20.王宮の書庫
八人が学園から戻ると、王宮では工事関係者が、先日雪が壊した通路と壁を修理するために、走り回っていた。
「なんだか大変そうだね。」
守が白虎から降りながら、ぼそりと呟いた。
「うっ。」
雪がフクロウの背から降りながら、呻く。
「ああ、確かに、俺、死ぬかと思ったし。」
慎が竜から飛び降りながら、雪に嫌味をいう。
「でもなんで、そんなことになったんだ、慎。」
同じく竜の背中から滑り降りながら、隼人が慎に聞く。
「うっ、それは・・・。」
慎が呻き声を上げた。
「確かに、いくら何でも。何をやって、雪をそこまで怒らせたの?」
南もフクロウから降りながら、隼人と同じように質問する。
「うっ、そ・・そ・・そ・・それは・・・。」
慎はうめき声以外、上げられなかった。
「それはだな、どう・・・。」
「うわぁーーー。わぁーーー。」
フクロウから戻って、説明しようとしたアテナの声を、慎は喚いて遮った。
「お願いですから、アテナさん。」
慎は、泣きそうな顔で、アテナに懇願する。
「まっ、深く反省しているようだし、今回は許そう、なっ雪。」
アテナが雪に同意を求めると、
「別に、私には関係ないし・・・。」
雪は不貞腐れたような声で答えて、結局、アテナの言葉を肯定も否定もしなかった。
その時、王宮から宰相が広場に降り立った雪たちの所に歩いてきた。
「これはちょうど良かった。今あなた方に、王からのお言葉を伝えようと思っていたんです。」
「王からの言葉?」
後から来た守が宰相の声に、雪たちのところに歩いてきた。
「はい。たった今、王宮の書庫も閲覧許可が出ましたので、一応、その旨をお知らせしようと思っていたところ、中庭に降りられるのを御見掛けしましたので・。」
「本当ですか、それは?」
「はい、本当の事です。」
「では、今すぐ書庫に、案内して下さい。」
守が勢いよく、宰相に強く迫った。
「そっ、それは、構いませんが。」
宰相は迫って来る守に、気圧されながらも、頷く。
守の早くして欲しいという目線に、最後は先に立って、案内してくれた。
白虎から戻った郷が、それを見て、慌てて後を追った。
隼人も南も仕方なしに、二人に続く。
雪と慎もうんざりしながら、諦めて後に続いた。
アテナは何も言わず。
アレスはただ単に、アテナの傍にいたいので、後に続いた。
王宮の書庫は、宰相室のさらに奥の、細い通路を突き当りまで、歩いた所にあった。
ドアは頑丈な樫の木のようなもので作られていて、重たそうな横棒で、がっしり抑えられ、さらに幾つもの鍵がかけられていた。
宰相は懐から、いくもの鍵が丸い輪に連なったものに、括りつけられたのを取り出すと、一つ一つ開けていく。
全部が外れると、扉の前で警護していた兵士が四人がかりで、横棒を取り除いてくれた。
「こちらです。」
中は薄暗くて、窓も締め切られていた。
何年も締め切られていたせいか、そこは本の匂いと埃の匂いが濃密に辺りに漂って澱んだ感じがした。
守は、締め切られていた窓を開ると、書庫の中にある本を見る。
「ここは、どういう順番で並んでいるの?」
宰相に振り向いて問いただすか、宰相は肩を上げて、首を横に振った。
「私が宰相になってから、一度もこの書庫は、開けられていませんので、全く分かりません。」
宰相の言葉に守は頷く。
「分かった。ありがとう。」
宰相は持っていた書庫の鍵を守に渡すと、書庫を出て行った。
「私は、仕事がありますので、戻りますが、何かあれば、扉の前にいる衛兵に、言いつけて下さい。」
守は頷いて、宰相を見送ると、ガイアになった。
「アテナ、ちょっと手伝ってほしいの?」
ガイアは雪の後ろにいたアテナを手招きした。
「かまわないが、流石に私も、全部の書庫の内容は覚えていないぞ。」
