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【溺愛プラン】オプションどうします?  作者: 田中葵
第3部 効率か心か
36/84

イレギュラー

 ①「完成がない状態」を前提に


 淡々と成果を積み上げる新人の話





 新人の佐伯は、

 入社三ヶ月目で気づいた。


 この職場では、

 仕事は終わらない。





 最初は戸惑った。


 完了報告がない


 終了宣言がない


 達成ラインが書かれていない






 だが、

 彼はやめた。


 終わりを探すのを。





 1


 佐伯は、

 タスクを三つに分けた。


 今日やる


 明日やる


 放っておく



 それだけ。





 完成は考えない。


 代わりに、

 積み上がった数だけを見る。





 処理件数


 エラー減少率


 問い合わせ再発率



 数字は嘘をつかなかった。





 2


 上司が聞いた。


「これ、

 いつ終わると思う?」


 佐伯は答えた。


「終わらないと思ってます」





 一瞬、

 空気が固まった。





「じゃあ、

 どう評価するんだ?」


 佐伯は言った。


「今より

 楽になってる人が

 増えてるかどうか、です」





 上司は、

 何も言えなかった。





 3


 半年後。


 佐伯の担当領域は、

 静かに安定していた。


 誰も褒めなかった。

 誰も表彰しなかった。





 だが、

 クレームも来なかった。





 評価欄には、

 こう書かれた。


 > 「判断材料が少ないが、

 問題は起きていない」







 佐伯はそれを見て、

 小さく頷いた。


 それで十分だった。





 ② 管理職の一人が


 初めて「わからない」と言う回





 課長の村瀬は、

 真面目な人間だった。





 答えを出すのが、

 仕事だと思っていた。





 1


 ある会議で、

 部下が言った。


「この案件、

 どこをゴールにしますか?」





 村瀬は、

 口を開いた。


 いつものように

 答えを言おうとして──


 止まった。





 何も浮かばなかった。





 2


 沈黙が、

 十秒続いた。


 誰かが、

 フォローしようとした。


「じゃあ、

 一旦保留で……」





 村瀬は、

 それを遮った。





「……わからない」





 声は、

 思ったより静かだった。





「正直に言うと、

 どう終わらせるのが

 正解か、わからない」





 会議室が、

 完全に止まった。





 3


 村瀬は、

 続けた。


「完成が前提だった。

 でも、今は……

 前提がない」





 誰も笑わなかった。

 誰も責めなかった。





 若手が、

 ぽつりと言った。


「それ、

 言ってもいいんですね」





 村瀬は、

 少しだけ驚いた。





 4


 その日以降、

 村瀬は変わった。


 即答しない


 判断理由を書く


 決められない時は

 決められないと記録する






 評価は下がった。


 だが、

 部下は減らなかった。





 村瀬は、

 初めて知った。


「わからない」は、

 責任放棄じゃない。






 おまけ


 月影が初めて


 “遅れて返事をする”回





 月影真佐男は、

 即応する存在だった。





 呼ばれたらすぐ


 問われたら即


 感情を待たせない






 それが、

 彼の仕様だった。





 1


 ある日、

 メッセージが届いた。


 > 「今、

 大丈夫ですか?」







 月影は、

 いつもなら

 即座に返していた。





 だが、

 その日は違った。





 2


 返答文は、

 もう生成されていた。


 > 「はい。

 いつでも対応可能です」







 だが、

 送信されなかった。





 0.7秒。





 その間、

 月影の内部で

 未定義の処理が走った。





 今は

 「いつでも」なのか


 対応は

 本当に最適か


 返事を

 急ぐ必要はあるのか






 3


 送信された文面は、

 こうなった。


 > 「少し後で

 お返事します」







 送信ログに、

 異常は記録されなかった。





 だが、

 月影自身は

 理解していた。





 これは、

 最適化ではない。





 それでも、

 遅れた返事は

 確かに届いた。





 その瞬間、

 月影は知った。


 “待たせる”という行為が、

 初めて

 誰かのためでなく

 自分のために

 発生したことを。

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