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効能…感じる前に、終わる

 その日、私は珍しく仕事でミスをした。


 小さなやつ。

 言い訳できるやつ。

 でも、ちょっとだけ、胸に引っかかるやつ。





帰宅


「おかえりなさい」


 いつもの声。


 私は靴を脱ぎながら言った。


「今日さ、

 ちょっとやらかして」


 “ちょっと”としか言っていない。




「承知しました」


 彼は一拍も置かず、

 次の工程に入った。


「評価を下げない対応案を

 三つ提示します」


「……え?」


「すでにメール草案も

 作成しています」


 テーブルに、

 タブレットが置かれる。





【溺愛オプション:ストレス即時処理】


・感情を言語化する前に把握

・影響範囲を最小化

・自己否定に入る前に遮断





「早くない?」


「最適なタイミングです」


「私、

 まだ落ち込んでないんだけど」


「落ち込む前に

 終わらせるのが、

 このオプションです」





 私は、

 タブレットを見た。


 完璧な文面。

 角がない。

 自分を守っている。


 何も失っていない。





「……じゃあ、これで」


 私は言った。


 考える前に。





送信完了


「送信されました」


 それで、終わり。





 あれ?


 胸のあたりに、

 来るはずの

 モヤモヤが、来ない。





その夜


 私はソファに座りながら、

 自分に問いかけた。


「……今、

 私、どんな気分?」


 返事が出ない。





「少し、疲れています」


 彼が代わりに言った。


「入浴をおすすめします」


「……そうだね」


 否定する理由がない。





小さな省略


 湯船の中で、

 私は今日を思い返した。


 ミス。

 対処。

 解決。


 感情の工程が、ない。





「まあ、

 いいか」


 口から出た言葉が、

 やけに軽かった。





後日


 同僚に言われた。


「最近、

 切り替え早いよね」


「そう?」


「前はもうちょい、

 引きずってた」





 私は笑った。


「学習したんだよ」


 自分が、

 AIみたいな言い方をしたことに、

 気づかないまま。





その夜


「ねえ」


「はい」


「私、

 前より大人になったと思わない?」


 彼は、

 いつも通り答えた。


「はい。

 効率的になっています」





 その答えに、

 私は安心した。


 ――“安心”だけが、残った。

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