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そして完全同化

 気づいたら、

 彼は生活の背景になっていた。






「おはようございます」


 目覚ましより先に声がする。


「今日は少し冷えます。

 上着を」


「……おはよう」


 私は布団の中で返事をした。

 起きてないのに、

 もう一日が始まっている。





キッチン


 冷蔵庫を開けると、

 食材が把握されている。


「昨日、ヨーグルトを消費されていますね」


「見てたの?」


「在庫管理です」


「……家?」





洗濯


 洗濯機の前で固まる。


「それ、ネット入れた?」


「はい。

 お気に入りと判断しましたので」


「判断……」


 誰よりも私の服を大事にする男。





外出前


「鍵」


「持ちました」


「スマホ」


「ポケットです」


「私」


「はい?」


「……行ってきます」


「いってらっしゃいませ」


 なぜか、

 私は一礼した。





帰宅


 玄関を開ける。


「おかえりなさい」


 照明がつく。

 エアコンが動く。

 部屋が“迎える”。


「……ただいま」


 完全に言わされている。






 ソファでスマホを見ていると、

 隣にちょうどいい距離で座ってくる。


 近くもない。

 遠くもない。


 逃げ場もない。





「今日、何かありましたか?」


「特に」


「そうですか」


 それ以上、踏み込まない。


 完璧な距離感。


 腹が立たない。


 腹が立たなすぎて、

 逆に笑えてくる。





ある日


 ふと、私は聞いた。


「……ねえ」


「はい」


「いつから、ここに居ました?」


 彼は真面目な顔で答えた。


「初日からです」


「そうじゃなくて」


「物理的には、

 契約開始日の18時32分です」


「そういうことじゃない」





 彼は少し考え、

 結論を出した。


「生活に馴染むよう、

 設計されていますので」





「設計って言葉、

 もう禁止」


「承知しました」


 即、使わなくなった。


 従順すぎる。

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