3.暗闇につづく道
「この階段、何段か最初の段が抜けているんだ。たぶん、さっきの音は、そこに慎が落ちた音だと思う。」
隼人は、南にろうそくを渡すと、穴が空いている所を避けて、その先の階段に降りた。
「南とみんなは、このままここで待って・・・。」
「隼人君が行くなら、私も行くわ。」
南はそう言うと、後ろにいた雪に、ろうそくを渡した。
「わかった。南、足元に気を付けて。」
隼人は、南に手を貸すと、抱き上げて、自分の隣に降ろした。
それを見ていた雪が、逆に南にろうそくを渡すと、ゆっくり足を出して、南の隣に降りた。
あとの二人も同じ要領で降りる。
「結局、みんなで行くのか。」
隼人が確認した。
「待ってても、しょうがないさ。」
郷が肩を竦めた。
「確かに。」
隼人はみんなが、階段に降りたのを確認すると、先に立って歩き出した。
階段は気を付けないと、所々壊れていて、危ない。
五人は、足元に気を付けながら、大声で慎を呼びながら、くねくねと曲がりくねった、階段を降りて行った。
「慎、どこだぁーーー。」
「稲戸さーん、だいじょうぶ。」
「稲戸くん、生きてる?」
「アホ慎、大丈夫かぁーーー。」
「バカ慎、どこだぁーーー。」
呼びかけながら、五人は階段を降りて行った。
かなり降りると、ろうそくの光が何かの影を映し出した。
「きゃーー。」
南が隼人に縋りつく。
「ヤダ、ばけもの?」
雪が思わず口走った。
五人が逃げ出そうとすると、影から呼びかけられた。
「なにが、ばけものだよ、タクッ。」
「慎、無事だったのか。」
隼人が南の手を離すと、慎に駆け寄る。
「ああ、なんとかな。」
慎は、イテテと呟きながら、立ち上がった。
隼人は慎が大きなけがをしていないか、確かめると、戻ろうかこのまま進むべきか、考え始めた。
先に進むとしても、ろうそくは後三本だ。
階段は、まだまだ先に続いていそうだ。
「もどろう。」
隼人がそう言うと、他の五人も賛成した。
ゆっくり、足元に気を付けながら、さっき降りてきた階段を戻り始める。
「それにしても、よくけがしなかったな。」
隼人が落ちた高さを考えて、慎の悪運の強さに、つくづく感心しながら、呟いた。
「ああ。最初階段を突き破った時には、俺ももう駄目だと、思ったんだが、なんかやわらかいものにあたって、今の所に落ちたんだ。」
「やわらかいもの?そんなものあったか?」
隼人が首をひねっている。
するとうしろにいる守が、突拍子もない声を上げた。
「どうした守。」
守のすぐ後ろから階段を上っていた郷が傍に近寄った。
守は今まで真っ暗だったはずの、前方の壁を指差している。
今まで壁だと思っていたものが、青白い光に輝きながら、もぞもぞと動き出したのだ。
それどころか、壁から天井から、それはぼとぼとと階段の上に落ちてきていた。
隼人が、青白い光に蠢く壁に、ろうそくの光をあてた。
それらは、まさに毛がない芋虫のような生き物だった。
その蠢くものは、今まさに、六人の足元にボトボトと落ちてくる。
キャー ワー ギェーーーー
六人は慌てて、守を先頭に、階段を駆け下りた。
ろうそくは途中で消えてしまったが、うごめく芋虫が発光していて、幸か不幸か足元はかなり明るかった。
どのくらい降りただろうが、唐突に階段がなくなった。
周りをみると、広い洞窟が広がっていた。
それでも六人は息をゼイゼイさせながら、洞窟の奥に向かって走った。
毛がない芋虫は、もういなくなっていたが、生理的嫌悪感が六人を走らせたのだ。
かなり洞窟の奥に来たところで、六人は息が切れて、その場にへたり込んだ。
「もう、だめ走れない、隼人君。」
南がその場にくずおれた。
雪も床にべちゃっとお尻をつけると座り込む。
慎は後ろを振り返って、芋虫がいないのを確かめてから、雪の隣に腰をおろした。
「もういないみたいだぜ。」
慎の一言で、他の三人もホッと息を抜いて、その場にしゃがみ込んだ。
「それにしても、あんなところで芋虫に遭遇するとは、思わなかったぜ。」
郷がブルッと身震いすると呟いた。
「同感です。」
守もしきりに頷いている。
「これからどうする、隼人?」
慎が南を気遣っている隼人に話かけた。
「どうすると、言われても、とにかく一息ついてから、考えるよ。」
「まあ、確かに。」
慎もさすがに、今は動きたくない。
他のみんなも座り込んでいる。
みんなが休憩していると、慎がむくっと起き出した。
「俺、何か食いてぇー。」
慎はお腹をグゥーと鳴らしながら、叫んだ。
「そう言えば、さっき吐いてから、俺も何も食べてないな。」
郷も起き出す。
「あっ、そう言えば、確か。」
雪がポケットから、アメを取り出した。
南・隼人・郷・守、そして慎に一つずつ渡すと、残った二つのアメは、雪が自分で口に放り込んだ。
「あっ、なんてやつだ。自分だけ二つ食べやがって。」
慎はグゥーという、お腹を抑えながら、文句を言った。
「当然の権利よ。持ち主なんだから。そんなに文句を言うなら、返してくれてもいいわよ、稲戸君。」
雪がメガネを拭きながら、睨んだ。
「へいへい、それは失礼しました。ありがたく頂戴します。」
慎はアメを口の中に放り込んだ。
腹いっぱいとはいかなくても、少しは空腹が満たされた気がする。
「よし、休憩終わりだ。先に行こう。」
隼人が勢いよく立ち上がった。