轟け聖剣! マルミアドワーズさん!
友人であるワタユウさんと話の流れで二時間ぐらいで書きました! 久しぶりに投稿するのがそういうもんとかちょっとどうかと思います! ヒドイ!
「くくくく……貴様には我が魔剣の錆となってもらおう」
意味が分からなかった。
夜、たまたまコンビニに向かっただけの俺はなんか変なぐにゃぐにゃした剣を持つ奴に襲われていたのだった。
くっそ……なんだあのぐにゃぐにゃ……斬りにくくて仕方ないだろ……気になって逃げられない……一体なんでぐにゃぐにゃなんだ……。
『くくくくく……』
「くくくくく……」
『「はーっはっはっはっはっは!」』
どこからともなく聞こえる声とハモりだす謎の男。いや、どこからともなくではない――あのぐにゃ剣からだった。
一体何なんだよあれ……ぐにゃぐにゃしてると音が通りやすかったりするのかよ……なんでぐにゃぐにゃなんだ……くそっ、気になって尻餅付いたまま立ち上がれない……。
このままではいけない。なんか気になってその場から動けないが、これはやばい。死ぬ。命乞いをしないと。
「ま、待ってくれ。お前は……お前達は、なんでこんな事を!」
『「はーっはっはっは……は?」』
物凄くタイミングよく、二人分の声が止まる。凄く息が合ってそうだ。
男はぐにゃ剣を持ち上げて刀身を覗き込むようにする。やはり声の源はあそこだ。
「なんでって、ねー?」
『俺ってば魔剣じゃん。ほら、さつりくとかしないと名が廃るじゃん』
「ねー。とりあえず通り魔と化してチョイワルな自分を演出しないと」
『時代に埋もれるサビメンにはなりたくないぜ』
「あ、サビメンって錆びてるメンズね。イッツ魔剣ジョーク!」
『「HAHAHA!」』
どうしようこいつらばかだった……。
「へーっへっへっへ! 剣とか舐めちゃうぜ!」『ちょっ、やめろよ……ま、まぁ後で洗ってくれるならいいけどよ……』とかやっているが、どうやらマジらしい。
街灯が照らす剣の輝きは、なんかぐにゃってはいるものの鋭利である事を感じさせる。ちょっと斬りにくいだろうが俺の首をはねるぐらいは出来るのだろう。近くに人影はない、ご都合主義結界とかマジやめろ。
くそ……俺は……俺は、死にたくない……まだ、まだやらなくちゃいけない事があるんだ……
「ひゃーっはっはっは……は? お、おい、相棒、こいつなんか光ってないか?」
『お、落ち着け相棒! イヤボーンでやられるのも魔剣の美学だ!』
なんだか馬鹿な事を言っているような気もするが、そんな男たちの声も遠く……遠く……聞こえなくなり……そして、心にともる一つの光。
そう、俺はまだ生きてやらなくてはならない事がある。
『力が、欲しいか……』
「ちから……」
もし、それで生き残る事が出来るのならば。
『運命をその手に掴み取るがいい……生き抜き、覇を唱えるために』
そうだ、生き残って……
『叫べ、我が名は――』
「生き残ってHDD消去するためならなんでもやってやらあああああってあれええええええなんか光消えた!」
しゅうぅううーん……って感じに胸の光が消えていく。やべぇ、どうしよう。
だって、心残りがそれなんだもん。もし死後にあれを探られると思ったら……母子家庭で懸命に俺を育ててくれたかーちゃんに申し訳がたたねぇ……。
『……なんかもっと、他にないのか』
心なしかトーンが落ちたような気もするが、女の声がまた響く。なんとか威厳を保とうと頑張っているようだ。涙ぐましい。
「でもなぁ、かーちゃんにあれを見られたらと思うと」
『! そ、そう、それだそれ。それでいこう、かっこよくいこう。あ、魔剣組さんもうちょっと待ってください』
それでいいらしい。魔剣組は「ぎゃーっはっはっは! 気にするなよ、古今東西やってるから!」『も、もう一度だ!』とかやってた。全てはノリ次第らしい。
