10.アテナとアレス
翌朝、アテナの悲鳴で、雪は、目を覚ました。
『なに、何があったの?』
雪はベットから、起き上がると、ソファーでアレスに押し倒されている、アテナを見た。
「えっ、なんでアレスがここにいるの?」
アテナは、アレスの胸を押すと、
「なんで、お前がここにいるんだ?私は夢を見ているのか?」
「アテナが俺を夢に見てくれるなんて。なんて素敵なんだ。」
アレスは、ますますアテナを強く、抱きしめ、迫ってくる。
「いいから、手を離せ、アレス。私に触れるな。」
「なんでだ。昨日は、俺を抱きしめて、くれたじゃないか?」
アレスは、アテナを抱いたまま、耳元で囁く。
「何を言っている。お前を抱きしめた記憶なんかない。」
そこに悲鳴を聞きつけて、慎が部屋に飛び込んで来た。
「なにがあった、雪?」
雪が慎を振り向いた。
「なっ、ななな・・・。」
雪の目に、上半身裸の上に、あちこちキスマークを付けた慎が映った。
雪が慎のキスマークを指差す。
「何やってるのよ。この色魔。」
雪の言葉に、慎は自分の体を見た。
ハッと雪を見た時には、遅かった。
雪の手には、弓と弓矢が握られていた。
「いや、これは、なんというか、その・・・あの・・・。」
慎が何か言い訳しようとしているうちに、矢が放たれた。
慎に矢が放たれたのに、気がついたアレスにより、矢は刺さる寸前に防御される。
しかし、威力までは軽減できず、慎は後ろにあった壁ごと、外に飛ばされていた。
アレスは慌てて、竜になると飛ばされた慎が、地面に激突する前に捕まえる。
『大丈夫か、慎?』
『助かったよ、アレス。』
アレスが慎を咥えて、地面に降りた途端。
怒ったアテナから放たれた炎が、二人を包んだ。
『げっ、なにやったんだ、アレス。』
『雪に弓矢を射られた、お前に言われたくはない。』
そこに騒ぎに気がついたメリクリンが、雪とアテナを諌めた。
「お願いでございます。お止めください。これでは、王城がメチャクチャになってしまいます。」
雪とアテナがハッとして、炎が止まった。
慎とアレスが、防御を解除して、辺りを見回す。
辺りは、どろどろに溶けた土と真っ黒に焼け焦げた跡だらけだった。
慎が一応、危険がないように、溶けた土は、水で冷やして、元の土にした。
後一瞬、防御が遅れていたら、自分もドロドロに、なっていたかと思うと、ちょっとゾッとした。
今後、絶対にあの二人を怒らせない様にしようと、固く心に誓った。
『おい、慎。』
『なんだ、アレス。』
『お前、そのキスマーク、何とかしてから、雪に会うようにしろ。さもないと、さっきと同じことになるぞ。』
『アレス、そう思うんなら、魔法で消してくれ。』
『わかった。俺もまた、とばっちりで、アテナの炎を浴びたくない。協力しよう。』
アレスはそう言うと、一瞬で、慎の胸にあったキスマークを消してくれた。
慎はホッとすると、雪たちがいる部屋に向かった。
雪は、呆れてものも言えない状態のメリクリンに、頭を下げていた。
「ごめんなさい。メリクリン。そのちょっと、力の加減を間違えちゃって。」
「今後、気を付けて、いただければ、構いませんが、二度は困りますので。」
「わかってる。もうこんなことしないから、大丈夫。」
「信じても?」
メリクリンが確認している。
「ええ、大丈夫。絶対よ。」
「なら信じましょう。部屋がこんなでは、使えないでしょうから、こちらで新たな部屋をご用意しますので、今、しばらく、こちらでお待ちください。」
「お願いします。」
そこに慎とアレスが入って来た。
アレスは、さっきとは違って、魔法で服を出したようで、戦士の服を纏っていた。
雪とアテナは、二人を睨みつけた。
「「慎、後で話があるわ。」」
メリクリンが心配して、間に割って入った。
「もう、ここでは・・。」
「大丈夫よ。ここでは、話し合わないから、城外でたっぷり、聞くつもりだ・か・ら。」
メリクリンは雪の言葉に、肩の力を抜くと、新たな部屋を用意するために、去っていった。
雪とアテナは、メリクリンが用意してくれた部屋で、着替えると、朝食を食べて、城を出た。
アテナにフクロウになってもらい、慎も竜になったアレスと共に、しばらく飛ぶと、広い平原があったので、そこに降りた。
「さあ、まずは慎。今朝のことを、説明してもらいましょうか。」
