26.褒賞
次の日の朝は、とても晴れ渡って、輝いていた。
『うっ、朝日が目に染みるぅ。』
慎にずっと聞かされ続けた、エンドレスお小言のせいか、何だか寝不足だった。
二人とも、結局ソファーに座ったまま、眠ってしまった。
肩がコリコリという音を立てる。
見ると、ベッドではアレスが、フクロウのアテナを抱きかかえた状態で、安眠中だ。
うーん、なんだか二人とも可愛い。
ハッ、こんなこと考えてないで、すぐに、ここから退避しなきゃ。
雪は足音を立てない様に、部屋を抜け出して、食堂に向かった。
食堂ではトリアさんが、朝食の用意をしているメイドさんを監修しながら、待っていてくれた。
なぜかそこには、守と郷の姿もある。
「「おはよう。」」
ふたりは笑顔全開で、にこやかに挨拶してきた。
「あっ、おはよう。」
雪はにこやかに、ほほ笑んでいる二人を見ながら、トリアさんが特別に持って来てくれた朝食を食べた。
『うーん、このパン。香ばしくって、パリッとしてて最高。』
雪は、パンと卵を食べた。
そのうち、メリクリンと宰相が連れだって、食堂に現れた。
誰かを捜していたようで、雪たちを見つけると、こちらにやって来た。
「どうかしたんですか。」
珍しい組み合わせに、守が声をかけた。
「よかった。お知らせしたいことがあったんです。実は今日の午後にも陛下から、今回の件で、お話がありますので、謁見の時間になりましたら、王の間にお越しください。」
三人はギクリとする。
「陛下とですか?また、なんで。」
守がいやそうに、返す。
『『うん、うん。』』
雪と郷も、心の中で頷いた。
「それはその時に、詳しく説明します。それと洋服等はこちらで用意しますので、ご心配なく。では後ほど。」
二人はそれだけ言うと、食事もしないで去って行った。
いったい、今のは何だったのだろう。
「あら、メリクリンたら。また、食べずに行ったのね。まったく。」
戻ってきたトリアさんが、ちょっと怒っていた。
三人は取り合えず、食べる事にした。
ちょうど、雪が食べ終わった頃、慎が食堂に現れた。
雪はそそくさと、立ち上がろうとして、両肩に慎の手が置かれた。
『うっ、力強すぎ。立ち上がれないじゃない。』
「まあ、ゆっくり食べようじゃないか。諸君。」
守と郷は厄介ごとに巻き込まれたくないと、早々と立ち上がる。
「ちょっ、二人とも。」
「俺達はもう食べ終わったから、部屋に戻るわ。」
郷はそう言うと、サッと椅子を戻す。
「二人はごゆっくり。」
守も郷に続く。
『裏切り者。』
雪は二人を睨みつけた。
「別に遠慮なんか、いらないのにな。」
慎はそう言って、雪に逃げられない様に、通路側に座った。
慎が何か言おうとした時、ざわざわとした声と共に、イーリス姫とイト公爵が現れた。
『『ゲッ、なんであの二人が、こんな王宮の下級兵士しか食事しないような、大衆食堂に来るん(の)だぁ。』』
「おはよう、雪。」
思わず慎は、雪を呼び捨てにしたイト公爵を睨む。
イト公爵は、そんな慎の視線を無視すると、優雅に雪の前に座った。
軍服に身を包んだ人間が多い中、彼は絹のシャツに、黒の上下。
上着の縁には、さりげなく金の刺繍と公爵家の紋章が入った服をさらりと着こなして、にっこり微笑んでいる。
「おはようございます、慎様。」
そのイト公爵の隣には、イーリス姫が、今日は結構、寒い朝だというのに、薄い透けるような布地に、大きな胸を強調するような開いた胸元をさらし、こちらも豪華な金の刺繍が縁取りされたドレスを着て、慎の前に座った。
「「おはよう、ごさいます。」」
雪と慎は、目の前の人物に、声を揃えて、挨拶する。
「あら兄さん。こっちで食べるなんて、珍しいのね。」
実兄に気がついた、トリアさんが、慎たちのテーブルに近づいてきた。