かっこよく、を心がける。照れてはいけない、魔剣男の方がよっぽど恥ずかしいのだ。きっと誰も通りすがらないのは関わり合いになりたくない声が聞こえているからに違いない。「赤いもの!」『おっと、俺に斬り裂かれた、哀れな犠牲者の血液かな……?』「ひえぇ~震えあがるぜぇ~。イッツ魔剣ジョーク!」とかやってるし。出来れば俺も関わりたくなかった。
だが、やるしかないというのならばやってやる。
「俺は……俺は、かーちゃ……母さんを一人にする訳にはいかないんだ! 力を貸してくれ!」
『凄い、声音まで変わった! 求めてたのはこれですよこれ! ……ごほん、では、力を授けよう。我こそはかつて英雄に振るわれし剣の中の剣、貴き刃、鍛冶の神に鍛えられし剛剣。その名を――』
お、おぉ、すごく盛り上げている。なんだか凄い剣らしい。
凄い剣と言えばエクスカリバーとか……? 草薙の剣、とか和風っぽい奴かもしれない。なんだかワクワクしてきた……魔剣組も『おいおい、これは凄い奴かもしれねぇ! 俺ら、少年漫画の第一話の敵キャラみたいになれるかもよ!』「マジかよ! 今から再登場した時どういう立ち位置になるかかんがえとこうぜ!」と盛り上がっている。
光が胸の中で輝きを増す。夜闇を切り裂き、世界全てを照らすように――それはまさに、本人が言うような貴き輝き。そう、彼女の名は――
『マルミアドワーズなり!』
…………。
「え、ちょっとまって。ま、マル……なんだって?」
『ぎゃーっはっはっは、……え、うん、マジで聞いた事ない』
「ひゃーっはっはっは……よし、俺がスマホで検索してみるわ」
三者三様……ではなく、おもっきし一様な言葉。
胸の光がしゅるるるるぅ~……って縮んでいく。
『実家に帰らせていただきます』
「だからちょっと待ってぇ!」
【轟け聖剣! マルミアドワーズさん!】
朝日が眩しい。
魔剣組の二人が「テンション下がったから今度にするわ!」『ちょっとこぜりあった末に今刈り取るのは惜しいか……とか言って去っていったって事にしとけよ、脳内脚色!』「イッツ魔剣ジョーク!」『「HAHAHA!」』と去っていき、なんかもう俺も買い物に行くテンションじゃなかったので家に帰った。
そうして一夜明けてみれば、ベッドの縁にちょこんと座る人形サイズの女の子。
「どうもおはようございます。マルミアドワーズです、あなたのマルミアドワーズです。天下に名だたる名剣マルミアドワーズです」
覚えられていない事がよっぽど堪えたのだろう――何を隠そう、この小さな子があの輝き、もとい武器なのだ。
金の髪をおかっぱに切り揃えている利発そうな女の子だ。冷静であるようにとしているようだが、つり目がちなその瞳は熱意に溢れている。マの発音にすごく力がこもっていた。
「おはよう、マルミヤさん」
「マルミアドワーズです。泣きますよ」
あくびをしながら起床。今日もかーちゃんは既に出掛けている、食事は自分で用意しなければならない。
「丸いドロワーズさんはご飯食べるのか?」
「マルミアドワーズです。いただきます」
朝食の食パンを少し千切って彼女に与えながらぼんやりと考える。何故こんな事になったのだろうと。でもなんだか魔剣組の事を思うと考える方が馬鹿な気がしてきたのでやめた。
ノリでいいのだ、ノリで。よく見ればアルテマウェポンさんもペットみたいで可愛い。
「マルミアドワーズです。殴りますよ」
着替えて登校する最中、肩に載ったサルマタドワーフさんが軽く説明をしてくれた。
「マルミアドワーズです。私は鍛冶神ヘーペイストスに鍛えられ、なんと誰でも知っている超英雄ヘラクレスの手にあった超凄い剣なのです、覚えてください。そんな訳でスーパー聖剣&魔剣大戦に参加して勝ち抜かなくてはいけないのです」
