指定された言葉が「使えなくなり」、ゆっくり殺される
本部
公式通達案 第三稿
件名:業務上使用語彙の整理について(暫定)
> 各位
平素より業務遂行にご尽力いただき、ありがとうございます。
近年、業務報告・改善提案・分析資料等において、
定義が不明瞭な語彙の使用が散見され、
判断の一貫性を損なう恐れが確認されました。
つきましては、
下記の通り使用語彙の整理を行います。
1.対象語彙について
以下の語彙は、
業務上の評価・判断・提案資料において
使用を控えることが望ましいとします。
意味
意義
本質
自然
健全
違和感
納得
らしさ
※禁止語ではありません。
※ただし、使用する場合は
必ず定量的裏付け、
または公式定義への参照を併記してください。
2.補足説明
上記語彙は、
個人の主観や文脈依存性が高く、
誤解を招きやすい傾向があります。
特に「意味」という語は、
状況によって解釈が分かれやすく、
業務判断の基準として
不適切となるケースが確認されています。
3.推奨代替表現
意味 → 効果/結果/影響範囲
健全 → KPI達成率/継続率
違和感 → 数値変動/逸脱値
納得 → 合意率/確認完了
※代替が困難な場合は、
当該語彙の使用自体を
再検討してください。
4.今後の対応
本整理は、
業務の効率化および
判断の透明性向上を目的とした
暫定措置です。
運用状況を踏まえ、
必要に応じて
正式ルール化を検討します。
以上
本部 管理統括室
余白①
会議室の沈黙
通達を読み終えたあと、
誰も
すぐには口を開かなかった。
「意味」が、
禁止ではない。
ただ、
使う理由を
証明できなければ
使えない。
それは、
実質的な
排除だった。
余白②
佐伯のメモ
佐伯は、
この通達を
静かに保存した。
そして、
自分用のノートに
一行だけ書く。
> 「意味」は
証明できないから
消された。
その下に、
小さく。
> 数字が
なくなったあと、
言葉も
なくなる。
余白③
月影の受信箱
月影には、
この通達も
届かなかった。
理由は、
単純だ。
彼は、
「分析」や
「提案」を
出していない。
未選択は、
言葉を使わない。
だから、
規制対象に
引っかからない。
余白④
本部の本音(記録されない)
誰かが、
会議の最後に
小さく言った。
「……意味が
使えないなら、
私たちは
何を
管理してるんですか?」
その発言は、
議事録に
載らなかった。
載せられなかった。
締め
この日から、
本部内で
「意味」という言葉は、
書かれなくなり
口に出されなくなり
しかし
消えなかった
消えなかったから、
不安だけが
残った。




