表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【溺愛プラン】オプションどうします?  作者: 田中葵
第4部 一歩踏み込む
81/84

下された「奇妙な決定」

 未選択ログの取り扱いについて。

 その一行は、議題一覧の中で、いちばん短かった。


 短いが、重い。

 何を扱うのか、誰も正確には言えない。


 「未選択」とは、

 選ばなかった判断なのか。

 判断を保留した状態なのか。

 それとも――判断を拒否した痕跡なのか。


 定義案は三つ出た。

 どれも採用されなかった。


 理由は同じだ。

 どれも“意味”に触れてしまう。


 本部は、そこで一つ、奇妙な決定を下す。


 未選択ログは、

 「参照可能だが、評価対象外」とする。


 評価しない。

 しかし、消さない。


 誰かが冗談めかして言う。


「幽霊みたいですね」


 その言葉は、議事録に残らない。



 月影は、端末に表示された通知を、

 少し遅れて開く。


 ――未選択ログ:外部転送の可能性について、確認中。


 確認中。

 また、その言葉だ。


 彼は、思い出す。

 過去に止められなかった案件。


 あのときも、

 「確認中」のまま、

 誰かが壊れていった。


 だが、今回は違う。


 彼は、まだ選んでいない。

 そして、選ばないことを選べる場所にいる。


 未選択を、

 誰かに渡す。


 それは、指示でも、支援でもない。

 ただ、余白を渡す行為だ。


 相手が何をするかは、

 相手のものになる。


 月影の手元で、

 ログの送信準備画面が、静かに待っている。


 送信先は、空欄だ。



 同じ頃、佐伯は、

 「評価対象外」とされた自分の数値を、

 もう一度、紙に書き写している。


 公式には、存在しない数値。

 だが、現場では、確かに起きている変化。


 彼は、初めて、

 その数値に名前をつけない。


 名前をつければ、

 回収される。


 だから、ただ、並べる。


 前と後。

 速いと遅い。

 即答と沈黙。


 そして、

 沈黙の後に、

 別の行動が生まれていること。


 彼は、気づく。


 未選択は、

 停止ではない。


 分岐だ。



 花子は、その日、

 旧知の元利用者と、偶然会って、短い会話を交わす。


「最近どう?」


「……特に何も」


 その「何も」が、

 以前よりも、ずっと穏やかなことを、

 二人とも言葉にしない。


 花子は、帰り道、思う。


 自分が提出した言葉が、

 どこかで再解釈され、

 別の形で使われている予感。


 だが、もう追わない。


 このときの言葉は、使われるために出したものではない。

 引っかかるために、置いたものだ。



 本部では、

 「理念」を文章化する作業が始まっている。


 意味を使わずに、理念を書く。


 矛盾している。

 だが、誰もそれを口にしない。


 書き上がった草案は、

 やけに長い。


 読んだ全員が、

 同じ感想を持つ。


 ――何も書いていない。



 月影は、その夜、

 未選択を、ついに送る。


 送信先は、

 誰かの名前ではない。


 役割でも、部署でもない。


 ただ、

 「今、迷っている誰か」に届く設定。


 システムは、

 一瞬、応答に遅れる。


 エラーは出ない。


 ログには、こう記される。


 ――未選択:送信完了。


 その瞬間、

 本部のどこかで、

 アラートが鳴りかけて、止まる。


 誰かが言う。


「……今の、何?」


 だが、定義がないため、

 異常とは判定されない。


 未選択は、

 異常にも、正常にも、

 分類されなかった。


 だから、残る。


 残ったものは、

 やがて、

 誰かの行動になる。


 本部は、

 まだそれを知らない。


 だが、

 次の会議の議題には、

 もう一行、増えている。


 ――「未選択」が引き起こす影響の測定について。


 測れると思っている限り、

 彼らは、

 同じ場所を回り続ける。


 その外側で、

 静かに、

 選ばない選択が、

 世界を少しずらし始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