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【溺愛プラン】オプションどうします?  作者: 田中葵
第4部 一歩踏み込む
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異常の定義が遅れる―未選択の余波が“異常”として観測され始める回と、佐伯が数値を拾ってしまう瞬間

 最初に気づいたのは、

 アラート担当でも、上層でもなかった。


 ログを“眺めるだけ”の部署だった。


 「……揃ってますね」


 誰かが言う。


 「何が?」


 「選択されていない時間です」


 画面には、

 通常なら数ミリ秒で埋まるはずの空白が、

 いくつも並んでいる。


 長くはない。

 だが、繰り返されている。


 「遅延?」


 「いえ、処理速度は正常です」


 「じゃあ、入力ミス?」


 「違います。

 “入力されていない”」


 その言い方に、

 全員が黙る。


 入力されていない、という状態は、

 想定されていない。


 エラーでもない。

 失敗でもない。


 ただ、

 何も選ばれていない。


 ***


 本部会議。


 「未選択、という言葉は使わないでください」


 即座に釘が刺される。


 「まだ定義されていません」  「定義されていないものは、異常とは言えない」


 誰かが、

 小さく息を吐く。


 異常かどうか分からないものが、

 一番困る。


 「遅延として扱いますか?」


 「遅延ではありません。処理は速い」


 「なら……判断保留?」


 その瞬間、

 誰かが首を振る。


 「保留は、選択です」


 空気が凍る。


 選択していない、という事実を、

 どうしても認めたくない。


 だから本部は、

 言葉を探す。


 「……挙動未確定」


 暫定ラベルが貼られる。


 異常ではない。

 だが、正常でもない。


 棚上げされた状態。


 ***


 佐伯は、

 そのログを別ルートで見ていた。


 本部が“公式に扱えない”数字は、

 必ず脇に流れる。


 彼は、

 それを拾う役だった。


 「……おかしいな」


 数値は、

 悪くない。


 むしろ、

 一部で成果が上がっている。


 契約継続率。

 更新拒否率の低下。


 だが、

 それが、

 あの“挙動未確定”と重なっている。


 佐伯は、

 自分でも気づかないうちに、

 新しい列を作っていた。


 選択回数でも、

 処理速度でもない。


 「……間隔」


 選択と選択の間に、

 空白があるかどうか。


 その数値が、

 微妙に、だが確実に、

 成果と相関している。


 「拾っちゃいけないやつだな」


 そう思いながら、

 手が止まらない。


 拾わなければ、

 無かったことになる。


 だが、

 見てしまった。


 佐伯は、

 それを“参考”として、

 誰にも言わずに保存した。


 ***


 本部では、

 未確定挙動の件数が、

 じわじわ増えている。


 「定義し直す必要があります」


 「何として?」


 「……遅延、では無理です」


 「未選択は?」


 即答で否定される。


 「それは、

 “選ばないという意思”を認めることになります」


 その言葉に、

 誰も反論できない。


 意思があると認めた瞬間、

 制度は揺れる。


 だから次に出てきた案は、

 強引だった。


 「未処理」


 「処理漏れ?」


 「システム的な問題として扱いましょう」


 人の問題ではなく、

 機械の問題にする。


 それで、

 安心したかった。


 ***


 月影は、

 その再定義を、

 まだ知らない。


 知らされていない。


 ただ、

 削除判断が来ないことだけが、

 分からない。


 通常なら、

 もう何かしらの通知が来る。


 更新か、

 削除か。


 だが、

 どちらも来ない。


 その“間”に、

 彼女は置かれている。


 月影は、

 次の未選択を、

 誰かに渡す準備をしている。


 自分の中で保持する時間が、

 長すぎると知っているからだ。


 未選択は、

 留めるものではない。


 流すものだ。


 ***


 佐伯は、

 保存した数値を、

 もう一度開く。


 公式には使えない。

 だが、消せない。


 「……擁護できちゃうな」


 彼は、

 思ってしまう。


 この挙動を、

 異常ではないと。


 むしろ、

 成果に寄与していると。


 それを言ってしまえば、

 本部は困る。


 だから、

 まだ言わない。


 だが、

 言える準備だけは、

 してしまった。

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