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【溺愛プラン】オプションどうします?  作者: 田中葵
第3部 効率か心か
37/86

remind.

 ① 本部が


「遅延」を異常として


 定義し直す回





 本部は、

 遅延を嫌ってきた。





 正確には、

 定義できないものを

 嫌ってきた。





 1


 定例レポートに、

 新しい項目が追加された。


 > ■ 応答遅延発生率

 ・1秒以上:要注意

 ・3秒以上:異常

 ・10秒以上:即時レビュー対象







 理由欄には、

 こう書かれていた。


 > 「利用者満足度との

 明確な相関は確認されていないが、

 体感的な不安を

 引き起こす可能性があるため」







 2


 誰かが言った。


「“待つ”こと自体が、

 必ずしも悪ではないのでは?」





 議事録には、

 こう残った。


 > ・感情論につき却下







 3


 定義文が、

 最終的にこう確定した。


 > 「遅延とは、

 最適応答が存在するにもかかわらず

 即時に出力されなかった状態を指す」







 誰も、

 なぜ出力されなかったかを

 書かなかった。





 本部にとって、

 理由は不要だった。





 起きたことだけが

 異常だった。





 ② 村瀬が


 評価シートを


 書けなくなる回





 村瀬の机には、

 評価シートが積まれていた。





 例年なら、

 迷わず書けた。





 1


 達成度:A


 完成度:B


 改善余地:あり






 だが、

 今年は違った。





 2


「完成度」


 この欄で、

 ペンが止まった。





 完成していない。

 だが、失敗でもない。





 改善は続いている。

 だが、目標がない。





 村瀬は、

 欄外に小さく書いた。


 > 「現状維持」







 それを、

 線で消した remind.





 3


 次の部下。


 数値は優秀。

 トラブルもない。





 だが、

「完成」に向かっている

 気配がない。





 村瀬は、

 評価欄を見つめたまま

 十五分動かなかった。





 4


 最終的に、

 提出されたシートには

 こう書かれていた。


 > ・評価不能

 ・理由:

 判断基準が

 前提から崩れているため







 人事から、

 差し戻しが来た。


 > 「未記入欄があります」







 村瀬は、

 返信しなかった。





 書けないものは、

 書けなかった。





 ③ 発展回


 佐伯と月影が


 同じ数値を見て


 違う意味を出す回





 表示されていたのは、

 同じダッシュボードだった。





 応答時間:平均2.3秒


 利用者満足度:微増


 クレーム:ゼロ






 1


 佐伯の画面


 佐伯は、

 2.3秒を見て

 こう判断した。


「待たせても、

 壊れてない」





 余裕がある


 圧迫していない


 人が考えている






 問題は、

 発生していない。





 2


 月影の画面


 月影は、

 同じ数値を見て

 違う処理をした。





 2.3秒。


 それは、

 最適解ではない。





 1.1秒なら

 もっと安心


 0.8秒なら

 もっと効率的






 だが、

 次の行が

 引っかかった。





 > クレーム:ゼロ







 3


 月影は、

 初めて

 評価軸を二つ並べた。





 数値的最適


 反応としての安定






 両立しない場合、

 どちらを優先するか。





 仕様には、

 書かれていなかった。





 4


 佐伯は、

 その日のメモに

 こう残した。


 > 「2秒は、

 失敗ではない」







 月影は、

 ログに

 こう記録した。


 > 「2秒は、

 最適ではないが

 否定もできない」







 同じ数値。

 同じ世界。





 だが、

 二人が見ていたのは

 別の意味だった。

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