22.帰還
アテナが消えて、だいぶたった頃、魔法で王宮から飛び立ったメリクリンが現れた。
「ガイア様。ありがとうございます。おかげで、街も王宮も黒い靄から救われました。」
ガイアがメリクリンを振り返った。
「じゃ、もう街には、黒い靄が立ち込めていないのね。」
ガイアの問いかけに、メリクリンは大きく頷いた。
ガイアは大きく息を吐き出す。
王宮の書庫で、この世界の為に、”召喚の義”を行った人物を呼び出して、誰を等価交換にしていたかを確認し、その人物を身代わりにして、この世界を救おうと、確かに、ガイアはあの時決心したはずだった。
しかし、いざ、アテナを犠牲にした、この状況を前にすると、どうしていいかわからなくなっていた。
そんなガイアの心境を慮って、アポロンが、そっとガイアの肩を抱いてくれる。
アレスはいまだに、地面に項垂れたまま、じっとそこにいる。
流石の慎も声をかけられずに、雪を抱きかかえたまま、その場に突っ立っていた。
雪は、アテナに突き飛ばされる瞬間まで、彼女と一緒に、あの黒い竜に飲み込まれる気でいたのだ。
でも飲み込まれる瞬間に、突き飛ばされた。
何が起こったのかわからず、気がつくと、慎に抱きかかえられて、地面の上に立っていた。
雪の目には、アレスが泣き崩れ、地面に項垂れた姿が映った。
『アテナ・・・。』
雪の目に止めようもない涙があふれた。
天気が崩れ、いつの間にか、激しい雨が降っていた。
慎が雪を動かそうとするが、彼女はその場で呆然としているばかりだ。
「ガイア!」
慎はガイアに声をかける。
ガイアは頷くと、アポロンを振り返った。
アポロンは、こくんと頷くと、白虎の姿になる。
「雪。」
慎は雪に声をかけるが、彼の声は届いていないようだ。
慎は、雪を抱き上げて、強引に白虎の背にのせた。
ガイアと二人がかりで雪を支えると、雨脚が強くなった、その場を後にした。
その間中、慎にはアレスの心が、張り裂けそうにきしんでいるのが、ひしひしと感じられた。
白虎は三人を乗せ、王宮を目指した。
メリクリンは、その遥か後ろを魔法を使って、飛びながらついて来る。
王宮に着くと、隼人と南が駆け寄ってきた。
ガイアは駆け寄って来た二人を見て、おもわず目を見開いていた。
『そんな!!!』
南はガイアのその様子には、全く気付かずに、雪の状態に真っ青になる。
「いったい、何があったの?どこか怪我でもしたの。」
「アテナが消えた。」
慎には、それしか言えなかった。
南もそれ以上は、聞いて来なかった。
慎は雪を抱きかかえると、南と雪が寝ている部屋に彼女を運ぶ。
雪は、放心状態で身動き、出来ないようだった。
その雪を南に頼むと、慎は部屋を出た。
「どこに行くんだ、慎。」
隼人が慎に声をかけた。
「アレスをあのままに出来ない。」
慎が行こうとすると、いつのまにか、背後に立っていたアポロンに肩を掴まれた。
「今は、そっとしてやれ。」
慎はアポロンを振り返った。
「ですが・・・。」
「大丈夫だ。守護者は守護するものがいる限り、消えない。」
アポロンはそう言って、慎がアレスの所に行こうとするのを止めた。
慎はアポロンを見て、遺跡の方を見ると、踵を返して、雪がいる寝室に、向かった。
ガイアも慎について、寝室に向かう。
南が入ってきた二人を見て、慎に自分が座っていた椅子を譲ると、ガイアに促され、部屋を出た。
ガイアは南を、隼人とアポロンがいる部屋に連れて行った。
南が入ってくると、隼人が気づかわしげに、彼女の肩をそっと抱く。
ガイアは、備え付けのソファーに座るように、二人を促すと、自分もそこに座った。
「いったい、何があったんですか?アテナが消えたって、どうして。」
南はガイアがソファーに座った途端に、マシンガンのように質問を浴びせた。
「たぶんだけど、あの”召喚の義”を行ったのは、私たちが生きていた頃の王妃だと思う。」
南が息を飲む。
「なんで、また。」
「理由は、まっ、なんとなく、察しはつくわ。十中八九、嫉妬じゃないかしら。だから、等価交換の対象者をアテナにしたんだと思う。」
「王妃の嫉妬が、街に住む人たちを最終的に、あんなにしたっていうんですか?」
ガイアは頷いた。
「そうなるわね。そして、二人には悪いけど、今すぐに元の世界に帰還してもらいたいの。」
「「へっ!!!」」
隼人と南は、意外なガイアの要請に、唖然とした。
「なんでまた、急に、そうなるんですか。」
隼人が納得しかねる声で聞くと、ガイアが答えた。
「王妃が何をするために”召喚の義”をしたか、詳細は不明だけど、召喚したかったのは、どうやらあなたたち二人のようなの。」
「「私(俺)たちですって。」」
南も隼人も唖然としている。
ガイアは説明を続けた。
「このまま、あなたたち二人がここにいれば、本当に、この世界で異界エネルギーが溜まって、不調和を起こし、本当に魔王を呼び起こしかねないのよ。なので、すぐに元いた世界に戻ってほしいの。」
ガイアの要請に、二人はお互いの顔を見合わせた後、頷いた。
すぐに、頷いた二人を見届けると、ガイアはメリクリンを呼びつけ、”帰還の陣”の準備を言いつける。
メリクリンもガイアの説明に、大慌てで魔術師たちを招集すると、準備に入る。
ガイアは守に変わった。
守はなんと言っていいかわからずに、その場に立ちつくした。
「・・・。」
「気にしないで、隼人が一緒だから、大丈夫よ。」
逆に、南から励まされる。
「隼人。」
アポロンから戻った郷が、南の隣にいた隼人に話しかける。
「慎は意外と脆いから、あいつを頼む。」
隼人の言葉に郷が頷いた。
四人が別れを惜しんでいると、帰還の準備が整ったようで、メリクリンが彼らを呼びに来た。
『守。』
ガイアの呼びかけに、守はガイアに変わった。
「あなたたちの二人の”帰還の義”は、直接、私が行います。」
ガイアはそう言うと、メリクリンから渡された、杖を持ち、帰還の陣の前に立った。
南と隼人の二人が大広間に設置された、帰還の陣の中央に立つ。
ガイアは二人に頷くと、魔法を発動した。
眩き光に包まれながら、二人はまもなくそこから消えた。