「大変だなぁ」
「他人事のように言わないでください。私はあなたと契約しなくてはいけません」
きわめて冷静でいるつもりなのだろうが、瞳が不安で揺れているカニタマチャーハンさん。向かい合ってみれば、非常に顔が近い。俺の童貞レンジ(付近1mに女性が寄ると赤面してしまう)を踏み越えてきているが、小さいおかげかそういう事はなさそうでよかった。俺はまだ正常だ。
「マルミアドワーズです。契約してくれるとお得ですよ、なんとすごく身体能力が上がります。あとはあれです、かっこいい。なにせ私はマルミアドワーズですから。伝説の剣ですから」
語尾が少し跳ねていた。気合い入れすぎである。
しかしそこまで熱心にセールストークされようが、俺はぐにゃった剣が気になるだけの普通の男子学生。謎のスーパー大戦に足を踏み入れるつもりはない。家でぐだーっとテレビを見ていたいお年頃なのだ。
肩で時折話しかけてくるサブイボレーズンさんの言葉を聞き流しつつ、俺は校門を通り過ぎ、そのままクラスへと。そして真っ先に彼の元へと向かった。そう、俺が借りていたエロゲーを返す相手の所へ。
「マルミアドワーズです。変な噂を流しますよ」
「よう、佐々木。借りてた終末パンツ大戦を返すぜ」
「あぁ、中村。お前の経国に翻る勝利のブラジャーも中々だったよ……って、肩の上のそれって」
友人でありエロ友である佐々木は俺の肩のサザンカフランソワーズさんを見て……驚くというよりかは、落胆するように顔を覆った。
あまり正常な反応とは言えない気がする。普通なら驚くだろう。俺はなんかもう振り切れすぎて無理だが。
「マルミアドワーズです。変な噂を流すまでもなく変なものやってるあなたたちにドン引きです……」
「おいおい、終末パンツ大戦を舐めるなよ。ヒロインそれぞれのパンツが織りなす人間模様が海外でも高い評価を得ていてだな……っと、それで佐々木、なんでこいつを見て驚かないんだ?」
「いや、冷静にそんな風に言うお前の方に驚きだけど……まさか、お前も魔剣がどうのと言い出すんじゃ……」
佐々木は身を引いていたが、俺も出来ればそっちに行きたかった。俺だって魔剣とか聖剣とか訳分からんけど巻き込まれただけだよ……そんな思いを込めて肩をすくめる。
佐々木は安心してくれたようで、引いた分の距離を詰めてくれた。友人の距離だ。
「正気を保てよ、中村……なんだか知らないけど、僕以外の奴は皆変な剣を持って『聖剣や魔剣持たないとかマジないわー』『ちょっと空気読めてないよね』みたいなよく分からん状態になっているぞ」
「土日挟んだだけでどこまでおかしくなってるんだよ、このクラス」
夏休みで人が変わるというのはよく聞くが、あまりにも早すぎる変化だった。そしてそれを聞いてももうふーんとしか思わない自分も怖い。毒されている。
とにかく、俺はマンマルアローンさんが急にギャグ時空の中で現れたから感覚がマヒしているだけで受け入れている訳ではない。非現実的過ぎんだろ、これ。
「僕達は正気を保とうな、中村……」
「あぁ、お前を一人にはしないぜ……佐々木」
「マルミアドワーズです。その現実逃避がいつまで続くか見ものですね……マスターは私と戦うサダメなのです」
マスター、とか既に俺を持主認定している辺りとても怖い。しかしこれは俺がうんと言わなければ済む話なのだ。
その時の俺は、そう思っていた……
「ぎゃーっははは! 中村とマズルフラッシュを出せぇ!」
『キーッヒッヒッヒ! 中村とマドルチェスーパーボールを出さねぇと片っ端から倒していくぜぇ!』
昼休み中に、あの魔剣組が襲ってきた。窓から。
っていうか、うわぁ。名前知られてるよ、うわぁ。
