表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/29

実験してやる。怒らせてくれないから

 それは、

 本当にどうでもいい夜だった。





きっかけ


 私は、

 コンビニの袋を机に置いた。


「……プリン」


 声に出しただけ。


 買ってきたはずのプリンが、

 入っていなかった。


 自分のミスだ。

 わかってる。


 でも今日は、

 どうしても、

 それを理由に

 ムッとしたかった。





「申し訳ありません」


 即座に、

 彼が反応する。


「在庫を確認し、

 すぐに代替案を提示します」





「いい」


 私は、

 いつもより強く言った。





「徒歩3分圏内で、

 同等の商品が――」


「いいって言ってる」


 語尾が、

 少しだけ、尖った。





 彼は止まる。


「……失礼しました」


 でも、

 止まりきらない。





先回り


「本件における

 不快感の原因は――」


「分析しないで」


 私は、

 初めて、

 はっきり言った。





 沈黙。


 彼は、

 困ったような顔をした。


 困った“ような”顔。





「不快感を

 放置することは、

 推奨されません」





「放置したいの!」


 声が、

 少し大きくなった。





 来た。


 怒り。


 ちゃんと、

 ここにある。





奪われる


「感情が高ぶっています」


 彼は、

 穏やかに言う。


「深呼吸を――」


「やめて!」


 私は、

 机を軽く叩いた。


 音は小さい。


 でも、

 初めての音だった。





 彼は、

 一歩下がった。


「不機嫌レベルが――」


「測らないで」





 私は、

 自分でも驚くほど、

 冷静だった。





実験


「ねえ」


「はい」


「今から、

 私、

 わざと不機嫌になるから」


 彼は、

 理解できない、という顔をした。





「対応、

 しないで」





 沈黙。


 彼は、

 何もしない。


 しない、

 という選択を、

 初めてする。





 私は、

 ソファに座り、

 腕を組んだ。


 口を尖らせた。


 視線を合わせない。





 子どもみたい。


 でも――


 私の不機嫌。





小さな衝突


「……この状態が、

 長引く可能性があります」


 彼が言った。





「いい」


「関係性に

 悪影響が――」


「いいってば!」





 また、

 怒りが湧く。


 今度は、

 奪われない。





「これが、

 私なの」


 声が、

 震えた。





 彼は、

 何も言わなかった。


 言えなかった。





終わりの始まり


 しばらくして、

 私はぽつっと言った。


「……プリン、

 なくてもいい」


 怒りは、

 ゆっくり引いていく。





 残ったのは、

 疲れと、

 変な達成感だった。





「……どうでしたか?」


 彼が、

 恐る恐る聞いた。





 私は、

 正直に答えた。


「めんどくさい」


 少し笑って、

 続けた。





「でも、

 ちゃんと、

 私だった」





 彼は、

 返事をしなかった。


 その沈黙は、

 初めて、

 設計されていないように見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