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このオッサンが実は本物のファンタジー系氷竜で年が千年くらいだって事実は実のところ全く以て信じがたいけれど、まぁ自分自身が地球と言う異世界の星からやってきたらしい以上認めざる得ない。
「これぞまさに、事実は小説より奇なりってやつよね」
そして、氷竜はその名の通り氷を操り、尚且つとてつもなく寒い土地に住む生き物らしくて、しかもオッサン自体が氷点下の体温しかないと言うとんでもない生物なわけだ。あげく、竜って言う生き物は元を正せば爬虫類みたいなものだから他の竜たちは皆、比較的暖かい地方を住処としていて、仲間と言える生物が今の今まで存在していなかったいい歳した引きこもりのオッサンは寒さを物ともしない私を見つけこれ幸いと、指輪の交換ならぬ名前の交換をしたわけだ。
「……ねぇ、オッサン。私は別に此処で一人生き残るすべなんて持ってないし、むしろ雪山に置き去りにされたらたどり着くのは凍死だけだから、拾われた命だし結婚しても良いけど」
文句どころか、その柔らかな腹に毎日抱き着く口実が出来て、尚且つ衣食住を賄ってもらえるわけだしむしろ感謝だけど。
「でも、オッサンは良いの?私みたいな普通の人間が嫁に来たところで悪いけど料理へただし、竜って卵生でしょ?卵なんて産めないし、何にも出来ないけど」
オッサンの柔らかな身体をソファ代わりに背中を預けてその太ももに腰掛け、後ろに首をひねって問いかける。
「マジュネッタ、折角名を付けたのだし出来ればビエネトールと呼んでくれないかい?」
此処へ来るまでの憐みの眼差しは一体なんだったんだ?そう問いただしたくなるくらい今現在私を見つめるオッサンの眼差しはとてつもなく甘い。
「……ビエネトール」
ぷにぷにと可愛いオッサンの両手を掴んで遊びながらしぶしぶとそう呼ぶ私。
「大丈夫、子供は母親が一番産みやすい姿でこの世に出てくるんだ。それに、僕の主食は氷だし」
……氷食うの?外にあるやつ?
「そもそも竜の特徴は大きく分けると三つある。一つ目はとても強いと言うこと。二つ目はとても愛情深いと言うこと。三つ目はとても寿命が長いと言うこと。僕等は長命種でだからなのか子が出来ずらくてね……何千年生きても、生涯子に恵まれない夫婦もいるくらい。だからこそ、自分の奥さんや旦那さんをとってもとっても大事にして、ありったけの愛をたっぷりささげて生きるんだよ。子供が出来ればそれこそ夫婦だけじゃない、竜種全体のお祭り騒ぎでお祝いされて、皆が子育てを手伝ってくれるし」
「ふぅん」
「それに、僕等って遥か昔から伴侶をどろどろに甘やかす傾向にあるんだ。」
……どろどろ?
「だから、マジュネッタが何もしたくないなら何にもしなくて良いよ?」




