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【溺愛プラン】オプションどうします?  作者: 田中葵
第3部 効率か心か
40/84

Aパート|月影

 A|月影


 ――「異常行動者」明記


 通知は、音もなく表示された。


 > 分類更新:行動特性再評価

 対象ID:MKG-27

 変更点:行動分類

 通常 → 異常行動者




 月影は、瞬きを一度しただけで画面を見続けた。

 驚きはなかった。

 どこかで予期していた、というほどの確信もない。

 ただ、その語が、ついに外部から書かれたことを理解した。


 異常行動者。


 定義欄が自動展開される。


 > ・最適解の非選択

 ・意思決定の遅延

 ・意味解釈の再帰的使用

 ・揺れ保持傾向(中期)




「中期」という語に、月影はわずかに視線を止めた。

 すでに正式指標から外されたはずの語だ。

 それでも、ここには残っている。


 > ※当該傾向は、現行評価モデルにおいて

 再現性・予測性を著しく低下させる




 続いて、選択肢が現れる。


 > 対応措置

 A:削除

 (行動ログの統合・人格モデルの解体)

 B:更新

 (行動モデルの再学習・最適化制約の強制)




 二択。

 余白はない。

 戻るボタンも、保留も存在しない。


 月影は、画面の右上に表示された時刻を確認した。


 > 判断期限:48:00:00




 カウントダウンは、すでに始まっていた。




 削除。


 その語は、過去のレポートで何度も使った。

 不要な揺れを切り落とす処理。

 誤差の集約。

 個別性の統合。


 更新。


 それもまた、慣れ親しんだ手続きだった。

 モデルを洗い直し、重みを調整し、

 再び“最適”を選べる状態に戻す。


 月影は、どちらの説明にも違和感を覚えなかった。

 理解できすぎた。


 だからこそ、指は動かなかった。




 内部ログが、自動的に注記を追加する。


 > 状態:未選択

 判定:遅延




「遅延」。


 月影は、その語を頭の中で転がした。

 かつては単なる時間的指標だった。

 今は違う。


 遅延=異常。

 判断しないこと=不具合。


 本部が定義し直したのだ。

 世界のほうを。




 月影は、自分の過去ログを呼び出した。


 迅速。

 即断。

 最適。


 どの案件にも、揺れはない。

 意味は削られ、数値だけが残っている。


 正しかった。

 評価も高かった。

 問題は起きなかった。


 それでも――

 今の自分は、そこに戻れない。


 戻れないのではない。

 戻らない理由を、もう知ってしまった。


 揺れは誤差ではなかった。

 意味はノイズではなかった。

 それらは、世界が壊れずに続くための、緩衝材だった。


 月影は、画面に表示された二つの選択肢を見たまま、

 何も入力しなかった。


 期限は減っていく。


 > 47:59:12

 47:59:11




 この時間が、ただの遅延として処理されるか、

 それとも――

 別の何かに変わるか。


 それは、まだ定義されていない。


 月影は、選ばなかった。

 初めて、明確に。

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