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29.王宮の舞踏会

 慎とアレスがセバスチャンに捕まっている間に、守、郷、雪と慎に、王宮で主催される、舞踏会の案内状がきた。

「うわー。アテナ、どうしよう?」

 雪が届けられた招待状を、しげしげと眺めながら、不安そうにアテナを振り向いた。

「王宮の舞踏会か。四百年ぶりだな。」

 アテナはメイドが置いて行った、紅茶を飲みながら、ぼんやりと窓外を見ていた。

「ねえ、アテナは、出たことあるの?」

「ああ、数えるくらいだが、一応、出席したことはある。」

「どんな感じ? 何が必要なの。」

 雪の不安そうな声に、アテナは紅茶をテーブルに置いた。

「そうだな。改めて聞かれると、私にもよくわからない。なんせ、私が出席したのは、全部、軍の祝勝会を兼ねていたので、服装は軍服だったんだ。だから、雪に教えられるほどの知識が逆にないな。」

「えっ、そうなの。前世も今もそうだけど、アテナは、とても綺麗だと思うけど。」

 雪の言葉にアテナは、ほんのり頬を赤く染めた。

「雪。守護者をからかうな。」

「えっ、別にからかったりしてるわけじゃないけど。ハッキリ言って、日本人の私からすると、アテナって背が高いし、体型もスラッとしていて、実際すっごくかっこいいと思う。」

 アテナは大きな溜息を付いた。

「だから、ドレスが似合わなくて、大変だったんだ。今思えば、祝勝会は全部軍服だったんで、本当に助かった。」

「えっ、そうだったの。じゃ、当時は、どんなドレスが流行していたの?」

 雪が興味津々で、アテナに聞いた。

「雪も知っていると思うが、そうだな。王妃が着ていたような感じのドレスが主流だな。」

「あのやたら着飾った感じのヒラヒラしたドレス?」

「まあ、そんな表現が似合うな。」

「あの感じじゃないと、駄目なの?」

 雪が真剣に聞いてくる。

「さあ、どうだろうか?私が生きていた時代は、そうだったんだが、この間の王との謁見では、違っていたし、今の王宮の流行は、正直わからないな。誰かにその辺を聞くしかないだろう。」

