土竜と氷竜
「さぁて、さて。氷竜よぉ、何時までも黙りこんでねぇで何とか言ったらどうだ?ん?そんな心配しなくっても、今頃は上でもカミさん同士上手くやってんだろうよ」
山のような巨体に厚い筋肉。
只でさえ暑苦しい雄は、その身に合う人間の顔ほどもあるジョッキを煽り酒を飲み干した。
「……」
ここは客間。
しかし、ソファもなければテーブルもない。ただ白い壁と扉の無い開放的な作りの部屋で、敷かれた絨毯の上、向かい合い床に座り、クッションに寄りかかる男が二人。
「おめぇ、嫁さんこさえやって来たからにゃその無愛想も少しは直ったのかと思ったがなぁ……」
深緑の髪を短く刈り上げ、濃いチョコレート色の肌に絹で織られた肌触りのよいミルク色の布を巻き付けた三十後半程の野性味溢れる大男は、目の前の昔から変わらず全体的に丸い旧友を見つめ、改めて小さく……ため息を吐いた。
「氷竜よぉ、返事くれぇしてくれ。おらぁ独りで酒盛りしてんのか?わざわざ大事なソーニャと離ればなれでよぉ」
ちらりと、二階に視線をやり
「だんまり決め込んだって数日は戻ってこねぇんだぞ?それまでずっと石みてぇにそこにいるつもりか?」
「……土竜、少しは口を閉じたらどうだい?僕が、この部屋を、永久凍土に、する前に」
無表情、視線さえこちらに向けようとはせず二階の一室……俺らの妻がいる部屋の方向に向いたまま、だと言うのにわざわざ言葉を切りながら脅してくる腹黒竜に、さすがの俺も酒で濡れた唇を引きつらせた。
「……おめぇな」
やっと口を開いたと思ってもこの良い草じゃあ、俺が珍しく頭を抱え込んでもしかたあるめぇ?それにしても、全く以て、久しぶりに会ったって言うのにこの男は何も変わりゃしねぇなぁ……
「ま、良いさ。嫁とは上手くやってんだろ?なら何も言わねェよ」
例え竜同士と言っても、現在進行形で見た目はただの人間。しかもいい年した肥満系のオッサンである奴を視界に入れたまま酒をかっ食らうのはかなりキツイもんがあるから視線をずらし、静かに意識を二階に集中すれば……すぐに感じる事が出来る最愛の伴侶の気配に、気分を良くした俺はまた酒を煽った。
階下でそんな冷たいお話合いがなされていたとはつゆ知らず、私たちは二人、世間話に勤しんでいた。
「へぇ、ソーニャさんと土竜さんって仲が良いんですね」
「お休みの日は二人で良くお買い物に行きますの。宜しければ、今度マジュ様もご一緒にいかがですか?」
「あぁ、でも私の場合前の街で酷い目に合ったし」
「まぁ、ではまだ……されておられないのですね」
小声で囁き、一瞬眉をしかめたソーニャさんを見て、私は急いで問いかけたけど。
「……え?何をデスカ?」
「あら、お気になさらないで。何でもありませんの」
当然のようにスルーされた。
……いやいや、お気になさりますから!!