16.アレスのお仕置き
アレスはアテナを王宮の外れにある庭園に、引っ張っていった。
「離せアレス。何を怒っているんだ?」
アレスはアテナを抱きよせると、近くの庭園に置かれた、木製のベンチに座る。
「な・・・なんで、私がお前の膝上に座らなければならないんだ。いい加減、離せ!」
アテナはアレスの腕を振り払おうとする。
「なんでさっきは、俺以外の男に、頬ずりなんてしたんだ、アテナ。」
アレスは、アテナの頬に、今度は自分が頬ずりしながら、尋問する。
「うっ、なんでって、ふわふわしてたからしたくなったわけで、別に、他に、意味はない。」
「ふーん、アテナはしたかったから、あんなことをしたんだ。」
アレスは子供のように、拗ねた口調で言うと、アテナの顎を左手で持ちあげると、
「な・・・な・・・なな、むっ・・やっぁ・・・アレ・・ス。やめ・・・。」
アレスは、その体制のまま、アテナの口を塞ぐ。
アテナは真っ赤になって、硬直している。
アレスは気が済むまで思う存分、アテナとキスをすると、彼女の拘束を緩めた。
しばらくしてから、アテナはアレスが、ただ支えているだけなのに、気がつく。
ハッとして、我に返った所で、アレスが宣言した。
「アテナが好きな時に、俺以外の男に頬ずりするなら、俺も好きな時に、気が済むまで思う存分、アテナに頬擦りしたり、キスしていいよね。」
「えっ、な・・・なんでそうなるんだ、アレス。」
アテナは真っ赤になりながら、反論しようとした。
「アテナが俺以外の男に触るんだ、これは俺の当然の権利だ。」
「えっ、いや、それは何かが、激しく間違っているぞ、アレス。」
「いや、アテナが好きにするんだ、俺が好きにすることの、何が間違っているんだ。」
「いや、だからそうじゃなくて。」
「俺はアテナのことが好きなんだ。だからアテナを独占したいし、誰にもさわらせたくない。アテナは、そうじゃないのか?」
思いもかけないことを急に聞かれ、アテナは焦った。
アテナは、アレスの前世を思い起こしていた。
かつての彼は、それこそ、いろいろな女たちと遊んでいた。
その度に、アテナは彼女たちに触れるアレスを、黙って見ていなければならないことに、傷ついていた。
アレスも今、そんな気持ちなのか?
アテナはアレスを見た。
「アレスが他の女に触らないと誓うのなら、もうあんなことはしない。でも、アレスがその約束を守らないなら、私も守らないからな。」
アテナはアレスにも、自分以外の異性に触らないことを約束させた。
アレスは、本当にうれしそうに微笑むと、
「もちろんだ。俺はアテナ以外の女には触らないよ。だから他の女に触らない分、アテナに触れてもいいんだよね。」
アレスはそうアテナに言うと、迫ってくる。
「へっ、私に触る?」
「そうだ。ほかの女に触らないんだ。とうぜんその分、俺はアテナに触ってもいいはずだ。」
アレスは、そう宣言すると、そのままアテナを拘束すると、そこらじゅうに、キスをしまくる。
羞恥のあまりフクロウになって、逃げだそうとすると、アレスはフクロウの羽を捕まえると、そのまま頬擦りを始めた。
アテナは羽をバサバサさせて抵抗した。
「本当にアテナはかわいいな。真っ黒いフクロウなのに、真っ赤になっているぞ。」
『アレス、離せ。もうやめろ。いや、お願いだから、やめてくれ。』
アレスはひとしきり、アテナに触りまくって、気がすむと、自分の胸元に、抱きあげた。
『アレス?』
アテナは、今にも泣き出しそうになっていた。
「アテナ。」
フクロウになっているアテナの嘴を軽くついばむと、
「しょうがないな。アテナに泣かれると、さすがにへこむから、もうしないよ。」
アレスはそう言うと、アテナを抱き上げたまま立ち上がると、雪の部屋まで送っていった。
『雪!』
アテナは雪の部屋に着くと、アレスの腕の中から飛び立って、慌てて雪の元にいった。
雪はびっくりしながら、アテナを抱き留めた。
「どうしたの、アテナ。だいじょうぶ?」
いつもは黒いフクロウなのに、なんでか今は、真っ赤になっていた。
アレスは、雪の腕の中に逃げたアテナを見ていた。
『つい嫉妬して、やりすぎてしまったようだ。』
「雪、俺は慎の所に戻る。」
アレスはそう言うと、雪たちの部屋を出て行った。
