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ケツ意と告白

関東在住が書いてるのでエセ関西弁は許してください。


世の中愚かな奴もいる。私池谷夏凜(いけたにかりん)である。


好きな人に振り向いてもらうために漫才賞レースに挑むなど愚か以外の何でもないんだろう。


「はいどうも~、カラきちの池谷夏凜と」

「カラきちの美人担当矢野双葉(やのふたば)です。よろしくお願いします~。」


袖から駆け足でセンターマイクに近づき挨拶を済ます。わけわからん奴が来たと思われてるな。お客さんの目で分かった。これは無理だ。


「最近な、体が硬くなったなと思ってんのよ。」


「そうなんですよねー、以前の池谷は指が第四関節まであったのに今は第二関節までやもんね。」


「増えすぎ減りすぎ」


「なんて?」


「訳わからんくなってるやん。ちゃうんよ、私の体が硬くなったから良いストレッチを教えてほしいって話なんよ。」


「なるほど、それなら私に任せてな。ちなみにどこが硬いの?」


「基本全身なんけど、特に股関節かな」


「それなら良いのあるわ」


双葉はおもむろに寝っ転がり、脚を天井へ振り上げ、股を全力で開いた。


「恥ずかしいって。そんなポーズできんわ。」


「これな、重力で脚が勝手に広がるんよ」


「こんなポーズやってるところ親に見られたらどうするん?親も私がオケツ遊びにはまったって勘違いするで」


「それは勘違いする方が悪いやろ」


「親にはしっかり否定せなあかんな」


「否定してオケツを掘ることに、間違えた、墓穴や」


「やばいやばい。私たち女子よ?てかいつまでそのポーズやってるん?お客さんから見たら兜の飾りが喋ってるみたいやで。」


「アボリジニのブーメランな。こっちの方がかっこいいで」


「感性男子小学生か!てか、アボリジニに失礼やろ。」


「兜も武将に失礼やろ」


「それはそっか。とりあえずブーメランストレッチをすればええんか?」


「ネーミングきもいな。そんなもんより動画でも見て考えや」


「え?今の時間なんやったん?もうええわ。ありがとうございましたー。」


結果はうけるはずもなく、1回戦で落とされた。


なにしてんやろ、私。

私としては双葉さえ笑ってくれればそれでいいのに…。


私池谷夏凜は大学生にもなって何をやっているのかと周りから言われ、来年には卒業だがもちろん就職活動なんてまともにやっていない。頑張って良い大学に入ったはいいものの、大好きな双葉と一緒に入ったお笑いサークルでM1優勝を目指している。

これには理由があり、双葉が過去にM1に出ている芸人に恋して、いつかM1の優勝者と結婚すると息巻いていたからだ。


「夏凜授業休みすぎやない?」大学の授業終わりである教室で突如双葉が心配そうに顔を覗いてきた。

やっぱりかわいい…。

「退学…。」ふと呟いてみた。


「え?勘弁してよ。夏凜が勝手に組んだ時間割のせいで生活おかしくなってるんやから。」


「双葉が何でもいいって言ったんやろ。毎日1限と6限が入ってても文句言わんといてや」


「文句しかないわ!まあ、ほんとに辞めたくなったら言ってな。」


こんな私に気を遣ってくれるなんて天使か?天使なのか?


