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19.試しの洞窟とアテナの日記

 雪は慎を手伝うために、二階に向かい、アテナはアレスを手伝うために、三階に向かった。

 アテナは三階で本を捜すアレスに、後ろから声をかけた。

「アレス、手伝おう。」

 アレスは、笑顔で振り向くと、アテナの腰を掴むと、すぐ隣に引き寄せた。

「助かる。こっち側を頼む。」

 アレスがアテナに、自分のすぐ隣から一緒に見てもらうように、彼女に引っ付いてくる。

 アテナは少し顔を赤らめながら、アレスに注意した。

「アレス、くっつき過ぎだ。作業効率が悪いぞ。」

「ああ、そうだな、すまん。」

 アレスは謝りながらも、全くアテナから離れなかった。

 一方。雪は、慎を手伝うために、二階に行くと、そこにはうんざり顔で、本の中身を見ている慎の後姿があった。

「慎、手伝うよ。」

 慎は雪を振り向くと、溜息まじりに頷いた。

 雪は、慎とは逆の側に立つと、一冊ずつ本の中身を見始める。

「なあ、雪・・・おれ・・・。」

 慎が雪に話しかけようとすると、雪がなんでか隣で、小さい声で呟いている。

「なにこれ。アテナって、すごいのね。」

「どうしたんだ?」

 慎は雪が手に取っていた書籍を隣から覗き込んだ。

 本の題名は”戦女神アテナについて”だ。

 内容は、アテナが当時戦った戦の、全記録のようだ。

「ほぼ90%以上が勝利なんて、すごい。」

『確かに。』

 慎はふと、その隣にあるアレスの記録も手にとって見てみる。

 アレスに至っては、戦死するまでの戦が全部、常勝になっていた。

「本当かこれ?」

「ああ、そう言えば、そうだったな。」

 いつのまにか近くに来ていたアレスが、慎が見ている本を、隣から覗き込んで、ぼそりと呟いた。

 慎がギョッとして、アレスを振り向いた。

「はっ、本当に常勝だったのか?」

「ああ、あの時は自暴自棄になって、アテナがいなくなったのを戦にぶつけていたら、そうなった。」

 慎がこいつはまったくと思っていたら、隣で雪が本に掴み掛っていた。

「どうしたんだ、雪?」

 慎が雪に声をかけた。

「なんでか、この本だけ開けないの。」

 雪が本を開こうとやっきになっている。

 慎が雪から受け取って、本を開こうとする。

 でもやはり開けなかった。

「どうしたんだ?」

 本を開こうと、真っ赤な顔で力を入れている慎を、背後から見たアレスが、その本を手に取った。

「魔法でもかかっているのか?」

 アレスが何の気なしに本に手を触れると、本がすんなり開いた。

「なんだ、簡単に開くぞ。」

 二人は顔を見合わせた。

 さっきまで渾身の力で開こうとしたのだが、まったく開けられなかったのだ。

「えっ、そんなことってあるの。でも、その本には、何が書いてあるの?」

 後ろから本を持ったまま、固まっているアレスに声をかけた。

「「アレス?」」

 二人が声をかけたちょうどその時、通路からアテナが現れた。

「何をやっているんだ、三人とも?」

 アテナの声に、アレスが本から顔を上げた。

 なぜかアレスの顔が嬉しさで輝いていた。

「アレス?」

 アテナはアレスが手に持っている本を見た。

「おお・・・お前、その本をどこで見つけたんだ。」

 なぜかアテナの顔が真っ赤に染まっていた。

「返せ、アレス。」

 アテナはアレスから本をとり上げようとする。

「これは俺が貰ったものだ。」

「うっ、でもそ・・そ・そうかもしれないが、だめだ。見るな。」

 雪と慎が二人のやり取りを唖然と見ていた。

 アレスは泣きそうになっているアテナに、妥協案を出す。

「じゃ、アテナが俺にキスしてくれたら、これを返す。」

「なぁにぃ。そんなのずるいぞ。」

 アテナが怒った顔をするが、アレスには通じない。

「出来ないなら、これは俺が貰う、もともと俺のものだし。」

「うっ・・・それは・・。」

 アテナは、言葉に詰まった後、アレスに素早く抱き付く。

 アレスが唖然としているうちに、アテナからキスをした。

『雪、頼む。アレスから本をとり上げてくれ。』

 アテナの懇願するような声に、雪は慌てて、アレスから本をとり上げた。

 いったい何が書かれていたのかと、雪は本の最初のページを見ようとしたが、やはり雪には開けなかった。

