11.試しの洞窟
雪が先に、洞窟に着いた。
『どう、アテナ。もう出て来るかしら。』
アテナは、雪の問いに、集中すると洞窟にある気配を探る。
『後、一時間くらいというところだな。』
『けっこう、かかりそうね。それまで飛んでいるのは大変だし、どうしよう。』
『うむ、飛んでいるのはかまわないが、ちょうと暇だな。』
二人は辺りを見回した。
どこかで待っていようと、きょろきょろしていると、遅れて慎が到着した。
「どうしたんだ、雪。」
「まだ後、一時間はかかるっていうから、どこか適当な所で、待っていようかと思って。」
「適当なところね。」
慎も辺りを見るが、それと言って、何かあるわけではない。
「そう言えば雪は、あちらの世界では、何をしていたんだ。」
アテナがすぐ傍にあった、平らな岩の上を見つけると雪を降ろした。
アテナもフクロウの姿から、戦闘服を着た姿になって、雪の前に現れる。
慎も二人に倣って、そこに降りる。
アレスはさっき慎に人間にしないと言われたせいか、小さい竜になると、アテナの膝の上に、ちょこんと座った。
アテナは、最初、びっくりしていたが、アレスが居座るので、諦めて、膝の上に乗せている。
雪は、アテナとアレスの様子をほほえましく見ながら、岩が突き出ているところに、腰を下ろすと、アテナに振り向いて、話始めた。
「向こうでは、学生だったわ。」
「学生?」
「うん、いろいろなことを勉強してたの。」
「なるほど、こっちでいう魔導士みたいなものか?」
「うん、こっちの魔導士とは違うと思うけど、そうね、アテナのような戦士では、ないわね。」
「戦士か。」
アテナはぼそりと呟いた。
その時、急に、小さな竜になっていたアレスが、アテナの膝から飛び立つと、どこかに行ってしまった。
雪が慎に、アレスはどこにいったのかを目線で問うと、慎はわからないと、かぶりを振った。
しばらくすると、アレスが何かの枝を咥えて、戻ってきた。
アレスはそれをアテナの膝の上に座ってから、アテナに差し出す。
「アレス!!!」
アテナはその枝を受け取ると、考え深げに、赤い実を手に取った。
『よく好きで、食べていただろう。』
「覚えていて、くれたのか。」
『お前に初めてもらったものなんだ。忘れるわけがない。』
アテナはその実をとると、そっと口に含んだ。
「昔と同じだな。甘くておいしい。」
アテナはもう一口食べてから、自分の膝に座っている小さな竜を見る。
そして、実を一粒手に取ると、そっと、口に赤い実を入れてあげる。
竜になっているアレスは、目を白黒させながら、かなりうれしそうに、アテナの手からもらった赤い実を食べた。
その後、アテナは雪を見ると、自分がもらった枝を折り、その赤い実がたくさんついたものを渡す。
雪が恐る恐る赤い実を口にいれる。
「うっ、美味い。何、この果物。甘くておいしい。日本にあった木苺みたいな味だよ。」
慎が物欲しそうに、こちらを見ている。
『アレス、俺も食べたいんだけど』
慎の問いかけに、人間にしてもらえないアレスはそっぽを向いた。
慎はしばらく、考えてからアレスを見た。
『もう人の姿にもどれるようにするから、俺にもくれない。』
アレスはアテナの膝から飛び上がると、またどこかに飛んで行った。
その間、アテナと雪は、おいしそうにさっきの赤い実を食べていた。
しばらくすると、アレスがさっきの赤い実がなっている枝を咥えて戻ってきた。
すかさず、今度は竜ではなく、元の戦士の姿になると、枝の一部を折って、慎に放ると、残りの大部分をアテナに手渡す。
「アレス。」
アテナは恥ずかしそうに、赤い実がついた枝を受け取ると、アレスを見た。
アレスは、一番熟している赤い実を一つ摘み取ると、アテナの口に、持って行った。
「こっちもおいしいぞ。」
満面の笑顔で、アテナが口を開くのを待つ。
アテナは頬をほんのり赤らめて、口を開けた。
アレスはアテナの口に、赤い実を摘まむと、食べさせた。
「うまいか?」
真っ赤になりながら、アテナは首を縦に振った。
周囲に砂糖をまぶしたような、あまーい匂いが充満した。
雪は、そんな二人を呆れ顔で見ている。
慎は、逆に、二人の様子に、まったく気がつかいていないようで、一心に赤い実を食べている。
「本当にうまいな、この赤い実!!!」
慎の感嘆のこもった言葉に、うれしそうにアテナが反応した。
「そうだろう。私の故郷の森には、もっとたくさんあるんだ。あの時もアレスが、そう言って喜んでくれて、うれしかったんだ。」
一瞬、慎の声に良い雰囲気を、ぶち壊されたように思ったアレスも、アテナの言葉に、顔をほころばした。
「アテナ。」
アレスがアテナを抱きしめようと、近づいた。
アテナは近づいてきたアレスに気づく前に、フクロウに姿を変えると、雪を振り返る。
『雪、四人が出てくるぞ。』
雪はアテナの声にハッとすると、慌てて彼女に乗ると、空に舞い上がった。
アレスがアテナを抱きしめようと、伸ばした手は空を切る。
『くそっ、今度は誰だ。』
アレスが悪態をつく。
『ご愁傷様。』
慎は、アレスを振り向くと、アレスは仕方なしに、竜に戻った。
慎も竜に乗り、上空に舞い上がる。
「アテナ?」
『雪、上の二人はどうやら、使い魔も守護者もいないようだ。落ちる前に捕まえるぞ。アレス、左を頼む。』
フクロウはそういうと、雪をのせたまま、右旋回して上に上昇していく。
アレスは、アテナの言葉に頷くと、左旋回して同じく上昇した。
『慎、いたぞ。』
慎が上を見上げると、悲鳴をあげながら、人が落ちてくる。
「助けてくれーーー。」
アレスが自分達を通り越して、落ちていく人間に追いつくと、慎が隼人の腕を掴んで、上手くキャッチした。
「おい、生きてるか隼人?」
そのすぐ後、またもや悲鳴が上がる。
「いやぁん。スカートが・・・見えちゃう。」
南がスカートを抑えながら、上から落ちてきた。
雪が魔法で風を起こして、落下速度を軽減すると、すかさずアテナが南を背フクロウの背中で、キャッチした。
「大丈夫、南?」
南が目をまるくして、雪を見つめる。
二人は最初キョトンと相手を見て、次に叫んだ。
「「よかったぁ。生きてたんだぁ!」」




