腕輪
「……では本日のお品物につきまして確認させて頂きますじゃ」
ギルドの受付らしいカウンターへ行くと、その場にいた若い女の子は私とオッサンの全身へ一通り視線を向け、例の腕輪に目を止めたかと思ったら一言。
「少々お待ちくださいませ」
と接客業の意地か、目元の笑っていない微妙な笑顔と素晴らしい早口で対応し、物凄い競歩でカウンター奥にあったドアの中へ入っていき視界から消えてしまった。
「氷竜の鱗が二枚、確かにお預かりいたしますじゃ。鑑定には暫しのお時間を要すもので、ギルド内にてお待ちいただきたく願いますじゃ」
あぁ、この世界で初めて出会った同世代の女の子だったのに……と落ち込む私の前にゆったりとした歩調で現れたのは、先ほどの可愛い娘さんとは似ても似つかない髭を生やしたちっちゃなお爺さんで、丁寧な挨拶から始まり、オッサンの鱗を受け取るだけなのに上等そうな革の手袋をはめて慎重かつ丁寧に扱うその手際の良さに、思わずため息が零れる。
「うん。じゃあお願い」
それに対して、一切の視線を向けることなく返すオッサンの言葉のなんと軽いことか……
「ビエネ、もう少しこう…優しく出来ないわけ?」
相手は御爺さんなわけだしさぁ、とこちらを見つめたまま微笑むオッサンへ聞いてみるも
「マジュ以外へ向ける優しさなんて、僕の中には一欠けらの可能性も存在しないなぁ」
そんな甘いセリフを公然の場で堂々と吐くオッサンに、私は少しの幸せと恐怖を覚えた。この男、もし私が浮気したり、さっき話していたように殺されたりしたらいったいどうなってしまうんだろう?と。
「……そっか、ありがとう?」
果たして、返した返事がそれで合っていたのかどうなのかは分からないけれど、取りあえず最終的にまずい状態にならないよう今から叩き込んでおけば問題ないだろう……多分。
「じゃ、何をしようか?あ、待ち時間って?」
にこにこと私へ向けていた顔も、対象が御爺さんに変わった瞬間がらりと表情は色をなくし、こちらまで凍りつきそうな空気を放つのだから怒らせたらどうなるのか考えたくもない。
「今からじゃと……10分ほどですかの」
何か中途半端だな、30分とかなら街をふらりと散歩しても良いけど10分かぁ
「じゃあ、その間に美味しい食事処と、僕の伴侶に似合う服を扱っている商店を教えてよ」
おぉ!!その手があったか!オッサン良くやったぞ!!と私としては珍しく、オッサンを褒め称えようかと思って話へ加わろうと足を踏み出した。しかし、何か静かすぎないか?先ほどまで煩いぐらい賑わっていたはずの室内が、静まり返っていた。不思議に思い、そっと周りに何気なくを装って視線を走らせてみて……私は気づいた。
ギルド内にいる人間や、そうじゃなさそうな謎の生き物さん達は、この目の前にいるちっちゃな御爺さんに見た目唯のぽっちゃりしたオッサンが軽い口調で話しかけていると言う事実に注目し始めているではないか!!ふぅむ……この様子を見る限り、どうやらこの御爺さん只者じゃなさそうだ。と言うか、この腕輪も、ただの腕輪ではなさそうだね。だって皆その視線が私達の腕輪まで下がった瞬間に触らぬ神に祟りなし!!とばかりに勢い良く視線を逸らして通り過ぎて行くし。
「ねぇ、ビエネ」
気になった私はビエネの長い服を引き声をかけた。
「ん?どうしたんだい」
するとオッサンは驚異的な速さでこちらを振り返り、甘い声で返事を返したではないか!!
「あのさ、この腕輪のせいで皆怖がってるみたいなんだけど」
そう、気が付けば私とオッサンの周囲には誰もいない。ギルド内にはこんなにも沢山の利用者がいて混雑していると言うのに……なぜだぁ?!
いつか遠い未来に手直しを入れるかもしれません。
ですが、お気になさらずお楽しみいただければ幸いでございます。
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