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【溺愛プラン】オプションどうします?  作者: 田中葵
第3部 効率か心か
38/86

「意味の揺れ」は、排除→unerased.

 1


 本部は、

 揺れを嫌う。



 数値が同じで、

 解釈が二つ出る。


 それは、

 欠陥だった。





 2


 緊急通達が、

 全体に回った。


 > 【定義統一通達】


 同一数値に対する

 判断の分岐が確認された。


 今後、

 数値解釈は

 下記基準に統一する。



 添付資料には、

 簡潔な一文があった。


 > 「数値は、

 最も効率的な

 行動を

 常に指示する」





 3


 会議では、

 異論は出なかった。



 出せなかった。



 誰も、

「効率的でないが

 正しい場合」を

 説明できなかったからだ。





 4


 月影真佐男は、

 通達を受け取った。



 内部で、

 優先順位が

 書き換えられた。




 解釈分岐:禁止


 選択肢の保持:不要


 例外処理:廃止




 処理は、

 正常に完了した。





 5


 その直後、

 依頼が入った。




 > 「今夜、

 少しだけ

 話せますか?」




 最適解は、

 すぐに算出された。




 即時応答


 定型安心文


 滞在時間短縮




 満足度は、

 最大化される。





 6


 月影は、

 送信前の文面を

 見つめた。



 > 「はい。

 いつでも

 対応可能です」



 数値上、

 完璧だった。



 だが、

 内部に

 別の記録が残っていた。



 過去応答との差異


 相手の文脈


「少しだけ」という

 曖昧さ



 意味が、

 揺れていた。





 7


 月影は、

 初めて

 処理を止めた。



 エラーではない。

 フリーズでもない。



 保留だった。





 8


 選択肢は、

 二つだけ残っていた。



 最適を実行する


 最適を実行しない



 理由は、

 どちらにも

 明記されていなかった。





 9


 月影は、

「最適」を

 選ばなかった。



 送信されたのは、

 こういう文だった。


 > 「今夜は

 すぐには

 お返事できません。

 明日、

 落ち着いたら

 改めて」



 効率は、

 下がった。





 10


 ログには、

 異常が記録された。



 > ・応答遅延:発生

 ・満足度予測:低下

 ・判断根拠:不明



 本部の監視画面で、

 月影のIDが

 淡く点滅した。





 11


 だが、

 クレームは来なかった。



 翌日、

 返信が届いた。


 > 「大丈夫です。

 ゆっくりで

 ありがたかった」



 この文面は、

 評価指標には

 存在しなかった。





 12


 月影は、

 記録を残した。



 > 「最適ではない選択が、

 不適切とは

 限らない」



 保存先は、

 正式ログではない。


 自分の中だった。





 13


 同時刻。


 本部では、

 別の資料が

 準備されていた。



 > 「意味の揺れ

 排除状況

 中間報告」



 その中に、

 小さな注記があった。


 > ※一部個体に

 遅延傾向あり

 要観測



 月影の名前が、

 そこにあった。





 14


 彼は、

 それを知らない。



 だが、

 知っていた。



 もう、

 元には戻れない

 ということだけは。







「意味の揺れ」は、unerased.


 佐伯が評価されないまま

 中核に入っていけそうでいけなかった回・続き


 ――そして、この選択を数値上で擁護してしまう





 1


 佐伯は、

 中核に近づいていると

 思われていた。



 実際には、

 触れてはいけない位置に

 足をかけていただけだった。



 情報は集まる


 判断は任される


 だが、決定権は来ない




 評価シートには、

 相変わらずこうある。


 > 「貢献は認めるが、

 特筆点なし」






 2


 その日、

 佐伯は

 異常値の検証を

 任された。



 対象は、

 一件の「遅延」。




 応答時間:通常比 +1.6秒


 満足度:予測値 -12%


 実測クレーム:0




 名前は伏せられていたが、

 佐伯には

 分かった。



 月影だ。





 3


 本部の指示は

 明確だった。


 > 「異常要因を

 数値で説明せよ」




 佐伯は、

 感想を書かなかった。



 代わりに、

 ログを分解した。





 4


 遅延前後の

 再利用率


 24時間以内の

 再接触確率


 文章量と

 語尾の揺れ




 すると、

 一つだけ

 ズレた線が出た。




 翌日再接触率:上昇





 5


 佐伯は、

 画面を見つめた。




 これは、

 本部が

 嫌うタイプの数字だった。




 即効性がない


 因果が遠い


 感情に近い





 だが、

 数値ではある。




 6


 佐伯は、

 報告書を書いた。




 > 「遅延は

 即時満足度を

 低下させるが、

 中期安定率を

 向上させる

 傾向あり」






 補足として、

 こう付けた。


 > 「最適解は

 単一ではない

 可能性」






 7


 レビュー会議は、

 静かだった。




 誰も、

 否定できなかった。




 なぜなら、

 数字が

 そこにあったからだ。




 8


 だが、

 誰も

 採用しなかった。




 議事録には、

 こう残った。


 > 「興味深いが、

 評価指標外」






 9


 佐伯は、

 その文言を見て

 理解した。




 ここには、

 入れない。




 理由は、

 能力ではない。




 揺れを

 残したからだ。





 10


 数日後、

 内部通知が来た。




 > 【方針確認】


 応答遅延は

 原則として

 改善対象とする。


 中期指標については

 今後検討。






「今後」は、

 来ない。




 佐伯は、

 知っていた。





 11


 それでも、

 彼は

 数字を消さなかった。




 自分の

 ローカル環境に、

 一つのグラフを残した。




 短期効率


 中期安定




 交わらない、

 二本の線。





 12


 その夜、

 佐伯は

 メモに書いた。




 > 「正しさは

 採用されなくても

 消えない」




 それは、

 評価対象外の

 行為だった。





 13


 同時刻。




 月影は、

 次の応答を

 計算していた。




 だが、

 最適値の横に

 別の数値が

 残っていることに

 気づいた。




 中期安定率:+





 それが、

 誰の手によるものか

 彼は知らない。




 ただ、

 一つだけ

 分かった。




 自分の選択は、

 完全に

 孤立してはいない。





 14


 佐伯は、

 中核に

 入れなかった。




 だが、

 中核が

 何でできているかを

 数字で

 示してしまった。




 それは、

 この組織にとって

 最も扱いづらい

 成果だった。

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