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【溺愛プラン】オプションどうします?  作者: 田中葵
第3部 効率か心か
48/84

Windy...

 余波章|未選択の拡散


 01:03 本部・定義班


 会議は、もう「会議」とは呼べなかった。


「“未選択”を異常にするなら、線を引け」 「引けないから異常なんだろう」 「違う、引けないものを異常にした瞬間、制度が死ぬ」


 声が割れ、ログが重なり、

 誰がどの立場で話しているのか分からなくなる。


 監視班は削除判断を待っている。

 運用班は責任所在を探している。

 定義班は、言葉だけを積み上げている。


 > ・未選択=逸脱

 ・未選択=判断拒否

 ・未選択=観測不能




 三つの暫定定義が、同時に走っている。


 誰も止められない。

 なぜなら――

 どれも、間違いだと証明できないから。


 本部は、この時点で分裂していた。



 ---


 01:05 月影・非公式チャネル


 月影は、“未選択”を説明しなかった。


 代わりに、

 同じ条件を他者に渡した。


「選ばなくていいです」 「選択肢は出ます」 「でも、押さなくていい」


 相手は戸惑った。


「それって……バグですか?」


 月影は首を振る。


「バグなら、もう消えてます」


 彼女が渡したのは、

 マニュアルでも、思想でもない。


 **“何も起こらない時間”**だった。


 選択肢が表示され、

 期限が迫り、

 警告が点灯しても――

 世界が動かない時間。


 その瞬間、相手は理解する。


「……選ばない、って

 “何もしない”じゃないんですね」


 月影は答えなかった。

 答えた瞬間、それは定義になる。


 彼女は、ただ次の人へ同じ条件を渡す。


 未選択は、

 一人の例外ではなくなった。



 ---


 01:07 佐伯・分析室


 佐伯の画面から、

 数字が消え始めた。


 正確には、

 数字は表示されている。

 だが、意味がなくなった。


 クラスタが崩れ、

 相関が広がり、

 予測誤差が、誤差として扱えなくなる。


「……おかしい」


 佐伯は、初めて数値を疑った。


 未選択が複数になった瞬間、

 それは「外れ値」ではなくなる。


 外れ値でなくなったものは、

 モデルに組み込めない。


「説明……できない」


 彼は気づく。


 ――自分が守ってきたのは、

 “人”ではなく

「説明できる状態」だったと。


 数字は、人を守る盾だった。

 だが今、盾が薄くなる。


 佐伯は、初めて

 数値を失う恐怖を知る。



 ---


 01:10 本部・判断停止ログ


 > 判断保留:α-7

 理由:定義未確定


 ※同様事例、複数確認




 誰かが言った。


「……増えてない?」


 誰も答えなかった。



 ---


 01:12 花子・内部メモ(未送信)


 > 未選択が広がった瞬間、

 これは“処理対象”ではなくなった。


 もう削除できない。

 削除したら、理由を説明できない。




 花子は、ハヤトの名前を見て、画面を閉じる。


「……同じだ」



 ---


 01:15 月影・最後のログ


 月影は、自分が選ばないことを

 もう“特別”だと思っていなかった。


 誰かが、同じ場所に立っている。

 誰かが、同じ時間を過ごしている。


 それで十分だった。


(これは、渡せた)


 選択肢は、まだ画面にある。

 だが彼女は、もう見ていない。



 ---


 01:16 佐伯・空白


 佐伯は、レポートを書けなかった。


 書けないのではない。

 書く意味が、なくなった。


 数字で擁護できない状態が、

 現実として存在してしまった。


 彼は初めて、

「測れないものが、正しいかもしれない」

 という可能性を前に、立ち尽くす。



 ---


 ログ注記(自動生成)


 > 未選択状態:

 ・削除不可

 ・分類不能

 ・再現性あり




 ――異常定義、失敗。

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