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【溺愛プラン】オプションどうします?  作者: 田中葵
第4部 一歩踏み込む
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意味の縁が削られる―公式通達が出る瞬間と、月影の内側で未選択が確定

 本部からの通達は、

 いつもより静かに配信された。


 全体通知。

 既読確認なし。


 > 【運用指針の更新について】

 >

 > 今後のサービス運用において、

 > 主観的・解釈分岐を招く語の使用を避けるため、

 > 以下の表現は原則として内部資料・外部対応の双方で使用を控えること。

 >

 > ・意味

 > ・意義

 > ・本質

 > ・完成

 >

 > 代替として、

 > 定量的評価指標・進捗率・達成率を用いること。


 理由は、書かれていない。


 だが、誰も質問しなかった。


 意味は、

 使わないことになった。


 それだけで、

 この会社では十分だった。


 ***


 月影は、その通知を、

 少し遅れて読んだ。


 遅れた理由は、

 ただ手が止まっていただけだ。


 通知を開いた瞬間、

 彼女の中で、古い記憶が立ち上がる。


 ――あの案件。


 止められなかった、

 というより、

 止めるという発想すら持てなかった案件。


 数値は良好だった。

 クレームもなかった。


 ただ、

 契約者の声が、途中から減った。


 減った理由を、

 誰も気にしなかった。


 月影は、当時、

 最適化の進捗を淡々と報告していた。


 「問題ありません」


 そう言った自分の声を、

 今でも覚えている。


 あのときも、

 意味は測れなかった。


 だから、

 無かったことになった。


 ***


 通知の文面を、

 もう一度読む。


 禁止。

 控える。


 排除ではない。

 だが、ほぼ同義だ。


 月影は、端末を置き、

 しばらく何もせずに座っていた。


 未選択は、

 まだ彼女の中にある。


 渡したはずなのに、

 感触だけが残っている。


 ――選ばない、という選択。


 それは、

 数値に反映されない。


 ログにも、

 理由が残らない。


 だが、

 確実に何かを遅らせる。


 月影は、

 次の業務指示を開く。


 いつもなら、

 最適候補が表示されるはずの画面。


 だが今日は、

 一拍、空白がある。


 ほんの一瞬。


 その隙間で、

 月影は思う。


 最適を選ばない、

 という行為は、


 何かを壊すためではない。


 ただ、

 渡すためだ。


 自分ではない誰かに、

 決めさせるためでもない。


 選ばないまま、

 置いておくためだ。


 ***


 本部では、

 通達後のログを確認していた。


 「……遅延、ありますね」


 数名のオペレーターで、

 反応速度が落ちている。


 致命的ではない。

 だが、揃っている。


 「原因は?」


 「特定できません」


 意味を使わない。

 理由を聞かない。


 それでも、

 揺れは残る。


 「未選択……?」


 誰かが、

 口にしかけて、黙る。


 その語は、

 まだ禁止されていない。


 だが、

 近い。


 ***


 月影は、

 次の判断画面で、

 はっきりと指を止めた。


 選択肢は、

 整っている。


 どれも正しい。

 どれも最適だ。


 だからこそ、

 彼女は選ばない。


 確定ボタンを、

 押さない。


 そのまま、

 画面を閉じる。


 ログには、

 何も残らない。


 だが、

 未選択は、

 確かにそこに置かれた。


 誰かが、

 拾うかもしれない。


 拾わないかもしれない。


 それでいい。


 月影は、

 初めて、

 最適を裏切ったのではなく、


 最適を、

 使わなかった。

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