「ひ、ひいいい……やつは隣町学校最強の魔剣使いじゃないか!」
「奴のひゃーっはっはっはを聞いて生き残った聖剣使いはいないという……やべぇひゃはりだす前に逃げろぉ!」
教室では聖剣・魔剣を連れている皆さんが逃げ惑っていた。先生は「いや、ひゃはとかなんとか……えぇい!」と、常識人っぷりを発揮して刃物を持った不審者に対する正しい対応を取った。生徒たちをその場から避難させたのだ。自分が最後まで残る辺り、教育者の鑑である。
っていうか、俺ってば昨日ひゃははを聞いたような……いや、聞いたか……もしかして聞いてない……くそっ、どっちだ……気になって昼も眠れない……。
「マスター以上にセンスのない間違え方にドン引きです、マルミアドワーズです……マスター、気になっている内に逃げ遅れてしまいましたよ」
「えっ、まじで」
マジだった。
「きょーっきょっきょっきょ! やっぱりなんか主人公っぽそうだったから倒しに来たぜぇ!」
『あとひゃーっはっはっはって言っちまったから倒さないと俺達の沽券に関わるぜぇ!』
あ、やっぱひゃははって言ってたんだ昨日。すっきりした。
すっきりした所で、やっぱり逃げないといけないが……素直に逃がしてくれるとは思えない。ならば俺がとるべき道は一つだ。不本意ではあるが、彼女の力を借りるしかない。
「頼むぜ、マイルズアンコールさん……!」
「マルミアドアーズです。マスターの呼び方は一応音は合っている場合が多いので許せます」
【ここからダイジェスト】
「これがあのぐにゃ剣の真の力……!? あのぐにゃぐにゃしているのは、そういう事だったのか! なんて恐ろしい奴なんだ……!」
「ひゃーっはっはっは! よえぇ! 剣を握って一日目のお前なんかが、俺に敵うもんかよぉ!」
『ます、ター……私を、手放して……あなただけでも……』
「そ、そんな……」
『ぐひーっひいっひっひ! さぁ、このぐにゃってした所を活かした超絶最強奥義を受けるがいい!』
「ま、まる……マルミア、ドアーズ! 俺達は、まだいけるはずだ! 戦える! この足は、まだ動く!」
『マスター……! えぇ、あのなんかぐにゃっとした根性ヒネ曲がった魔剣よりも私の方が強い事を、証明しましょう!』
「行くぞ……俺と、お前の、二人で!」
「ぐ、ぐひぃー!? な、なんだ、この力は!」
『この光は……力強く、そしてなんと暖かい……ふっ、俺達の負けだ。潔くいこうぜ』
「う、うぉー! 俺はまだ負けてねぇーぐひゃひゃひゃひゃー!」
『「くらええええええええ!」』
【ダイジェスト終わり】
長く……激しく……熱い戦いだった。文字数にするとおよそ十万字はいきそうなほどの激戦だった……。
校庭のど真ん中に大穴を開けた俺とマルミアドアーズさんは、その中で起き上がる気力もなく倒れていた。だが不思議と清々しい、この気持ちは一体……
「マルミっ……はい、間違えてません。マルミアドアーズです。ふふふ、不思議ですね、マスターと一緒ならば、どこまででもいけるような気がします」
「あぁ、俺もだよ……これからもよろしくな。相棒」
「あれ、なんかノリで流されてるだけじゃね……?」と頭の片隅で思ったりもしたが、そんな余計な思考はすぐに流されていった。そう、これからの戦いにそのような思想は必要ないのだから。
俺とマルミアドアーズさんの二人でスーパー聖剣&魔剣大戦を勝ち抜く! この世界で、生き残ってやる!
「まずは聖剣&魔剣ワールドグランプリでテッペンめざしましょう、マスター!」
「あぁ! そのためには佐々木の力も借りないとな!」
――数日後、中村は教室で佐々木に向かって「まったく、佐々木は遅れてるな」という事になるのだが、それはまた別のお話。
※続きません