アテナはアレスが出て行ったのを見て、やっとフクロウから人間の姿に戻った。
「だいじょうぶ、アテナ?」
雪が心配して、アテナの背に問いかけた。
「大丈夫だ。何も問題ない。」
アテナは真っ赤な顔のまま、俯いて答えた。
雪は、戸棚に行って、紅茶を出すと、カップを温めた後、濃い目に紅茶を入れて、たっぷりの砂糖とミルクを入れると、窓際に立っているアテナに持っていった。
アテナがハッとして雪を見た。
「外、まだ寒かったでしょ。体が温まるから、飲んだ方がいいよ。」
アテナは、温かいカップを受け取ると、少し飲んだ。
「うっ、おいしいな、これは。」
「そうでしょ。アテナはある意味、前世の私なんだら、味覚も一緒だと思って。私もロイヤルミルクティーが好きなんだ。」
「これが、ロイヤルミルクティーか。おいしい。」
雪は、素直に喜んでくれる、アテナを見て、ホッとした。
「雪、アテナさん。よかったら、こっちで一緒に飲まない。」
雪がハッとして、南を振り返った。
アテナの様子が気になって、南の存在を忘れていたようだ。
「そうだな。同性とお茶会なんてしたことがないから、ぜひ、一緒に飲もう。」
アテナは、そういうと、雪の持ってきてくれたカップを手に、南が座っている席に歩いていく。
雪も、慌てて後に続いた。
「これもどうぞ。」
南がここに案内してくれたメリクリンの奥さんであるトリアと仲良くなって、先程いただいたお菓子をアテナに勧めている。
「いただこう。」
アテナはそう言うと、トリアお手製のクッキーを手に取って、一口齧った。
口の中に甘い味が広がる。
アテナの顔に笑顔が戻った。
それを見ていた雪もホッとして、同じクッキーを手に取った。
「おいしい。」
三人はしばらくクッキーをつまみながら、紅茶を味わうと、南が真剣な顔で雪を見た。
「雪、私は元の世界には帰らない。」
「南、私のことを気にしてくれているなら、そんな気遣いは、いらないよ。帰れるなら、帰るべきだよ。」
「でも、雪は帰れないんでしょ。なら私だけ帰れても・・・。」
「私には、もうアテナがいるから、大丈夫だよ。」
「雪!じゃ、もう私は必要ないってことなの。」
いきなり南は怒りだした。
「そんなことをいってるわけじゃ・・・。」
「そんなこといってるじゃない。」
二人の険悪な雰囲気に、アテナは目を丸くしながらも、横槍を入れる。
「二人とも、そんなに深刻にならなくても、いいんじゃないか。まだ、帰れると決まったわけじゃないし。あのガイアの言い方だと、南と隼人が帰れるという成功率は、悪いがかなり低そうだ。」
「「えっ、そうなの。」」
「昔っから、ガイアを知っているが、出来るなら出来るという言い方をするのに、雪に聞いた限りでは、あの時は、かなり曖昧な言い方をしていたようだ。なら理由は明白だ。だぶん帰還の成功率が低いからだと思う。」
「そっ、それじゃ帰還出来ないかもしれないってこと。」
南の問いかけに、アテナは頷いた。
雪と南は、二人で顔を見合わせて、笑い出した。
自分達は何をこんなにむきになって、言い合おうとしていたのだろうと思い当たったのだ。
そこで、一しきり笑い合うと、二人はくるりと振り向くと、アテナの顔見た。
なぜかアテナは、その二人を見て、今すぐフクロウにもどった方がいいと感じたので、直観に従い、すぐに姿をフクロウに変えた。
「ちょっと、せっかくアレスと何があったのか、聞こうとしたのに、なんでフクロウになるのよ、アテナ。」
雪がふくれっ面で、アテナを見ている。
アテナはそっぽを向いた。
南がこの様子を見て、何かを閃いたらしく、雪の顔を見てニヤリとした。
「そういえば、雪。いつから”稲戸くん”呼びから、”慎”って、呼び捨てになったの。」
「ちょっ、何よ、急に。別にいいでしょ、そんなこと。」
雪がさっきのアテナ顔負けの真っ赤な顔で、南の質問をはぐらかそうとした。
「よくないよ。そこは、帰還以上に大切なことよ。」
雪は真っ赤になりながらも、開き直ると、今度は逆に、南に質問し返した。
「南こそ。二人っきりでいたんだから、その間に、何かあったんじゃないの。」
「なっ・・・、なにいってるのよ。」
今度は南が、真っ赤になりながら、口ごもる。
フクロウのアテナが見守る中、二人は寝る間際まで、そんなやりとりをしていた。




