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【溺愛プラン】オプションどうします?  作者: 田中葵
第5部 ヒトらしく生きるって?
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村田の空白の日/月影が異常を見つける

 村田の空白の日



 朝。

 村田が区分で借りているタワーマンション高層階。


 村田孝好のスマホは鳴らなかった。

 それだけで、違和感がある。


 彼の予定表は普段、隙間がない。


 朝食準備。

 通話ケア。

 買い物同行。

 夕食支援。


 誰かの生活の隙間を埋めるのが仕事だった。


 だが今日は、通知が一つだけ。


 > システム再調整のため、本日の契約業務は全てキャンセルされました。




 村田は笑った。


「珍しいな」


 洗濯を回す。

 部屋を掃除する。

 料理の下ごしらえをする。


 ここまでは平気だった。


 昼過ぎ。


 手が止まる。

 部屋が静かすぎる。

 冷蔵庫のモーターの音がやけに大きい。


 村田はソファに座った。


 ふと、思い出す。

 孤児院の午後。


 迎えが来る子ども。

 来ない子ども。

 名前を呼ばれる順番。


 自分はいつも最後だった。

 いや、最後ですらなかった。

 呼ばれない日。


 村田は、ぽつりと言った。


「……あれ?」


 初めてだった。

 誰のダーリンでもない時間。

 そして、胸の奥に浮かんだ疑問。


「俺ってさ」


 誰に言うでもなく。


「いなくても平気なのかな」



 そして、

 村田は社用のスマホを小ぶりの化繊製のバッグから取り出す。

 マネージャーの臼井さんと、

 いつも送り迎えしてもらっている専属運転手の飯沢(いいさわ)さん、柚木(ゆぎ)さんに通話しようとする。


 どちらとも、

 繋がらない。


「おかしい……」



 彼はさらに、

 連絡用に使用しているSNSの友だち一覧から今日会うはずだった契約者の一人のトークルームを開く。


 しかし、

 最後の更新から全く読み込まない。


「なんでだよ……」


 加えて、

 今日会うはずだった、

 他の契約者たちのトークルームも同じ状態だった。


 しかも、

 通話が誰とも繋がらない。


「どうなってんだ!?」





  月影が異常を見つける



 データ室。


 月影はログを見ていた。


 村田孝好。

 情動安定値、同期率、満足度。


 すべて優秀。

 いや、優秀すぎる。


 それなのに。

 一つだけ。


 空白時間。

 七時間四十二分。


 月影の指が止まる。

 そしてもう一度、ログを凝視する。


 ありえない。

 村田のスケジュールにそんな空白があるはずがない。


 誰かがやった。


 本部。

 強化実験。


 彼は理解した。


「……やめろ」


 呟きが、誰にも届かない。

 と同時に、汗がにじみ出る……


 村田は壊れない。

 だが、試してはいけない。


 彼はシステムじゃない。

 人間だ。

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