酒場
「ねぇ、ここって」
見渡せば、昼間から酒に溺れる酔いどればかり……ってこの世界に来て初めての外食なのになんでこんな酒臭い店なんだよ!!
「うん、酒場だねぇ」
うん、じゃなくて!!全く、大人しく着いてくるんじゃなかった。残念すぎる!!と私が誰から見てもこれは機嫌が悪そうだと分かるほど苛立っているとオッサンは困ったようにこう言った。
「竜とその伴侶が入れるお店は少ないみたいなんだ。国民の安全の為、だってさ」
……要するに、オッサンのせいだってわけね?!ふぅん?そう?
「じゃあ、私一人なら問題無いじゃん!!」
……しまった。お腹が空いていたとはいえ、今のは完全なる失言だ!!と即座に私が顔を顰め青褪めた理由。それは……
「……そうだねぇ」
内心何を考えているか知れたものじゃない我が夫、ビエネの裏の有りそうな微笑みを見てしまった。と言うのが大きい。
「あ、今の無し。一人で行動したりはしません」
とっさに発言を取り消すも…
「マジュ、こっちへおいで」
……オッサンめ、お説教か?
とか内心で返しながら、向かい合って座っていた席からオッサンがいる方へぽてぽてと歩いて行けば……
「はい、これで安心だね?」
「……なんで?」
見ろよ、私たちの周りに座ってる奴ら皆引いてるだろ!?とオッサンの膝の上に座らされた私は羞恥で顔を赤らめながらオッサンを睨みつけ。
「だって、向かいの席に座っていて何かあっても僕の手が届かないし。そうなると竜体になって」
「あぁ、もういいです!!」
つまりは逃亡防止ね?しかも言外にこれを嫌がって向かいの席に座って何かあったら店が壊れると。あぁそうですかそうですか…もういいです!!
ふんっ!!と鼻息も荒く、オッサンのぽっちゃりお腹を背もたれにふんぞり返りつつ、これじゃ洞窟にいた頃とあんまり変わんなくない?とか思ったり思わなかったり……。
「それでビエネご飯は?」
ぽっちゃりした背もたれに、肘置きに当たるオッサンのぷにぷにした両腕、そして頭の上には三重以上はありそうなぷるぷるした顎肉、守られているようなほわほわした安心感が我が夫ながら全身から滲み出ているな。
「うん、そう言えばそうだねぇ」
のんびりと返答を返しながら、片腕を上げたオッサンを見て、どうやらやっと店員さんを呼んだらしい事に気が付き。
「楽しみ!」
と浮かれていると、耳元で一言。
「マジュ、店の奴と話したら駄目だよ?」
……オッサン、夫婦のお約束ごと多すぎません?
お待たせいたしました。楽しんで頂ければ幸いでございます。