「ああ、たまにはトリア監修の朝食を味わおうと思ってね。昨日のランチもとても美味しかったよ。ねえ、雪。」
イト公爵に急に話を振られ、ドキリとしながらも、雪も同意した。
「はい。本当に美味しかったです。ご馳走様でした。」
「それは、良かったわ。」
トリアはそう言いながら、兄であるイト公爵にも食事を運ぶように、メイドに合図した。
すぐにメイドさんが、イト公爵にはきれいに色どりされた野菜とソースで味付けされた肉を、慎にはボリューム感たっぷりの肉厚の料理を運んできた。
慎はメイドさんに、お礼を言うと、すぐにそれを食べ始める。
イト公爵は、優雅な手さばきで、サラダと肉を交互に食べた。
イーリス姫には、専属の侍女が別の場所から、こことはまったく違う食事を運んできた。
雪は思わず、イーリス姫の行動に、腹が立った。
それじゃ、ここで食べる意味ないじゃない。
雪がそう思って見ていると、彼女の斜め前で、イーリス姫が巨乳を見せびらかすようにプルンと揺らす。
慎が思わず、それを見て頬を赤らめた。
雪の足が慎の向う脛を蹴った。
『うっ。』
慎が思わず雪を見るが、逆に雪に見返される。
『何か言いたいことがあるの。』
慎は無言を貫いた。
『何もありません。』
そうして、朝食は、気まずい雰囲気で過ぎた。
慎と雪が食事を終わって、部屋に戻ると、なぜかそこには、たくさんのメイドさん達が、たくさんのドレスの束を持って、待ち構えていた。
思わず二人して後ずさろうとするが、通路の両端からさらに、たくさんの洋服を抱えた新たなメイドの到着に、退路も断たれる。
「さあ、慎様とアレス様は、こちらに。」
「雪様とアテナ様は、衝立の後ろにお願いします。」
メイドの言葉に雪とアテナは目を丸くする。
「えっ、アテナも一緒?」
雪が思わず聞き返していた。
「はい、王よりそう申し付かっております。特に、アテナ様とアレス様は絶対だそうですので、お支度お願いします。」
雪はアレスを見ながら、アテナに話しかけた。
「アテナ、元に戻れる。」
アテナはアレスの腕の中で、首を雪に向けると頷いた。
次にアレスを見る。
アレスは何も言わない。
アテナは諦めて、アレスの腕の中で、元に戻った。
「アテナ。」
アレスは嬉しそうに、もう一度、強くアテナを抱きしめる。
「アテナ。」
「ちょっと待て。アレス、今は、はな・・・。うっ・・ちょっ・・・。」
アレスはアテナに何度も口づける。
『『『『『『キャー』』』』』』』
周りのメイドさん達から、黄色い視線が、二人に降り注ぐ。
だいぶ濃厚な口づけをした後、アレスはアテナをやっと離す。
アテナはぐったりしながら、メイドたちに衝立の後ろに拉致された。
直ぐに雪も同じように拉致られ、身ぐるみ剥がされ、ドレスを着付けられた。
慎とアレスは二人の悲鳴を聞きながら、かわいそうにと、他人事のように思っていたところ、残っていたメイドたちに囲まれ、同じ目に会わされた。
数時間後、綺麗に着飾った雪とアテナが慎たちの前に現れた。
雪は日本の着物に似た、異国風のちょっと変わった、体の線を際立たせるような黒いドレスに、金の刺繍が豪華に散らされたのを、アテナは逆に引き締まった体が際立つ仕立てで、布地と同じ銀の刺繍が全体に入っていて、さらに、太腿まで、さりげなく切込みが入り、それが歩くたびに生足がチラチラ、見え隠れするタイプのドレスを着ていた。
『『綺麗だ。』』
二人はあまりのことに、意中の相手の姿を舐めるように見つめた。
「似合っているぞ、アテナ。月の女神のようだ。」
アレスがアテナをしきりに褒め、抱きしめる。
雪が慎を見て、頬を赤らめながら、ぶすっと呟いた。
「けっこう、似合ってるじゃないか。」
雪も言い返す。
「そっちもね。」
二人は、お互いに、赤くなって、そっぽを向いた。
