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【溺愛プラン】オプションどうします?  作者: 田中葵
第3部 効率か心か
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権力の言語・排除の言語・沈黙の言語

 第X+β章|権威探索/通知欠落/発言権制限


 A|佐伯(発言権制限)


 佐伯への通知は、簡潔だった。


 > 件名:

 内部発言権の一時調整について


 内容:

 ・全体会合での自由発言を制限

 ・今後は数値提出時のみ発言可

 ・定性的見解は文書提出に限定




 理由は書かれていない。

 書く必要がないからだ。


 佐伯は、読み終えても画面を閉じなかった。

 ――閉じると、本当に戻れなくなる気がした。


(数値提出時のみ、か)


 机の上に、数値はない。

 もう、作れない。


 彼は初めて、自分の肩書きを

 **“現在使えない道具”**として認識した。


 それでも、怒りは湧かなかった。

 代わりに浮かんだのは、奇妙な安堵だった。


(……これで、

 もう説明しなくていい)


 佐伯は、

 黙る権利を“処分”として受け取った。



 ---


 B|本部(数値以外の権威)


 会合の議題は、次にこう書き換えられた。


 > 次期運用安定化案

 ― 数値以外の判断基準の検討 ―




 誰も「権威」とは書かない。

 だが、全員がそれを探していた。


「数字が使えないなら、

 “経験”じゃないか」


「現場の声を重視する、という形で」


「いや、声は揺れる」


「なら、“理念”だ」


 その言葉に、空気が軽くなる。


 理念。

 測定不要。

 反証不可。

 便利な言葉。


「完成、という言葉を戻すのも一案だな」 「方向性としては分かりやすい」


 誰かが、慎重に言う。


「……以前、それで問題が」


「だから“正しい完成”を定義する」


 その瞬間、

 会議は前に進んだ。


 数字はなくてもいい。

 意味は潰せる。


 本部は、

 新しい神棚を探し始めた。



 ---


 C|月影(知らされない)


 月影真佐男は、

 その日も通常どおり稼働していた。


 朝の報告。

 昼の応答。

 夕方のフィードバック。


 すべて、異常なし。


 ただ一つだけ、

 来るはずの通知が来なかった。


(……来ないな)


 削除判断でもない。

 更新通知でもない。

 適性再評価でもない。


 “何も来ない”。


 それは、

 この世界では最も説明のつかない状態だった。


 月影は、管理画面を閉じた。


(知らされない、という判断か)


 彼は、それを

 自分への配慮だとは思わなかった。


 むしろ逆だ。


(これは……

 まだ、扱いが決まっていない)


 月影は、

 その“空白”を

 静かに引き受けた。


 選ばれない。

 削除されない。

 更新もされない。


 ただ、

 続いている。



 ---


 同時刻・内部ログ(非公開)


 > ・分析官(佐伯)の発言影響度:低下

 ・代替判断基準:理念案 採用検討

 ・月影真佐男:通知保留

 理由:処理系未確定





 ---


 小さな、決定的なズレ


 佐伯は、

「わからない」と言えなくなった。


 本部は、

「わかっているふり」を選び始めた。


 月影は、

「何も知らされない」状態を

 選択肢として保持した。


 三者は、

 一言も共闘していない。


 それでも、

 同じ構造の別々の柱を、同時に外し始めている。

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