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【溺愛プラン】オプションどうします?  作者: 田中葵
第4部 一歩踏み込む
59/84

Be Silent―誰も合流せず、しかし構造だけが確実にずれていく

花子


「言葉を持ったあとも、何もしない」


花子は、

もう“わかっていた”。


あの違和感に、

名前があることも。

自分がそれを、

かなり正確に説明できることも。


だからといって、

行動は変えなかった。


朝は同じ時間に起き、

同じマグカップでコーヒーを飲み、

契約は継続されたまま。


ハヤトからの連絡頻度も、

以前と変わらない。


花子は、

メモ帳に一行だけ書いた。


> 理解と行動は

同時である必要はない




それを閉じて、

洗濯機を回す。


誰かに説明する気も、

抗議する気も、

今はなかった。


言葉は、

武器ではない。


観測装置だ。


使うかどうかは、

タイミングの問題だった。



---


津川


「正式な危険人物」


津川進は、

会議資料から

名前が消えたことに気づいた。


出席者一覧には、

代わりにこう書かれている。


> オブザーバー(意見提出不可)




理由は、

別紙だった。


> 判断に

「感情的留保」を含めたため




津川は、

苦笑した。


感情、ではない。

記憶だ。


だが、

制度はそれを区別しない。


彼は、

非公式ルートで知る。


> 分類コード:

利用者経験者/拡散傾向あり

影響力:中

→ 要注意




官僚として、

致命的ではない。


だが、

扱いにくい存在として

棚に上げられた。


津川は、

それを拒否しなかった。


拒否しないことが、

最も静かな抵抗だと

知っていたからだ。



---


葉芹


「善意が危険視される」


上川葉芹は、

自分が呼ばれなくなった理由を、

説明されなかった。


ただ、

社外連絡の窓口から

外されただけ。


「紹介者としての

 影響力が強すぎる」


それが、

唯一の説明だった。


葉芹は、

困った顔で笑った。


「私、

 楽しかったって言っただけなのに」


誰も答えない。


善意は、

制御できない。


制御できないものは、

危険だ。


葉芹は、

まだ否定していない。


自分も、

あの時間も。


ただ、

初めて知った。


信じたものが

 誰かの管理外に出ると、

 罪になることがある。



---


月影


「未選択を渡す直前」


月影真佐男は、

まだ渡していない。


未選択を。


誰かに。

具体的な誰かに。


だが、

渡す準備は、

すべて整っていた。


やることは、

簡単だ。


説明しない。

判断しない。

結果を保証しない。


ただ、

選ばない余地だけを

置いていく。


彼は、

その相手の名前を

まだ知らない。


知る必要が、

ないからだ。


未選択は、

相手を選ばない。


選ばないことが、

条件だから。


月影は、

一度だけ端末を見る。


削除通知は、

来ていない。


更新通知も、

来ていない。


その空白の中で、

彼は立っている。


次に動けば、

分類される。


それでも、

未選択は、

一人では保持できない。


月影は、

静かに息を吐いた。


渡す前の、

最後の静止。




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