雪がまず、慎に、朝のキスマークの真相を問いただした。
「えっと、昨日雪たちと別れて部屋に戻ると、部屋にイーリスがいて、その・・・。」
慎は黙り込んでしまった。
雪の目が、つりあがる。
「巨乳美女に迫られて、手を出しました。抵抗出来ませんでした。」
「雪、そのなんだ。慎は童貞だったんだ。この年で、あんな巨乳美女に迫られれば、抵抗出来るわけがない。」
アレスが一応、慎の弁護に努めているが、なぜか逆効果のようだ。
そこにアテナが割って入った。
「雪、やってしまったことを責めても、何にもならん。責めれば責めるほど、自分が苦しくなるだけだぞ。」
「アテナ!」
アテナのなんだか、諭すような意見に、雪は彼女を振り返った。
「男は、好きでもない女の方が、すぐに抱けるというしな。」
「そうなの?」
アテナの言葉に、慎とアレスは顔を輝かせた。
「まっ、だからといって、手あたり次第に、抱いていいわけじゃないと思うが。」
アテナの次の言葉に、逆に二人ともがっくりした。
「雪は結局、どうしたいんだ。雪が望むなら、ここで、慎とやりあっても、かまわないが。」
アテナの言葉に、雪はかぶりを振った。
「別にそこまでしようとは思ってないよ、アテナ。もうアテナの言う通り、済んだことだから、別にいいよ。」
雪は、なんだか馬鹿らしくなって、肩を竦めた。
「それより、アテナの方こそ、どうしたいの。」
雪はアテナに尋ねた。
「私は、別に・・・。」
アテナは、真っ赤になって、俯いてしまった。
アレスがアテナに、近づきたくて、手を伸ばしては、躊躇している。
雪がそれを見て、アテナに説明した。
「あのね、アテナ。炎の中で、私、見たんだよ。アテナが国境の戦争で戦死した後、アレスはアテナの敵を討つために、王と王妃に願い出て、兵を上げたんだ。」
アテナが顔上げて、アレスを見た。
「そうか、そんなことをしてくれたのか。」
「そして、その後もずっと、死ぬまで戦場にいたんだ。一度も、王宮には、戻っていないよ。」
アテナは、びっくりしたような顔で、アレスを見た。
「なんで戻らなかったんだ。」
「お前がいない王宮に戻っても、虚しいだけだ。だから、俺はずっと戦場にいた。そこで死ねば、きっとアテナに会えると思ったんだ。会えるのに、こんなにかかるとは、思わなかったがな。」
アレスはそう言うと、アテナを抱きしめた。
「アレス。」
アテナは、初めて声を上げて泣いた。
アレスは、そのままずっとアテナを抱きしめていた。
「もう、昔みたいに、俺を拒絶しないでくれ。俺はアテナのことを愛しているんだ。」
アレスの告白にアテナは、顔を真っ赤にして、答えようとした。
「アレス、私も・・・。」
なかなか言葉が出てこない。
アレスは、自分の腕の中で、真っ赤になっているアテナをギュッと抱きしめる。
「昨日の風呂でもそうだが、アテナは、なんてかわいいんだ。」
アレスは恥じらうアテナを見て、目を潤ませる。
「なっ、何を言っているんだ。」
アテナは、さらに真っ赤な顔で、そう言った後、ハッとすると突然、顔上げた。
そして、拳を握ると、アレスの顎を下から殴りつけた。
アレスが驚愕で、凍り付いている。
「アテナ、なんで?」
「さっきのお前の言葉で思い出したんだ。これは昨夜、私の告白を黙って、聞いたことと、温泉で私と雪の裸を盗み見た罰だ。」
アテナはそう言うと、くるっと踵を返す。
慎がアテナの言葉に、アレスを睨んでいる。
「アレス、そんなことしたのか?」
慎がアレスに詰め寄っている。
「仕方ないだろ。好きな女の胸に抱き上げられて、お風呂に連れて行かれたんだぞ。抵抗出来る訳ないだろう。」
「そりゃ、そう・・・。」
慎はあやうく、アレスに丸め込まれそうになって、ハッとした。
「だからって、まだ俺も見てない、雪の裸を見るなんて、許せん。」
慎はそう言うと、アレスを竜に戻した。
「当分、人間にしないぞ、アレス。」
そう慎が言った途端に、雪に頬を平手打ちされた。
「なんで、私が慎に、裸見せなけりゃならないのよ。」
雪はそう言うと、目線で、アテナにフクロウに戻ってもらうと、昨日出てきた、洞窟に向かった。
「なんで、俺も叩かれるんだよ。」
慎が頬を抑えて呟くと、竜になったアレスに乗って、すぐに雪の後を追った。
『自業自得だ。』
アレスの言葉に、慎もその言葉をそっくり返した。
『お互い様だ。』




