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23.再挑戦

 二人が帰還の義で帰った途端、ガイアがその場にくずおれた。

「ガイア、大丈夫か?」

 アポロンが慌てて駆け寄ると、ガイアを抱きかかえる。

「ええ、大丈夫よ、兄さん。少し力を使い過ぎただけだから。でもその前に、二人が帰還したことを、・・・。」

 ガイアの話をアポロンが遮った。

「それは俺が二人に伝えるから、ガイアは守の中に戻って、休め。」

「ありがとう、アポロン兄さん。」

 ガイアはそう言うと、守に変わる。

 守はアポロンの腕の中で、目を閉じて、ぐったりと横たわっていた。

 アポロンは、守を抱き上げると、メリクリンの案内で、彼をベットに運ぶ。

 その後、二人の事を伝えるために、雪と慎がいる寝室に向かった。

『アポロン、俺に変われ。』

 途中、郷がアポロンの中で、強く言い張った。

『だが・・。』

『これは俺が伝えるべき事だから、頼む、変わってくれ。』

 アポロンはためらった後、郷に変わった。

 結局、隼人と南の帰還は、詳細な説明を加えて、郷が慎に伝えた。

「そうか。二人は帰ったのか。」

 郷がベッドで寝ている雪を見た。

「雪には、俺が伝える。」

 郷が頷くと、その場を慎に任せて、部屋を出て行った。

 慎はベットで泣き疲れて、寝ていた雪が目を覚ますのをじっと待った。

 雨脚が弱くなって、窓から見える景色がだんだんと暗くなってきた頃、雪が目を覚ました。

「慎?」

 雪が赤い目で、慎を見上げる。

「南と隼人が帰還した。」

「えっ。」

 雪は何を言われたか、理解できなかった。

 アテナだけでなく、南と隼人も居なくなった。

「うそよ。」

 慎は首を横に振った。

「本当だ。」

「なんで、今なの。アテナがいなくなって、南まで。」

「雪。今回の”召喚の義”で召喚された対象が二人だったんだ。だから彼らがここにいると、異界のエネルギーが溜まりすぎて・・・。」

 慎の説明を雪が遮った。

「もういい。わかった。慎もこの部屋を出て行って。お願いだから、私を一人にして、ちょうだい。」

「雪。」

 慎は躊躇したあと、立ち上がると、黙って部屋を出て行った。

「アテナ、南・・・・。」

 雪は毛布を掴むと、ソファーに移動した。

 部屋の窓からは、試しの洞窟がある山が見える。

 雪はその山を見ながら、まんじりともせずに、その夜を過ごした。

 朝になって、太陽が上がってくる頃、部屋に湯気が立った、香ばしい料理を持って、トリアが訪ねてきた。

 それを雪の目の前に置く。

「トリアさん。」

「どうぞ、おいしいですから、食べて下さい。」

 雪の意に反して、お腹が鳴る。

「まったく、なんでこんなに死にそうなのに、お腹が鳴るの?」

 雪はトリアに勧められるまま、その料理を食べた。

 少しホッとすると、最後にアテナが言い残した言葉が、急に気になりだした。

『アレスを頼む、雪。』

 雪はトリアに、アレスのいる場所を聞いた。

 まだ、王宮に戻っていないという。

 じゃ、ずっと、あの状態ままということだ。

 慎は何をしているの。

 雪は、慌ててベッドを出ると、外に向かおうとして、トリアに呼び止められた。

「どちらに行かれるんですか?」

「アレスの所に行きます。」

 雪の答えに、トリアは目を丸くする。

「まさか、試しの洞窟に向かわれるのですか?」

 雪は頷いた。

 アテナが最後に言い残した言葉だ。

 アレスを何とかしなくては。

 どうすればいいのかわからないが、どうにかしなければならない。

 雪が考えているうちに、トリアは何かを決心すると、立ち上がった。

「準備してくるので、着替えて、厩の前に来てください。」

 雪はハッとして、自分を見た。

 外に出るには、いささか適さない格好だった。

 慌てて、洋服を捜して、着替える。

 着替え終わった所で、厩に向かうと、そこにはトリアの兄であるイト公爵がいた。

「この間、乗馬出来ないと、お聞きしましたので、兄を呼びました。」

 イト公爵は立派な栗毛の馬に跨って、そこにいた。

 雪は、トリアに感謝の言葉を伝えると、イト公爵の手を借りて、馬に同乗させてもらう。

「遠慮なさらず、腰に手を回して下さい。落ちるとあぶない。」

 雪は密着すると、慌ててイト公爵の腰に手を回した。

 雪たちが出発しようとすると、トリアが何かの包みを雪に手渡した。

「これは?」

「お腹が空くと思いますので、お弁当と飲み物です。兄の分もありますので、途中で食べて下さい。」

