1.電車消失
朝7時20分。
騰波ノ江雪は、パンを咥えながら、駅に向かって、走っていた。
もうすでに、電車は駅のホームに入っている。
雪は自慢の大根のように太い足をフル回転させ、スカートがめくれるのも気にせず、全力で走った。
「その汽車まったぁー。」
ブォー
ガッタン
間一髪。
雪は7時23分発の重油で走る汽車に間に合った。
ドアに寄りかかりながら、荒い息を整え、腕時計を見る。
この分なら、終着駅で乗り換える、次の電車に間に合いそうだ。
雪は、ホッと胸を撫で下ろすと、今まで口に咥えていたパンを右手に持って、ムシャパクと食べ始めた。
もちろん他の乗客の非難の目を避けるために、外の景色を見ることは忘れない。
そうこうしているうちに、程なくパンが全て口の中に収まると、次の駅に着く。
時間にして3分。
雪がパンを食べ終わるのには、ちょうどよい。
満腹になった雪の目に、親友であり、その可愛らしさで有名な守谷南が、我がクラス一頭脳明晰な委員長飛来隼人と、後ろのドアから乗り込んで来るのが、見えた。
その他に、同じ高校の制服を来た、高校生が数人乗ってくる。
隼人は、その中の一人に気がつくと、
「おい、慎。少しは俺のことを考えて、死ぬような病気以外は、部活をサボるな。」
「悪い。わるい。」
結構背がスラリと高く、引き締まった筋肉質を持つ慎も、少しは悪いと思っているのか、頭を掻きながら、手すりにつかまった。
「おい、慎。一人でさきに行きやがって。」
かなり大きな体格の郷と高校生にしては、けっこう小柄な守が、少し遅れて、揺れる車内を、二人の方にやって来た。
「わりぃ、郷。」
「僕には謝って、くれないんですか?」
守が慎の首に左腕を巻き付けながら、右手で頭をこずく。
「本当に悪かったって。」
慎は頭の上で手を合わせて、哀願する。
「まあ、いいでしょう。僕は寛大ですから、許してあげましょう。」
四人の間で、爆笑が起こった。
ちょうど、その時である、電車の窓から何かの光が差し込んだ。
その瞬間、突然車内は白い光に包まれた。
そして、電車は終着駅直前の右カーブで忽然と消えたのだった。
その事件は、日本の主要大手新聞・テレビ・ラジオ・それこそ世界中で報道され、調査されたが、その行方は、まったくわからなかった。