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「……ねぇ、その知り合いの住んでる街って遠いの?」
新婚旅行へ行くと決まってからと言うもの、私は毎日同じような事ばかり聞いている気がする。
「うぅん、そうだねぇ。人間の足で行くととっても遠いらしいけど、僕は歩いて行ったことがないからなぁ……」
オッサンはのんびりと、私をその膝に座らせて背もたれ代わりにその柔らかいぽっこりお腹に体重をかけられても、甘い口調で何度となく繰り返される質問にも呆れることなく答えてくれる。
「ふぅん?歩いて行かないって……じゃあ竜らしく飛んでいくの?」
ぷにぷにしたオッサンの手のひらを悪戯しながらそう聞けば、
「そうなるかなぁ?でも、実は僕……暑い所が苦手なんだ」
神妙にそう告げたオッサンに、私は笑う。
「ふふっ、氷竜なんだから当たり前でしょ?なに?もしかして旅行先は暖かい地方なの?」
「えぇ?!知っていたのかい?さすが僕の奥さんなだけはあるねぇ」
うんうんと、驚いたのもつかの間で全身のお肉を揺らしながら嬉しそうに頷くオッサン。
「ねぇ、だから、暖かい所なの?」
「ん?そうでもないけど、行く途中に国を幾つか跨いで飛ぶからね。その中の一つに気温がとても高い国があって、そこを飛ぶ時は氷を大量に食べないと体温が保てないかもしれないなぁ」
……え?それって私はどうすれば良いの?思わずオッサンの膝の上で固まってしまった。
「だから、マジュネッタは僕に氷を食べさせて欲しいんだけど……駄目かなぁ?」
「口って、オッサンの口に?竜の口に?」
どっちも同じじゃないか!!と分かっていても、人型のオッサンしか見たことないし……飛んでる竜の口に氷入れるって。
「オッサンって、ぼくは」
オッサンはオッサン呼びが気に入らないらしくむにむにした唇を無理してタコの様に尖らせて見せたので……なんだか可愛く見えたのでしぶしぶ名前で呼んであげる。
「はいはい、ビエネトールね。それで、飛んでる途中で竜の背中に乗ったまま口に氷を放り込むなんて芸当私には出来ないから」
「ん?背中に?いやいや、背中には乗れないよ?危ないからね」
んん?!思わ眉間に皺が寄る私。
「背中には氷を背負う予定だし。移動するときは僕の首に籠を下げるから、それに乗って貰おうと思っていたんだけど」
首に、籠?氷を背負うって……食用?
「……ふぅん、まぁ、安全なら何でもいいや。それで?いつ行くの?」
楽しい新婚旅行の話をしているときに面倒事は置いておこう。数ある疑問も、今のところはとりあえずどこか遠いことろに放り出す。聞きたいことは沢山あるのだし、オッサンの食用氷の事まで聞いている暇など私には無いのだ!!