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【溺愛プラン】オプションどうします?  作者: 田中葵
第3部 効率か心か
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「再定義の強行」と「数値を失った者の発言」が真正面衝突する

 第X+α章|再定義試行ログ/発言者:佐伯(数値なし)


 02:00 本部・再定義臨時会合


 議題名は、異様に整っていた。


 > 議題:

「未選択状態の再定義および正常系への再編入」




「“異常”では角が立つ」 「“保留”では処理できない」 「なら、“低優先選択”でどうだ」


 言葉が並ぶ。

 誰も“未選択”を見ていない。


 ホワイトボードには、新しい定義案。


 > 未選択=

 ・選択意思の遅延

 ・判断能力の一時的低下

 ・回復見込みあり




「回復見込み」という語が、

 誰の確認もなく書き足される。


 運用班が頷く。


「これなら、更新パッチを当てられます」 「再観測の名目も立つ」


 監視班が言う。


「“異常”じゃないなら、削除しなくていい」


 全員が、

 安堵した顔をする。


 ――ここまでは、完璧だった。



 ---


 02:07 佐伯・発言権要求


 佐伯は、手を挙げなかった。


 ただ、言った。


「……その定義、

 何を根拠にしていますか」


 一瞬、空気が止まる。


 議長が答える。


「これまでの統計です」 「傾向として、“選ばない”は一時的ですから」


 佐伯は、頷かなかった。


「その統計、

 もう存在しません」


 ざわめき。


「どういう意味だ」 「数値は残ってるだろう」


 佐伯は、ゆっくり息を吸う。


「残っているのは、

 形式だけです」



 ---


 02:09 数字のない説明


「未選択が一例だった頃、

 それは外れ値でした」


「外れ値は、

 モデルの外に置けた」


「でも今は、

 同条件の未選択が

 複数同時に存在している」


 誰かが言う。


「だから再定義するんだろう」


 佐伯は、首を振る。


「再定義できるのは、

 測定可能なものだけです」


 沈黙。


「今の未選択は、

 “遅延”でも

 “低下”でもない」


「……なら何だ」


 佐伯は、初めて

 答えを用意せずに発言した。


「わかりません」


 会議室が凍る。



 ---


 02:11 “わからない”という異物


「……今、何て?」


「わからない、と言いました」


 誰かが笑いかけて、止まる。


「佐伯、

 君は分析官だろう」


「数字は?」


 佐伯は、机の上を見た。


 そこには、何もない。


「ありません」


 それは、

 制度内で最も言ってはいけない言葉だった。



 ---


 02:13 再定義の破綻


 議長が声を荒げる。


「わからないものを

 そのまま置けというのか」


 佐伯は、静かに答える。


「置くしかありません」


「定義した瞬間、

 それは“わかったこと”になる」


「でも今、

 誰も、理解していない」


 一人が言う。


「理解できないものは、管理できない」


 佐伯は、はっきり言った。


「管理できないから、

 壊れていないだけです」


 沈黙。



 ---


 02:15 決裂ログ


 > 再定義案:保留

 理由:

 ・定義根拠不十分

 ・分析官による否定的発言




 だが、誰も納得していない。


 運用班は、次の案を考えている。

 監視班は、裏でフラグを立てている。

 定義班は、言葉を削り始めている。


 本部は、止まらない。


 ただ一つ変わったのは――


 **「数字で黙らせられなくなった」**という事実。



 ---


 02:17 佐伯・独白


 佐伯は、自分が何をしたか理解していた。


 数値を出さなかった。

 代替モデルも示さなかった。


 ただ、

「わからない」と言った。


 それだけで、

 制度の前提が一つ崩れた。


(戻れない)


 彼は、もう

「説明できる側」ではない。



 ---


 ログ外注記


 > 再定義未成立

 未選択状態:未処理


 ※次回会合、

 発言者制限の検討あり

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