 アテナがそう話を結んだ時、ドアにノックの音が響いた。

 アテナがサッと立ち上がり、ドアに近づくと、雪に頷いた。

「どなたですか?」

 雪が室内から声をかけた。

「セバスチャンです。入室してもよろしいでしょうか、奥様。」

 アテナが苦笑いしながら、雪に頷いた。

「どうぞ。」

 雪の言葉にドアを開けて、セバスチャンと数十人の女性たちが一斉に、部屋になだれ込んできた。

「遅くなりました。準備に手間取り、大変、申し訳ありません。」

「「へっ。」」

 二人は物々しい雰囲気に、ギョッとして、思わず後ずさった。

 アテナが何とか気力を振り絞って、セバスを問いただした。

「セバス、これは何ごとだ?」

「もちろん、アレス様と慎様が、舞踏会当日にエスコートします、奥様方用のドレスの採寸でございます。」

 セバスチャンはそう説明をすると、中年の女性が、彼を押しのけ、雪たちの前に進み出た。

 そして、丁寧に礼をすると、挨拶した。

「私が公爵家専用のドレス職人のエマと申します。必ずや奥様方をこの舞踏会一、いえ世界一、美しく仕立てさせていただきますので、お任せ下さい。」

 彼女はなぜか燃えていた。

「いや、そこまで・・・・・・。」

 アテナの言葉は、エマによって遮られた。

「セバス様。後は私にお任せ下さい。」

 セバスチャンは頷くと、部屋を後にした。

「では、皆様、採寸をお願いします。」

 エマの一言で、傍に控えていた侍女たちが動いた。

 一糸乱れぬその姿は、鬼気迫るものがあった。

「あのー。私はほどほどでいいから。」

 雪が気迫に負け、後ろに下がるが、傍の侍女に捕まった。

「アテ・・ナ・・。」

 雪はアテナに救いを求めるが、すでにその時、アテナも侍女に捕まっていた。

 二人はそれから、半日近く、彼女たちに拘束された。

 夕方近くになって、やっと解放された時には、二人とも全く、身動きできなくなっていた。

『『ドレス職人エマと侍女軍団、恐るべし!!!』』

 二人の脳裏には、この言葉が深く刻まれた。


 翌日の朝に、雪とアテナは、王宮のホールに来るようにと、ガイアに呼び出された。

「どうしたんだ、ガイア。」

 ガイアは珍しく、ヒラヒラのドレスを身に着けて、二人の前に現れた。

「アテナ。正直に答えてちょうだい。舞踏会で踊ったことはある?」

 ガイアが真剣な顔で、アテナに聞いてきた。

「いや、踊ったことは、まったくない。」

 アテナはあっさり答える。

「やっぱりね。良かった。私も実は、踊ったことがなかったの。それで今回。トリアさんに指導してもらうことにしたのよ。」

 ガイアの説明が終わった、ちょうどいいタイミングでトリアが現れた。

「遅くなりました。」

 トリアもいつもと違い、かなりヒラヒラしたドレスを着ていた。

「いいえ、ちょうどいいタイミングよ。」

「よかったです。じゃ、早速、始めましょう。」

「「えっ、もう(やるのか)。」」

 アテナと雪が声を揃えて、叫んだ。

「もちろんです。舞踏会まで、一週間しかないんですから、遅すぎるくらいですよ。」

 トリアは中央にすっくと立つと、ガイア、雪、アテナの順に、ホール中央に立たせた。

「じゃ、私が踊りますから、順番に、私の真似をしてください。」

 最初にガイアが踊り、次に雪、アテナが順に、トリアをお手本に踊る。

 一通り踊りを見てから、トリアは大きな溜息を付くと、拳を握りしめ、決意を新たに、三人に向きなおった。

「お任せ下さい。皆様。私が一週間できっと、全員が美しく踊れるようにして見せます。」

 それから、トリアによる地獄の特訓が始まった。

 ガイア、雪、アテナの三人は、朝から夕方まで、ダンスのレッスンに明け暮れた。

 たまに空き時間があるかなと思うと、今度はドレス職人のエマと侍女軍団に捕まった。

 地獄の日々がつつく中、ガイアが意外なことに、三人の中で一番最初に、難なく踊れるようになり、トリアからOKをもぎ取り、意気揚々とたった三日で、特訓から一抜けを果たした。

 雪もなんとか、特訓開始五日目で、やっとトリアから合格を貰う。

 信じられないことに、一番運動神経が良いはずのアテナが、なぜか最後まで上手くいかず、足掻いていた。

 最終日には、ぎこちないながらも、何とか相手の足を犠牲にすれば、たぶん大丈夫でしょうとトリアが顔を引き攣らせながら、合格を出した。

 でも、雪は隣に立っていた為、彼女がブツブツと呟いている声が聞こえてしまった。

「なんで、アテナ様だけ、運動神経がいいのに、あんなステップになってしまうのかしら?」


 舞踏会当日は、かなりの貴族たちが王宮に押し掛けた。

 雪はそれを王宮の窓から眺めていた。

「アテナ、見て。すごい人よ。」

「ああ、そうだな。」

 アテナは不愉快そうに、紅茶を手に呟く。

 雪は、アテナの憂鬱そうな様子に、思わず笑いそうになり、口元を引き締める。

「以外に、アテナって、気にするのね。」

「なんだ、雪。藪から棒に?」

 アテナが紅茶から、目を雪に向けた。

「だって、アレスの足を踏むのを、気にしてるんでしょ。」

「はあっ、アレスの足?」

 アテナは何を言われたか、わからないという顔をする。

「えっ、違うの? アレスの足を踏んじゃうのを気にして、落ち込んでいるのかと、思ったんだけど。」

 アテナは急におかしそうに笑うと、雪にさっきとは、うって変って、笑顔で答えた。

「まさか、私がアレスの足を踏むのを、気に病んでいると思ったのか、雪。」

 雪は素直に頷いた。

「全く、気にしてないさ。あいつなら、いくら踏んでも問題ないさ。」

 アテナがそう言った、ちょうどその時、慎とアレスがセバスチャンに先導され、部屋に現れた。

 二人は雪とアテナの姿に、思わず見惚れた。

 雪は前と同じような日本の着物に似たものに、今回は赤と金の縁取りが入ったドレスを着て、黒髪に生花を編み込んでアップにした清楚な感じだ。

 反対に、アテナは、体にフィットした細身の黒いドレスに、背中を大胆に、腰までV字カットされたセクシー系でまとめ、髪は片側に結い上げて、光るアクセサリーが、それを優雅にまとめている。