「夏凜が辞めるなら私も一緒に辞めるから。」


違った。ただ辞める口実がほしいだけだった。


スマホで時間を確認しようとしたらサークルの後輩から劇場の集合時間を伝える連絡が目に入った。

「てか、次の授業飛ばんと今日の劇場間に合わんくない?」


「ほんまや。劇場も遅刻しだしたら終わりやん。」

廊下を抜け今日のサークル活動がある劇場へ向かった。

コンビになると移動中に会話をすることが減ってしまうのが普通であるが、双葉はお喋りが好きなため暇さえあれば何でも喋る。


「最近のアイドルはあかんわ。」


芸人は思想が強いとよく言われるが、双葉も例に漏れず思想が強い。これが舞台の上でなら良いのだが普段から筋金入りである。


「そんなことないやろ。みんな可愛いし頑張ってるわ」


「ほんなら私もアイドルなれる気がするわ。どうよ?」

双葉は両手をふんわりと握り顎の前に添えて潤んだ瞳で上目遣いに私を覗いてきた。


やばい、惚れてまう…。双葉はしっかり美少女なため、こんなポーズがよく似合う。


「あかんわ、うけてまう」

惚れてまうと口にしそうになったところでなんとか軌道修正した。


「しばくでほんま。まあ、可愛いよりおもろいって思われたいわな。」


双葉とのこの時間が好きやなー。いつまでも続けばいいのに。と乙女チックに耽りながら横でまくしたてる双葉を無視した。


「スカすなや!」美人の怒鳴り声はまるでどこかのガキ大将のようで、歌の適正がないことがそれとなく伝わった。そう言えば双葉の音楽の成績2やったな。


劇場に入ったらいつもどおり客はほぼ居なく、見知った連中しか居なかった。


「双葉先輩~お疲れ様です。」

後輩の丸井誠也(まるいせいや)が双葉に絡みに来た。


「夏凜先輩にも挨拶せんかい」

誠也の相方である菅野大樹(すがのだいき)がツッコミをいれた。


「え?私幽霊になったん?」私は咄嗟に後輩二人にダル絡みをする。


「それならしゃーないな。あとで夏凜のお墓建てよなー。」双葉は私の発言を華麗に流したうえで、私の袖を引っ張りその場を離れた。


「今日のネタどうする?」双葉は真面目に私に尋ねた。


「ストレッチのネタでいけばいいんやない?」


「直近やったばっかなんやから変えた方がええんとちゃう?」


「じゃあ、お互いを褒めるネタは?」


「見取り図のパクリネタなー。まあそれでええか。」


ネタを一人で作るコンビは力関係がはっきりしているが、ウチはネタを二人で作っているため、関係は平等。当然大好きな双葉との力関係が出たら好きになってもらえないと思い、ネタづくりに一枚噛むようにしているのだ。


袖で待機してください。と指示をうけ、袖に移動し出番を待った。


「客少ないわー。せめてこの人数は笑かさないとなー。」双葉が私に発破をかけた。


「せやなー。」客は少なくても緊張はしてしまうのだが、それを双葉に悟られぬよう全力で適当に返す。


大学お笑いの劇場は人気サークル以外まともに集客できない。身内ノリも多く、笑っているのも同じサークルの人だけなんてざら。大学お笑いのアベレージはそんなものである。


今回もサークルの仲間がサクラのように笑ってくれた。


ネタ終わりに誠也がまた絡んできた。


「今日も先輩らマジおもろかったっす!」


「ありがとね、夏凜は噛んだけどな。」


「本家を再現できてたやろ。」


「双葉先輩はネタのミス少ないっすね。」


「そうなーお笑いしか考えてないからなー。」


ミス云々とは関係ないやろと心の中で思ったが、ツッコまなかった。てか、誠也は双葉に絡みすぎやろ。おそらく双葉のことが好きなんやろうな。

双葉は美人だし、関わりやすいからサークルの皆双葉のことを狙っている。同性の私をなんとも思ってないんやろなと嫉妬の炎が燃え上がった。一応確認しておくか、


「双葉―、誠也と仲良いなー。」


「そうかもなー。」


「好きになったりせんの?」自分で聞いていて嫌になる。


「自分より面白い奴が好きやからなー。誠也はぶっとんでないからな。私は夏凜の方がぶっとんでておもろいと思うわ。」


これ以上ないほどほっとしたことが双葉に伝わってしまった。


「なに?夏凜私のこと好きなん?」双葉はにんまりと笑って私に尋ねた。


図星をつかれ心臓が跳ねた。

小1からの15年間の付き合いが壊れてしまうかもしれないが、このまま隠していても埒があかないので、勢いのままそれとなく伝えてしまうか。双葉が面白い回答を欲しがっているのは間違いない。ここは攻めるべきだ。


「マイクタイソンぐらい好きやわ。」考えること10秒、絞り出した答えがこれだ。


「それは夏凜の推し的な話なん?それともマイクタイソンの身長とかの話なん?」


私もわからん。

「強さ…かな…。」どうやら私に大喜利は向いてないらしい。


「まあM1で優勝しよか。そしたら考えるわ。」


たすかった?双葉はやっぱり天使やった!


「絶対に優勝しよな!」私はM1を優勝することを以前より固く決意した。




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