空と休憩と約束
「……ふぁ」
あぁ、つまらん。
ここは上空数千メートル雲の上で、ビエネの首に吊るされた籠の中にいる私は一人……正直暇すぎて暇すぎて眠くなってきた。
「籠って、蓋付きだし……ビエネトールも空も見えない」
視界には、中身が少し減った骨付き肉の飛び出た革袋と自分の入っている籠の内側だけ……。
「何てつまらない空の旅……」
何もすることがないと言うのもある意味疲労がたまると思うし、雲の上で吹きかう風が強すぎて、思い切り叫ばないとお互いの声も届かないものでまったく色んな意味で疲れます。
「マジュネッタァ!!そろそろ休憩しようかぁ!?」
自宅、と呼べるかは分からないけどあの洞窟を飛び立ってどれほどの時間が過ぎたのか……うとうとしていた時間の方が長すぎてあまり覚えていないけど、やっと知らない国へ降り立つときがやって来たらしい。
「了解!!」
あ、ちなみにあの熱地帯はもう通り過ぎたので氷も解けてなくなってしまった。と、言うわけでどこかの国のどこかの町へ食事をとりに行くらしい。
「……普通、あんなに大きな竜が町へ降りたらパニックになると思うんだけど」
大丈夫なのだろうか?
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どぉしん、とか、ずどぉん、とか……降りた時の衝撃音はそんな感じだったと思う。
「……おぉい、ビエネトール?早く出たいなぁ」
返事はない。
「放置……?」
もう少ししたら自力で這い上がって出てやろうとか考え始めた頃……何かが籠にぶつかった。
しかも何か話し声も聞こえて来たし、え?ビエネトールだよね?
「……」
どきどきと波打つ心臓を押さえ上にある籠の蓋が開くその瞬間を待つ。
すると以外にも簡単に、かぽっと気の抜ける音が聞こえたかと思えば……籠の中にはポカポカと暖かな日差しが差し込んできた。
「マジュ、待たせてごめん。今出してあげるからね」
……散々待たせておいて、マジュ?そんな呼び方を許可した覚えは……
「オッサン、その呼び方」
「あぁ、前にも言ったと思うけど僕ら以外の生物が存在している空間では」
話しながら器用にも私の両脇に手を添えて引っ張り上げるオッサンは、わざわざ視線を合わせ
「絶対に、名前を呼んではいけないよ?」
「……あ、うん」
私は、文字通り地に足のついていない状況のまま……ゆっくりと頷いた。
「誰に聞かれるかもわからないし、外では愛称で呼び合うことにしよう。名乗るときは、氷竜の妻ですと言えば良いからね」
あ、はい。
オッサンの妙に真剣な眼差しを向けられ、私は反抗など出来るわけもなく。
「じゃ、これは夫婦の約束だからね?」
「……はい」
そう返事をしてやっと、私の両足は大地を踏むことが許されわけだ。