「問題ないわ。後の半分は、アポロン兄さんとアレスが憶えているから。」
何時の間にか、郷はアポロンに変わっていた。
アポロンは頷くと、ガイアの肩に手を置いた。
「何を捜せばいい?」
「アポロン兄さんとアレス、それにアテナには、ここにおいてある中で、”召喚の義”が書いてある魔法書を捜してほしいの?もちろん私も手伝うわ。」
「”召喚の義”が書いてある魔法書か。確かにあるが、結構な数になるぞ?」
アポロンが真顔で応える。
「大丈夫よ、捜しているものかどうかは、南と隼人が確認してくれるから。」
「「へっ、私(俺)たちが。でも、どれが捜しているものかどうか、わからないわ(ぞ)。」」
不安そうな顔で、二人は顔を見合わせた。
そんな二人に、ガイアはにっこりと微笑む。
「大丈夫、あなたたちは私たち四人が見つけた”召喚の義”の魔法書を、触るだけでいいから。」
納得出来ないながらも、二人は頷いた。
「じゃ、始めましょ。四人が見つけた魔法書は、雪と慎が二人の所に運んでくれるわ。」
雪と慎が頷く。
早速、八人は手分けして作業を初めた。
開け放した窓から入る光を頼りに、題名を見ては、本の中を確認して、召喚の義が書かれた魔道書を捜す。
見つかるとそれを雪と慎が、隼人と南が待つ机まで運ぶ。
それを二人が触る。
そして、何も起こらないと、また元の位置に本を戻す。
その作業が、何回も繰り返された。
最初は、本当に何かが起こるのかと思っていたが、そのうちに日が暮れ、流石に光が部屋の中まで入らなくなってきた頃、南が不安そうな声を上げた。
「ねえ、ガイア。本当に、この確認の仕方で大丈夫なの?なんだかあまりにも、何も起こらなくって、不安になって来たんだけど。」
南がそう声を発した時、隣で本を触っていた隼人の手が淡く光った。
「えっ!」
隼人は慌てて、手を離す。
ガイアが光に気がついて、棚から離れると、隼人の傍らに来た。
「もう一度触れて、くれる。」
隼人は頷くと、本に手を触れる。
先程と同じように、青白い光が点る。
「これだわ。」
ガイアはそう言うと、本を手に取って、中を見た。
「そんな。これって、等価交換を伴った”召喚の義”じゃない。」
「それが、何か問題なのか?」
アポロンがガイアの傍に来て、不安そうにしているガイアの背を撫でた。
「問題おおありよ。今も召喚が行われているってことは、この儀式をした時、等価交換が行われなかったということなのよ。」
ガイアは叫ぶようにいった。
「それのなにが問題なんだ。」
アレスが首をひねる。
「つまり、いまだに”召喚の義”が行われているってことは、この義を行った人物が等価交換しようとしていた人物が、その時たぶん存在してなかったんだと思う。だから今だに召喚が続いてるのよ。このまま永遠に、こんなことが続けば、この世界のエネルギー法則が傾いて、この世界自体が崩壊しかねないわ。」
「止める方法は?」
アテナが冷静に、ガイアに尋ねる。
「”召喚の義”を行おうとしていた人物を呼び出して、誰を等価交換にしていたかを確認して、その人物を代わりに、等価交換するしか方法はないわ。」
「ちなみに等価交換された人物は、どうなるの?」
雪がガイアに聞く。
「間違いなく、こんなに長いこと、儀式が行われていたんだから、魂ごと儀式のエネルギーに変換されて、消えてなくなるわ。」
一同はギョッとして、息を止めた。
「でも、その等価交換にされた人物を犠牲にしても、早く止めなくっちゃ。とんでもないことになっちゃう。」
ガイアがそう呟いた時、書庫の扉をぶち破る勢いで、メリクリンが書庫に駆けこんできた。
「大変です。ガイア、助けて下さい。」
メリクリンの悲痛な叫び声が、書庫に響きわたった。




