準備
「ふぉぉっ」
今、私の目の前には青銀色の竜が座り込んでいる。とても大きくて、恰好が良いけど……やっぱり想像していた通りお腹周りがぷよぷよしていた。
「マジュネッタ?」
巨大すぎて見上げることはもう諦めた。と言うより……飽きた。
「オッサン、じゃなくてビエネトール。持っていくものはこれで良いんでしょ?」
私が乗り込むことになった籠は、真っ白な植物が細かに編み込まれた二畳くらいの籠で。ビエネ曰くとっても丈夫で、買ったら実は高価ならしいけど、私が来なければ洞窟の奥深くでいつまでも埃にまみれて眠っていたらしいのでまぁ良しとしよう。
「うん。マジュネッタの食糧は生ものが多いからあまり持っていけないし……途中で補給しながら行く予定だしね」
何かの革紐、と言っても竜サイズだから私にとったらそのままマントにもできる横幅の物を籠にセットしてビエネトールの首へ下げて中身を確認すれば。
……燻製にされた肉が小さな皮袋に押し込まれ、骨の一部が袋の口から飛び出ていた。他には特になし。いつもは藁の上で2人丸まって寝ていたから毛布らしいものもないし、水はビエネトールの氷を少し分けてもらえば良いわけで。
「じゃあ、後は氷ね。どうやって背中に背負うの?」
顔の位置が高すぎて見上げるのはもう飽きたけど、首から下はいつも通りぽっちゃりしていて可愛い。大きな爪の生えている手も足もぷにぷにだし、お腹周りは他の部位と違って色が少し淡くて尚且つさらにぽちゃぽちゃしているのだ。そこから背後にまわり尻尾を見れば、しっぽの先が何故か知らないけど青銀どころか物凄く濃い藍色をしていた。背中とかは普通に青銀色なのに、変なの。後は背中に生えた羽があるけど、ここはまだ洞窟内であまり派手なことをすると下の方で雪崩になるらしいから……そこはまぁ、止めといた。
「一応竜族の仲間が、僕の五百八十六回目の産まれ月に死んだ曾曾大爺様の竜の皮で作ってくれた大きな革袋があるから、それに入れて行こうと思うんだ」
「……へぇ」
オッサンが何歳かなんて今更だから、曾曾大爺様の皮?で出来てるっ事に驚けばいいのか……何なのか。とは言っても、私が遠い目をしたのは一瞬で、脳内はさっさと切り替わる。さっさとその巨大な皮袋に氷をたんまりと詰めて出かけましょう!!善は急げって言うしね?
「じゃあ、先に僕が外に出て皮袋に氷を詰めたらマジュネッタを呼ぶからね」
「はいはい」
私は静かに、のっしのっし、とその親戚の御爺様竜の皮で作られた革袋を背負い洞窟の外へと歩いて行くビエネトールを見送った。