし手を滑らせれば、逆に、壁に叩き付けられて、一巻の終わりです。」
五人は生唾を飲み込んだ。