 アレスが思わず、アテナの前で跪いて、彼女の手を取るとキスをして、どつかれた。

「アレス、ふざけるな!!!」

「アテナ。前から思っていたが、俺は嘘は言わん。今のお前は、本当に美しいぞ。だから今夜は、絶対に他の男とは、躍るな!」

 アレスは真剣だ。

 アテナは大きな溜息をつくと、きっぱり宣言した。

「大丈夫だ。私も他の男の足を踏むのは、少々悪いと思うから、今夜は、お前としか踊らん。」

 アレスは疑問符いっぱいになりながらも、アテナの答えに満足すると、サッと手を差し出した。

 アテナが、アレスの差し出された手に、ちょっと迷いながら自分の手を置く。

 アレスはアテナの手を握り返すと、歩き出した。

 雪は二人を見送り、隣に立った慎を見た。

「行く?」

「ああ。」

 慎が手を差し出し、雪が差し出された手に、自分の手を載せると、二人も歩き出した。

 雪が心配そうに、慎に話しかけた。

「ねえ、慎。いいづらいんだけど。」

「なんだ、急に。」

「あのね、慎はダンス踊れるの?」

 慎は何かを思い出して、遠い目をした。

「セバスとアレスに、地獄の特訓を受けた。」

 雪は何も言わず、ただ慎の手を強く握り返した。

「そっちもか。」

「うん、私はトリアさんに教えてもらった。」

「そうか。お互い、今回は苦労したな。」

「うん。」

 二人がしみじみ頷き合っているうちに、四人は会場にたどり着いた。

 兵士に開けられた扉から、中に入ると、一斉に会場にいる貴族たちの目が、四人に集まる。

 ザワリと場が動いた。

 見るとその中に、ひときわ背が高いアポロンが流れるような白いマントと白の上下の軍服を纏い、すぐ隣には、豪華な白いレースの刺繍を施したドレスを着たガイアがいた。

 四人は二人に合流した。

「遅かったな、アレス。」

「まあ。こんなものだ。」

 アレスはアテナの腰に手を回して、しっかりと周囲に睨みを利かしながら、アポロンの質問に答えた。

 アポロンはアレスのその態度に呆れている。

 ガイアも面白そうに、それを見ていた。

 周りでは、他の貴族たちがチラチラとこちらを見ながら、談笑している。

「ガイア様、アテナ様。雪さん。」

 トリアがメリクリンにエスコートされて、ダンス指導の時以上に、ヒラヒラしたドレスを身に着けて、会場に現れた。

「トリアさん。」

 雪はトリアのひらひらドレスに圧倒された。

 似合わなくないが、どちらかというと、巨乳系のトリアには、アテナが今着ているようなセクシー系の方が似合いそうだ。

 雪がそう思っていると、トリアもアテナの着ているドレスを見て、羨ましそうに、眼を輝かせた。

「失敗したわ。今度は私も、アテナ様のようなドレスにする。」

「確かに、今日のアテナは、いつも以上に輝いているわよね。」

 ガイアもアテナを見て、頷く。

「二人とも、その辺で勘弁してくれ。」

 アテナが少し赤くなりながら、二人に抗議した。

 隣では、アテナを褒められたアレスが満足そうに、彼女を見ていた。

 さらに二人は、アレスの反応をおもしろそうに、見ていた。

 少し時間がたって、王家の面々が入場の為、一端、音楽が止まる。

 全員が玉座に向き直った。

 王が王妃をエスコートして現れた。

 次に次代の王子二人が、それぞれの伴侶である王子妃をエスコートし、最後に王女がイト公爵にエスコートされて、ホールに現れた。

 王が玉座に座り、四人の爵位継承の発表をすると、二組の王子と王女が最初のワルツを踊る。

 次に爵位を継承したアテナとアレスが踊り出した。

 雪はハラハラしながら、二人の踊りを見ていたが、雪の予想を覆して、アテナは完璧な踊りを披露した。

『すごい。トリアさんとの特訓の時は、あんなにぎこちなかったのに、うそみたい。まるで別人なんだけど、なんで?』

 チラリとトリアを見ると、彼女も信じられないものを見たと思っているようだ。

 次に、ガイアとアポロンが踊り出した。

 さすがは、ガイアとアポロンのペアだ。

 息がぴったりあっている。

 音楽が3ターン目に入って、最後に雪と慎が踊り出した。

 二人は失敗はしないものの、何というか普通の踊りだ。

 雪がそう考えていると、慎が耳元で呟いた。

「雪、もっと力を抜け。」

 慎がそう言って、雪の腰をくすぐる。

 思わず笑いそうになり、体制が崩れると、慎が雪をグッとホールドして、一気にターンを早め、最後はきれい決めた。

 周囲の貴族から拍手が起こり、その後バラバラと他の貴族たちも踊り出した。

 六人は一通り踊ると、ダンスの輪を抜けて、壁際に移動した。

「ふう、やっと終わった。それにしても、アテナとアレスは完璧だったわね。」

 ガイアがそう言うと、アテナも信じられないようで、相手役のアレスを見つめていた。

「なんで、アレスと踊ると、こんなに踊りやすいんだ?」

「それはアテナ様の運動神経が、良すぎたせいですわ。」

 いつのまにか、傍に来ていたトリアから説明が入った。

「私の運動神経が良すぎる?」

「はい。申し訳ありませんでした。だから練習の時、アテナ様と相手役との呼吸が合わなかったんだと思います。」

「当然だ。アテナの相手は、俺にしかできん。」

 アレスは満足そうに話しに、割って入った。

「いや、トリア。気にしないでくれ。取り敢えず、本番が上手く行ったんだ。それは、トリアがみんなに教えてくれた、おかげだよ。」

 アテナは、にっこり微笑んだ。

 トリアは真っ赤な顔で、うれしそうに笑った。

「アテナ様。そう言ってくれると、がんばったかいがありますわ。」

「そうね。本当に上手くいったのは、トリアのお蔭ね。」

 ガイアも隣で同意した。

 雪ももちろん賛成だとガイアの隣で頷いた。

 結局、六人は、かわるがわる休憩を取りながら、舞踏会を踊り明かした。

 ちなみに一番踊っていたのは、信じられないことに、一番舞踏会に興味がなかった、アテナとアレスのペアだった。

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