そこに、王の間に案内する為の、侍従が現れた。
四人は侍従に案内され、王の間に向かう。
途中、ガイアとアポロンに行きあった。
「郷と守は、どうしたんだ?」
ガイアは溜息を付いた。
「守ったら、緊張するから、変わってくれって。活躍したのは彼なんだから、大丈夫よって言ったんだけど、聞かなくって。」
「はあ、まあ、その気持ち。なんとなく、わかるけど。」
チラッとアレスを見るが、彼はアテナを見ていて、慎の視線には気がつかなかった。
『俺だって、入れ替われるんなら、アレスに押し付けたいよ。』
アポロンはただ黙って、ガイアを見守っていた。
合流した六人は、侍従の案内で、王の間に向かった。
控えの部屋に案内され、しばらく待たされた後、王の間に入った。
そこには、王とその両脇に宰相、それに筆頭魔導士のメリクリンがいた。
王に声をかけられ、六人は顔あげる。
なぜか、王はアテナを見て、目を丸くする。
アレスが、王を睨むと、さりげなくアテナの腕を掴んだ。
『アレス?』
アテナは急に、腕を掴んで来るアレスに、戸惑っていた。
そこに宰相が声を出した。
「陛下?」
「ああ、すまない。話を始めよう。宰相。」
王は宰相に書状を読み上げるように、促した。
「今回の活躍により、そなたらに、領地と爵位を授与する。」
「「「「えっ、領地と爵位!」」」」
「まず守と郷の両名には、四百年前に生前のガイアが治めていた王都近くの薬草が取れる森とその周辺の領地、それにガイアとアポロンが名乗っていた伯爵の称号を授与する。」
ガイアとアポロンが大きく目を見開きながら、唖然としている。
宰相はそんな二人を無視すると次に、もっととんでもない発表をした。
「慎とアレスには、生前アレスが四百年前に治めていた公爵領と公爵の名を、雪とアテナにも四百年前に治めていた男爵領と男爵の名を与える。」
慎とアレスが雪とアテナの扱いにムッとして、何か言おうとして、気がついたガイアの目線によって、アポロンに抑え付けられる。
慎とアレスは思わず、アポロンを睨みつけた。
「後で説明してやる。今は何もいうな。」
アポロンが二人の耳元でささやいた。
ガイアが全員を代表して、お礼を述べると、一同は王の前を下がった。
控えの間を辞し、慎が借りている寝室に戻って来ると、ガイアが盗聴防止の呪文を唱えたので、アポロンが二人の拘束を解いた。
「「なんで、あの場で文句を言わせて、くれないんだ。雪が一番活躍したんだぞ。なら一番いい報酬も雪がもらうべきだろ。」」
ガイアは大きな溜息をついて、説明する。
「だから、雪とアテナが、一番いい報酬を受け取ったのよ。」
「おい、なんでそうなるんだ、アレス。」
慎がアレスに詰め寄って、初めて、アレスは何かに気がついたようだ。
「まっ、まさか、アテナの実家の男爵領って・・・。」
ガイアは頷いた。
見るとアテナは悲しい顔で遠くを見ていた。
雪と慎は二人で、顔を見合わせた。
たまりかねて、雪がガイアに質問した。
「ガイアさん、どういうことですか?」
「アテナの実家は、アテナが最後の後継者で、彼女以外、後を継ぐ者がいなかったの。だから、そのアテナが先の大戦で亡くなった後、アテナのご両親もまもなく亡くなって、結局、男爵家は取り潰され、王家の直轄地にされたのよ。でも、今回、雪の活躍があったので、王家が特別に、雪を守護しているアテナの実家の復興を許されたというわけ。」
「そうか、私が亡くなった後、両親もそんなに長く生きなかったのか。」
アテナは悲しそうに、呟いた。
アレスがアテナの傍に来て、彼女の背を優しく撫でた。
「大丈夫か、アテナ?」
「アレス。」
アテナが背を優しく撫でてくれたアレスに、ギュッと抱き付く。
自分から抱き付いて来たアテナの行動に、アレスは本当に嬉しそうに抱き返した。
『アテナ。』




