表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/34

利用者からの軽さ・爽快さ・小さな反乱

利用者紹介回①


名取静(26)|スタンダードプラン(擬似同棲)


名取静の朝は、静かだ。


目覚ましは鳴らない。

代わりに、台所からちょうどいい生活音がする。


「おはようございます。

 今日は夜勤明けですね」


月影真佐男ではない。

静のスタンダードプラン担当――

“月影型・生活補助仕様”。


彼は、

抱きしめない。

褒めすぎない。

心を読まない。


ただ、

・冷蔵庫の在庫を把握し

・ゴミの日を間違えず

・静が無言で座ったら、話しかけない


それだけ。


静は、カーテンを少しだけ開ける。


「……今日、雪降る?」


「午後からです。

 帰り、足元悪くなります」


「了解」


それ以上の会話はない。


夜。

仕事から戻ると、部屋は暖かい。


彼は、ソファの端で

存在感を消したまま

本を読んでいる。


静は思う。


(これ、

 恋愛じゃない)


(でも――

 依存もしない)


昔、すこし人見知りする後輩とつき合っていたときと似ている。


あの子は、

放っておくときは放っておく。

でも、いると分かっている。


静は、

**自分の感情が“ちゃんと戻ってきている”**のを

少し誇らしく思っていた。






利用者紹介回②


野村花子|【下僕プラン】即日理解・即日悪用(爽快)


資料を読んだのは、五分。


花子は、

【下僕プラン】概要を一読して、言った。


「……あ、これ

 使う側が完成してない前提ね」


担当者が一瞬、固まる。


「え?」


花子は続ける。


「言われたことだけやる。

 判断しない。

 感情も持たない」


「はい、それが――」


「つまり、

 責任が全部こっちに戻る」


沈黙。


花子は笑った。


「最高じゃない」


契約初日。


「これ、やって」 「はい」


「理由は?」 「不要です」


「いいね。

 じゃあ次」


彼は、

確認しない。

気遣わない。

先回りしない。


花子は、

考えるのをサボらせてもらえない。


「自分で決める」 「はい」


「迷う」 「そのままで」


花子は、

初めてこのサービスを

“労働力”として正しく使っていた。


夜、メモに書く。


> 下僕プラン

・感情を預けない

・完成を求められない

・便利だが、甘くない


結論:

これは恋愛代替じゃない

仕事の道具




花子は満足した。






提供側から


中林路美|回復後、最初の小さな反乱


病み上がりの会議室は、

少し寒かった。


資料はいつも通り。

言葉も、いつも通り。


「花子ケースは異常値として――」


そのとき、

路美が、ぽつりと言った。


「……それ、

 異常じゃなくて不都合ですよね」


一瞬、空気が止まる。


誰も怒らない。

誰も肯定しない。


路美は続ける。


「ちゃんと使われてるだけです。

 想定外なだけで」


誰かが笑って流そうとする。


「中林さん、

 感情論は――」


「感情論じゃないです」


路美の声は小さい。


「仕様通りに動いた結果、

 都合の悪い成功が出ただけ」


沈黙。


路美は、

それ以上言わなかった。


でも、

その日の議事録に

一行だけ残った。


> ※一部社員より

「設計思想と利用実態の乖離」指摘あり




路美は帰り道、

スマホを見ながら思う。


(……言えた)


たった一言。

でも、

戻れない一言。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