25.お仕置き
雪は、アレスに抱き付かれているアテナを横目で見ながら、慎たちを助け起こしに、向かった。
慎が雪に気がつくと、そこから起き上がって、近づいてくる。
公爵は倒れているイーリス姫と兵士を救出していた。
馬から投げ出されたおかげで、みんな無事だったようだ。
馬は転んだ途端、起き上がると、どこかに駆けて行ってしまった。
雪に近づいた慎は、いきなり彼女の頬を叩いた。
「ちょっ、何する・・。」
雪が頬を手で押さえて怒ったが、逆に慎に強く抱きしめられてしまう。
「「あんまり、心配させんな。」」
アレスもフクロウを抱きしめながら、慎と同じことを呟いた。
『「ごめん。」』
雪とアテナは、心から謝った。
公爵は周りを無視して抱き合っているペアを呆れ顔で見ていたが、待っていては日が暮れそうなので、声をかけた。
「そろそろ、王宮に戻りましょう。」
慎は、ハッとして雪を離すと、アレスを見た。
アレスはフクロウになっているアテナを抱いたまま、竜に変わった。
アテナを離す気はないようだ。
「すまん、雪。その・・・。」
雪はアレスが離さないフクロウを見た。
今離せば、アテナがどこかに消えると思っているようだ。
気持ちがわからなくもない雪は、大きな溜息を付くと、慎に手伝ってもらって、竜の背に乗った。
「イト公爵。後は頼みます。」
慎はそう一言いうと、雪を連れて、先に王宮を目指して、飛び立った。
「やれやれ。でもこの馬に三人も乗せるのは、さすがに・・。」
イト公爵は、イーリス姫と兵士を見た。
兵士は肩を竦めると、
「私は馬を捜しながら、ゆっくり王宮に向かいますので、気にしないでください。」
公爵は申し訳なさそうに、兵士を見ると、イーリス姫に手を差し出す。
彼女はそっぽを向くが、歩く気はないようで、公爵の手を借りて、後ろに乗った。
公爵は、他の兵士を向かわせることを約束すると、そのまま城を目指した。
「大丈夫なの、慎。イーリス姫を置いてきて。」
「言っておくけど、一緒に来たわけじゃないからな。雪こそ、イト公爵を置いて来て、いいのか。」
「へっ、だってここに来たのは、アレスを迎えに来ただけだし、一応目的は果たしたんで。」
雪はもごもごと、言い訳を呟いた。
「でも、よくアテナがいるって、わかったな。」
「へっ、それは・・・。」
雪が口ごもったのを見て、慎は気がついた。
「まさか、なんにも、考えていなかったとか・・・。」
だんだん、声に棘が含まれてきた。
「いや、全く考えなかった訳じゃなく、まあ、えっと・・・。」
雪はいい訳が思いつかず、ちょっと焦ってきた。
『やばい、なんか、慎が本気で怒ってる。』
雪は思わず、後ろにいる慎を振り返る。
その時、慎にアレスが声をかけた。
『慎、止めろ。雪のお蔭で、アテナが戻って来たんだ。俺はむしろ彼女の行動に、感謝しているんだ。』
『アレス!』
慎はしぶしぶながら、それ以上、雪に何も言わなかった。
雪は急に黙り込んだ慎を訝ったが、これ幸いに、それ以上何も言われなかったので押し黙る。
ここは”沈黙が金”だ。
気まずい空気が流れる中、王城が見えてきた。
慎は城門前に着くと、下に降り、雪に手を貸して、竜から降ろした。
竜は二人が背から降りると、アレスに姿を戻し、両手でフクロウを大事に抱えたまま、慎たちより先に、王城に入って行った。
郷が、慎とアレスの気配に気がついて、中庭に出てきた。
途中、大事そうにフクロウを抱えるアレスとすれ違う。
思わず、目を見開いて、固まってしまう。
そこに、雪を連れた慎が現れた。
「おい、どうなっているんだ。」
郷が慎に詰め寄った。
「雪が”試しの洞窟”に入って、アテナを連れ帰ったんだよ。」
郷は目を瞠った。
「そうか。そうだな。守護するものが消えない限り、守護者も消えない。」
いつの間にか、郷はアポロンに変わっていた。
「このことは、俺からガイアに伝えておく。」
アポロンはそう言って、城の中に消えた。
「じゃ、行こうか、雪。」
「へっ?」
雪は慎に、南と寝ていた寝室に、強引に連れ込まれた。
中には、アレスにむぎゅうされているフクロウが、全身真っ赤になって、そこにいた。
『アテナ、ヘルプ。』
雪はアテナに助けを求めたが、アテナは真っ赤になっていて、それどころではないようだ。
「じゃ、俺からお小言タイムだ。」
雪は夕食が夜食に変わるまで、慎のお小言をえんえんと聞かされ続けた。
『心配したのはわかるけど、小姑みたいだよ。』
雪は心の中で、呟いた。
夜食の時間になると、目覚めたらしいガイアが、アテナに会いにやって来た。
「アテナ。」
アテナは、フクロウのまま、アレスの腕の中から首だけ、ガイアに向けた。
「よかった。」
ガイアはその場に、座り込む。
「おい、アレス。そろそろ、離したらどうなんだ?」
アポロンの言葉に、アレスは彼をギロリと睨むと、
「いやだ。」
素っ気ない一言で、却下していた。
「いいのよ、アポロン兄さん。アレスの気持ちもわかるもの。それにあんな無茶したアテナにはいい薬になるわ。」
ガイアはホッとした笑顔で、それだけ言うと、アテナの頭を撫でて、寝室を出ていった。
もちろん、さりげなくアポロンもガイアと一緒に出て行く。
『『以外にガイアさんって、怖い。』』
慎と雪はそう思った。




