婚姻す
「ん?」
ぽちゃぽちゃしたその暖かな腕の中で眠りについた私が目覚めたのは、またも見知らぬ場所。暗くて良く見えないけど、多分……洞穴とか洞窟とかそんな感じだと思う。
「目が覚めたかい?」
寝転がったまま横向きになれば、そこにはあのぽっちゃり系のオッサンがいた。しかも物凄い近い所で私を覗き込んでいたので……とりあえず抱き着いてみたけど何か?
「……とうっ」
「うわぁっ」
丸いオッサンは私のタックルに耐えられず、あえなく二人で床を転がる羽目に……。
「い、いたたっ。……氷竜の僕に抱き着くなんて、やっぱり君は人間の手には負えなくて捨てられたんだろう?」
「はぁ?!」
氷竜って……オッサンは見た目的に人間だと思うのだけど?
「……君、人間の村娘にしては柄が悪いね」
「放っておいてください」
ふんっと鼻息を荒くしてもその魅力的な腹からは意地でも離れない私の様子を見て、オッサンは一つため息を吐き……
「僕は氷竜だから冷たいだろう?抱き着いていると身体に悪いよ?」
本当に心配げに声をかけて来たので、腹に貼りつけたままでいた顔を上げてオッサンを見上げる。
青い髪に同じ色の瞳と眉をハの字に歪めて、たぽたぽした顎肉を三重に押しつぶしてこちらを見下ろすオッサンは……可愛い。
「あのねぇ、私は地球って星の日本って国のとっても寒い土地出身なの。オッサンが何者でもどうでも良いし、冷え性の対策ぐらい自分で出来るから大丈夫」
「……ちきゅう?にほん?」
あぁ、やっぱりな。聞いたことない単語を耳にしたって顔のオッサンを見て、何となく諦めた。今は、そう……この暖かなぽっちゃり系の柔らかな腹があるし、顔を埋めてじっとしていると安心して、何となく何とかなるような気がしてくる。
「あ、そっちは気にしないで。とにかく!今言いたいのは寒さには強いですってこと」
そう言いきった私は、とりあえずじっとオッサンの反応を待つ。
「……僕に抱き着いていても寒くないのかい?」
「ん、むしろ暖かいし」
すると、オッサンは突然私をそのぽっちゃりしたまぁるい腹で押しつぶすことに決めたらしく視界が真っ暗になりついでに息が……。
「……むぐぐっ」
「なんて幸せな日だろう!!君が村人の手に負えない子で本当に良かった!!捨てられて万歳だよ!!」
何言ってんだこのぽっちゃり系のオッサンが!!第一に、私は別に捨てられてないし!!捨てられて万歳ってなんだよ!!
「殻から生まれて幾百年!!……あれ?もう千年ぐらい経ったかな?うぅん、まぁ良いや。兎に角」
ばっと手を離されて、これ幸いと私は思い切り息を吸った。
「君の名前、今日からマジュネッタだから」
とにかく酸素不足の肺に必死で酸素を吸い込んでいた私には、知らないうちに新しい世界で新しい名前が名づけられましたトサ。
「って、なんで?!」
ぶんっと音が聞こえそうなぐらい勢いよく顔を上げると、そこには当たり前だけどオッサンの顔が……
「マジュネッタ、僕にも名前付けて」
その名を呼ばれて深い青の瞳に見つめられていると、何故だか知らないけど、不思議と知らない名前が脳裏に浮かんで……気が付けば私は自然とその名を口にしていたらしい
「……ビエネ、ビエネトール」
「うん、じゃあ僕は今日からビエネトールだ。あ、他の生物に名乗るときは氷竜が妻と名乗るんだよ?マジュネッタの名前は僕だけが知っていれば良いんだから」
……いや、だから何がどうしていつオッサンの妻になったんでしょうね?