 トリアはそう言うと、後ろに下がった。

「トリアの手作りか。久しぶりだな。では行ってくる。」

 イト公爵は馬上でそう言うと、馬を走らせた。

 二人は街を抜け、森と草原を駆け抜けた。

 草原を抜けた所で、イト公爵は馬を止めると、雪を降ろす。

「公爵?」

「いったん、休憩しましょう。」

 雪は心配そうな顔をしながら、公爵の手を借りて、馬を降りた。

 雪の顔を見た公爵は、メリクリンに聞いた話を雪にしてくれた。

「心配しなくても、大丈夫ですよ。義弟によると、守護を受ける者が死なない限り、守護するものも、いなくならない、そうですから。」

『守護を受ける者が死なない限り、守護するものも、いなくならない。』

 雪はイト公爵の言葉を胸にしながら、そこで昼食を摂ると、再び、試しの洞窟を目指した。

 しばらく行くと、見たことのある建物が目に入る。

 思わず、公爵に馬を止めてくれるように、頼んだ。

「あれは、挑戦の館ですね。」

「挑戦の館?」

 雪の質問に、公爵が答えてくれた。

「ええ、使役するものを得る時に、魔術師たちが入る建物ですよ。でもまだここは、消えていないみたいですね。」

「消えていない?」

 さっきから公爵の言葉のオウム返しばかりだ。

「ええ、義弟によると、どうやら、時間が経つごとに、いろいろなものが、消えているようなのです。現にここに来るまでに、黒騎士に遭遇していないでしょう。」

 言われてみれば、前回はこの辺りで、雪たち全員、黒騎士が乗る馬蹄の音を聞いた。

 雪は公爵の手を借りて、馬から降りた。

 雪が考え事をしている間に、イト公爵は、馬を傍の木に繋ぐと、なんとなく建物に近づこうとして、透明な壁に遮られた。

「公爵。」

「まだ、壁があるみたいですね。」

 公爵はそう言って、透明な壁を触る。

 雪も公爵の近くに行って、その透明な壁を触ろうとしたが、なぜかそれをすり抜けてしまった。

「雪さん。」

 公爵が透明な壁を叩いて、雪を呼んでいる。

 この時、雪は王宮で聞いた、メリクリンの言葉を思い出していた。

 ”魔導士になる者たちが、使役する使い魔を得る為に、あの洞窟に入る”そう言っていた。

 それに、”一般のものは透明な壁に阻まれて入れない。”とも言っていた。

 なら、もう一度、洞窟に入れば、アテナに会えるかもしれない。

 雪は建物を目指して、全力で走り出した。

 思いきって、建物の中に、足を踏み入れる。

 中は前回、入った時と、まったく同じだった。

 真っ直ぐ進んで、突き当りのドアを開ける。

 真っ暗で何も見えない。

『しまった。ろうそく忘れた。』

 雪がそう思った時、雪の手のひらに、炎が揺らめいた。

 雪は炎の光を頼りに、真っ直ぐ進む。

 すぐに階段を見つけて、この間、慎がぶち抜いた穴に落ちない様に、そろそろと足を下に降ろした。

 降り立つと、下まで続く階段をゆっくり降りる。

 前回はここで、たしか芋虫に襲われたっけ。

 雪が、いやなことを思い出した途端、階段にボトボトと虫が壁から剝がれ落ちてきた。

『きゃー、いやぁああああああああああー、まだいたの。』

 雪は悲鳴をあげながら、下まで全速力で階段を駆け降りる。

 階段を降りきると、前と同じように、洞窟に出た。

 青白く洞窟の壁が光っている。

 雪は荒い息を吐きながら、洞窟にへたり込んだ。

 そして一旦、荒い息を整えてから立ち上がると、湖に出る通路を捜した。

 洞窟内は前とは、違って、一本の道しかなかった。

 雪は迷わず、そこをどんどん進んでいく。

 突き当りに着くと、そこは前と同じように滝になっていた。

 意を決して、そこから湖に、飛び込んだ。

 一端、水の中に沈んでから、浮き上がると、泳いで岸を目指した。

 必死になって、岸から這い上がる。

『なんとか、ここまで来た。』

 岸にあがって、辺りを見回すが、前回のような洞窟はなかった。

 雪ががっかりしていると、そこに突然、淡い光が輝いた。

 見るといつのまにか、目の前に、真っ白いテーブルが現れる。

 今回もそのテーブルの上が光っている。

 雪は気力を振り絞って、近づくと、何やらミミズが這い回ったような、文字が描かれたテーブルに触る。

「汝、欲するものを思い描け!!!」

 雪が文字を声に出して読むと、自分の体が光に包まれる。

 と同時に、彼女に話しかけるものが現れた。

 ”われの名を思い出せ、我は汝なり。”

 雪は迷いなく答えた。

 ”アテナ!!!”

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