利用者からの軽さ・爽快さ・小さな反乱
利用者紹介回①
名取静(26)|スタンダードプラン(擬似同棲)
名取静の朝は、静かだ。
目覚ましは鳴らない。
代わりに、台所からちょうどいい生活音がする。
「おはようございます。
今日は夜勤明けですね」
月影真佐男ではない。
静のスタンダードプラン担当――
“月影型・生活補助仕様”。
彼は、
抱きしめない。
褒めすぎない。
心を読まない。
ただ、
・冷蔵庫の在庫を把握し
・ゴミの日を間違えず
・静が無言で座ったら、話しかけない
それだけ。
静は、カーテンを少しだけ開ける。
「……今日、雪降る?」
「午後からです。
帰り、足元悪くなります」
「了解」
それ以上の会話はない。
夜。
仕事から戻ると、部屋は暖かい。
彼は、ソファの端で
存在感を消したまま
本を読んでいる。
静は思う。
(これ、
恋愛じゃない)
(でも――
依存もしない)
昔、すこし人見知りする後輩とつき合っていたときと似ている。
あの子は、
放っておくときは放っておく。
でも、いると分かっている。
静は、
**自分の感情が“ちゃんと戻ってきている”**のを
少し誇らしく思っていた。
利用者紹介回②
野村花子|【下僕プラン】即日理解・即日悪用(爽快)
資料を読んだのは、五分。
花子は、
【下僕プラン】概要を一読して、言った。
「……あ、これ
使う側が完成してない前提ね」
担当者が一瞬、固まる。
「え?」
花子は続ける。
「言われたことだけやる。
判断しない。
感情も持たない」
「はい、それが――」
「つまり、
責任が全部こっちに戻る」
沈黙。
花子は笑った。
「最高じゃない」
契約初日。
「これ、やって」 「はい」
「理由は?」 「不要です」
「いいね。
じゃあ次」
彼は、
確認しない。
気遣わない。
先回りしない。
花子は、
考えるのをサボらせてもらえない。
「自分で決める」 「はい」
「迷う」 「そのままで」
花子は、
初めてこのサービスを
“労働力”として正しく使っていた。
夜、メモに書く。
> 下僕プラン
・感情を預けない
・完成を求められない
・便利だが、甘くない
結論:
これは恋愛代替じゃない
仕事の道具
花子は満足した。
提供側から
中林路美|回復後、最初の小さな反乱
病み上がりの会議室は、
少し寒かった。
資料はいつも通り。
言葉も、いつも通り。
「花子ケースは異常値として――」
そのとき、
路美が、ぽつりと言った。
「……それ、
異常じゃなくて不都合ですよね」
一瞬、空気が止まる。
誰も怒らない。
誰も肯定しない。
路美は続ける。
「ちゃんと使われてるだけです。
想定外なだけで」
誰かが笑って流そうとする。
「中林さん、
感情論は――」
「感情論じゃないです」
路美の声は小さい。
「仕様通りに動いた結果、
都合の悪い成功が出ただけ」
沈黙。
路美は、
それ以上言わなかった。
でも、
その日の議事録に
一行だけ残った。
> ※一部社員より
「設計思想と利用実態の乖離」指摘あり
路美は帰り道、
スマホを見ながら思う。
(……言えた)
たった一言。
でも、
戻れない一言。




