2.異世界
キャー。
5人は、南の叫び声で、目を覚ました。
「どうした、南。」
一番最初に飛び起きた隼人が、前の方でうずくまっていた南を見つけ、抱き起した。
すぐに他の四人も南のところにやってきた。
「どうしたの、南。」
雪が南の所にかけよると、心配そうに顔を覗き込む。
「あ・・・・れ、見て。」
南は震える手で、さっきまで乗っていたはずの、電車を指差した。
五人は目を凝らして、前方を見て、唖然とした。
累々たる屍があっちこっちに散乱していた。
それどころか、そのどれもが背中を切り裂かれ、頭を飛ばされて、首がない状態だった。
中には、身体中のあちこちに、矢を突き立てられて芋虫のようになっているものもいた。
雪は思わず、口に手をあてていた。
胃の中のものを吐きそうだ。
他の三人は、後ろを向いて、胃の中のものを吐き出している。
六人は、そのまま放心状態で、この夢としか思えない光景に、ぼっと突っ立っていた。
何分くらいたっただろうか。
遠くから馬の蹄のような音が聞こえてきた。
その音が、だんだん近づいてくる。
風に乗って、それに従って、土煙が見えてきた。
「僕いやな感じがするんだけど。」
守が今にも倒れそうな青白い顔でボソッと呟く。
「早く逃げる方に、一票。」
「俺もそれに一票。」
郷も南に大賛成だった。
「まるで映画の時代劇の場面を思い出すなー。」
慎が場違いなこと言いだす。
「なにアホなこと言ってんだ、慎。」
郷が慎の耳を引っ張った。
イテテテテテー。
今にも取っ組み合いが始まりそうな様子を見て、隼人が割って入った。
「そんなことやってる場合か。早く逃げるんだ。」
隼人はそう言うと、南の手を引っぱって、駆けだした。
後の四人も二人の後に続く。
だが、逃げ出すのが遅かったようだ。
まだ遠くにいるはずの彼らに、なぜか気がつかれたようで、だんだん馬蹄の音が近づいてくる。
六人はせーいっぱい走ったが、女の子がいる上に、相手は馬に乗っているので、すぐに蹄の音が大きくなってくる。
「どうするんだ、隼人。」
慎が先頭を走る隼人に声をかける。
「どうするって、どうしたらいいのか、俺にもわからないよ。」
隼人は南の手を引っ張りながら、答える。
「ねえ、あそこ見て。」
雪が右前方を指差した。
慎が雪の指差した方を見る。
何かの廃墟見たいなものが、右手にあった。
全力で走れば、後ろの連中に追いつかれる前に、隠れられるかも知れない。
「ヨシ、行こう。」
慎が廃墟の方に向かって、走り出した。
他の四人も慎のあとに続いて、走り出した。
何故か見えないはずの追手も、方向を変えてついてくる。
全員がなんとか、追手に追いつかれる前に、廃墟に駆けこんだ。
ハァハァハァハァハァハァハァハァ
ハァハァハァハァハァハァハァハァ
「おい、どうだ。」
慎が、扉近くにいる郷に話かける。
「どうやら、まだ近くまでは、来てないようだ。」
郷は壁に寄りかかると、疲れたように、座り込んだ。
ほかの五人も同じように、座り込む。
「だが、どうする慎。いつまでもここにいたら、外のやつらに、見つかるかも知れん。といっても、外に出ても同じことか。」
隼人はひとり言のように、慎に話しかけた。
「どうするって、俺にもわからないけど、外に出ても丸腰じゃ、どうしようもないし、この建物の中を調べて、何か武器になるものでもないか見てみるくらいしか、思い浮かばん。」
慎がやっと呼吸を整えると、立ち上がった。
隼人も南を抱き起すと、慎の後に続く。
残っていた三人も、そこにいてもしょうがないので、後に続いた。
奥の建物は、外からはわからなかったが、わりと広く、細い廊下が続いていた。
その両脇には、いくつものドアがある。
少し古ぼけているが、かなりがっしりした作りのようだ。
「おい、慎。どこに行くつもりだ。」
ずかずか歩いていく慎に、隼人が声をかけた。
「どこって、一番突き当りの部屋まで、行って見ようと思っただけさ。」
「なにか根拠があるのか。」
「いや、別に何もない。」
「何もないって、お前。なんで何も考えないんだ。」
「別に良いだろ。そんなの。」
慎と隼人が険悪な雰囲気になる。
郷が慌てて、割って入った。
「いい加減にしろ、二人とも。とにかくみんなで、手分けして、一つ一つ、ドアの中、確認すりゃいいだろ。」
「わかった、そうしよう。行こう、南。」
隼人が南の手を引いて、手短な部屋のドアを開けて調べ始めた。
雪と守も手短なドアを開けて、中を調べる。
郷は、息をつくと、慎を小突いた。
「みんな不安なんだ。つっかかりたくもなるさ。」
「わかってる。」
慎はそう言うと、一番突き当りの部屋に、歩いていった。
薄暗い中、慎は忍び足で歩いていった。
郷は突き当りの部屋に歩いていった、慎を見送った後、自分も手短な部屋に入った。
全員が各自部屋を調べていると、突然、轟音が鳴り響いた。
ガラガラガッシャーン
ドッシーン
「うわー、助けてくれーー。」
慎の叫び声に、みんなは、調べていた部屋から飛び出すと、慎が入っていった部屋に駆けつけた。
「おい、どうした慎。」
隼人がいち早く駆けつけると、慎が入った部屋のドアを開け、中に踏み込もうとした。
「待って、隼人君。あぶないわ。」
南が思わず、隼人に縋りついていた。
「南、離してくれ。」
「でも、中、真っ暗なのよ。何があるか、わからなくて、あぶないわ。」
「だが。」
隼人が南を引きはがそうとしたところに、雪が来た。
「誰か、ライター持ってない?」
「雪、隼人君を止めて。」
南の声を、無視して、守が後ろから声をかけた。
「ライターなら、僕が持ってますが、長時間は待ちませんよ。」
「大丈夫、調べてた部屋の中で、良いもの見つけたの。」
守がライターをつけると、雪がろうそくを差し出した。
「ろうそくか?」
隼人が、驚いて、声を上げた。
「ええ、これなら、足元も見えるし、部屋の様子もわかるでしょ。」
「貸してくれ。」
雪は、ろうそく立てごと、隼人に渡した。
隼人は先頭に立って、部屋の中に入る。
南が震えながら、隼人に近づくと、隼人の手に縋りつく。
隼人は、慎重にろうそくで足元を照らしながら、歩き出した。
他の三人も雪、郷、守の順に、後に続く。
「おい、止まれ。」
先頭の隼人が、後ろについて来る四人を、手で制すると、ろうそくを足元の方に下げた。
「かいだんだ。」
「「「「階段!?」」」」
その部屋には、地下に続く、長い階段があった。