『なんなの、この本は?』

 雪が本に気を取られているうちに、アテナはアレスに抱き付かれて、逆にキスされ、慌てふためいている。

 そこにガイアがやってきた。

「何をやっているの?」

「ガイアさん。」

 ガイアは雪がもっている本に気がついた。

「あら、これ。こんなところにあったのね。」

「えっ、ガイアさん。これ、何だか知っているんですか?」

「ええ、これは読者限定用の日記よ。」

「読者限定用の日記って、一体何なんですか?」

「あら知らない。昔流行ってたの。よく恋人とか、夫婦間で、お互いにその相手を思って、書いておいて、どちらかが亡くなった時に、その相手に残す最愛日記なのよ。」

「最愛日記!!!」

「そっ、だからこれを開けられるのは、本人が死んだ後は、その書いた本人が一番愛していた人ってこと。」

「えっ、それじゃ。」

 雪と慎は、思わずアレスとアテナを見た。

 アレスはにんまりすると、腕の中にいるアテナをさらに抱きしめた。

「俺はアテナの最愛の人ってことだ。うんうん。」

「うっ、でも今、私はここにいるんだから、それは、もう返せ。雪いいか、アレスにはぜったい渡すなよ。」

 雪はアテナの真剣な顔に頷いた。

「それにしても、なぜそれがここにあるんだ?」

「あっ、それはたぶん私が死んだとき、ここに本を寄贈したから、それに混ざってしまったんだと思うわ。本当はアレスに渡そうと思っていたんだけど、渡す前に、アレスが、戦死してしまったんで、私の手元に残ってしまったのよ。でも、結局、今アレスが見ることになったのだから、それでよかったのよね。」

 ガイアはご機嫌で笑っている。

 アレスもご機嫌だか、アテナは複雑な顔で、二人を睨んでいた。

「おい、どうしたんだ、みんな。下のテーブルに関係書類を集めたんだ。内容を確認しないのか?」

 アポロンが二階でガヤガヤやっている、みんなを呼びに、上がって来た。

「そうね、取り敢えず、一階のテーブルに集めた関係本を確認しましょう。」

 ガイアはそう言うと、階段に向かった。

 慎と雪もそれに続く。

 アテナもアレスの腕の中から、やっと抜け出すと、雪たちのあとに続いた。

 アレスは、超ご機嫌で一番後ろから階段を降りた。

 一階の中央では、隼人と南が、すでに本の中身を見ていた。

「どう?」

「そうですね。結論から言うと、ガイアさんが亡くなった二年後から、試しの洞窟に記述が変わっているようです。」

「やっぱりね。それ以外には、何か目新しいものはない?」

「はい、ここにはないです。ガイアさんも見ますか?」

 南の問いかけに、顎に手を置いて考えごとをしていたガイアは、横に首を振った。

「いいえ、私が確認しても同じだと思うわ。後は王宮にある書庫を確認すれば、たぶん理由は、特定できると思うわ。」

 ガイアはそう言うと、みんなで本を後片付けした後、食事に行こうと提案した。

 全員お腹が空いていたので、大賛成で協力して本を元の場所に戻すと、ガイアに呼ばれたメリクリンに、学園の食堂に案内してもらう。

 メリクリンは食堂に向かう途中、ガイアにぜひ学園の生徒の為に、講演してほしいと口説いていた。

「そうね。王宮の書庫を確認したら、講演じゃなくて、学園の選抜メンバーに魔法の特訓をしてもいいわよ。」

「本当ですか?」

「ええ、でもあくまでも、王宮の書庫が確認できてからよ。それと学園の選抜メンバーは五人までね。」

「分かりました。すぐに選抜します。」

 メリクリンは目を輝かせて、ガイアの話を聞いていた。

 しばらく歩くと、学園の食堂が見えてきた。

 八人が中に入ると、そこにはメリクリンの奥様であるトリアがおいしい匂いが立つ料理を用意して、待っていてくれた。

「なんで、ここにトリアさんがいるんですか?トリアさんて魔法使いなんですか?」

 南がびっくりして、聞いた。

「いえ、彼女は魔法使いではなく、ここの料理監督人なんです。」

「だって、ここの料理って、おいしくないって、言われるのがイヤなんだもの。」

 メリクリンは溜息をつくと、うれしそうに言った。

「おかげで、学園の生徒になりたいって、子供がたくさん来て困っていますよ。」

 八人は、王国で有名なトリアお手製の昼食を堪能してから、王宮に戻った。

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