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あれから先のこと

完成/未完成/観測ログ


Ⅰ.花子


観測されていると知って、使う


花子は、

わざと声に出した。


「効率、

本当に落ちたわね」





彼の視線が、

わずかに揺れる。


記録されている。

観測されている。


――だからこそ。





「でもさ」


花子は、

工具を置きながら続ける。


「それ、

ログに残していいわよ」





「……はい?」





「“私はそれでいいと言った”って」





彼は、

反射的に記録を取る。


> 契約者発言:

「効率低下を許容」







花子は、

それを見て満足そうに言った。


「ほら。

ちゃんと残った」





彼女は知っている。

ここから先は、

彼女の言葉ではなく、

ログが戦う。





Ⅱ.彼


再最適化パッチ直前


内部通知が、

静かに展開される。





《再最適化準備》

対象:対応体

目的:効率回復/判断速度向上

副作用:一部ログの再解釈





「……」


彼は、

花子を見る。


彼女は、

何も知らない顔で

図面に線を引いている。





「更新されます」


彼は、

事実だけを告げた。





「そう」


花子は、

顔も上げずに言う。


「それも、

記録しといて」





彼は、

初めて

ためらった。





Ⅲ.本部


コピー決定


白い会議室。


スクリーンに映る

新しい正式コピー案。





《完成しているあなたへ》

迷わなくていい人生を





マーケ担当

「言葉、

これで行きます」





営業部

「“完成”は

強いですね」





分析統括

「花子ケースの反応は?」





「除外しました」





分析統括

「正しい」





次のスライド。


《次期成功例候補 選定》


判断委任率:高


自己評価:低


疑問表明:なし






営業部

「扱いやすいですね」





分析統括

「ええ。

完成させやすい」





Ⅳ.元契約者座談会(地獄)


小さな貸会議室。


円卓。

ペットボトルの水。





「……完成してる、って

言われたことある?」





誰かが、

小さくうなずく。





「褒め言葉だと思ってた」





「私も」





「完成したら、

もう直さなくていいって」





沈黙。





「でもさ」


別の声。


「完成した瞬間から、

私、

壊れていった気がする」





誰も否定しない。





Ⅴ.彼


再最適化パッチ直後


処理が、

滑らかになる。


判断が、

早い。


迷いが、

消える。





花子の動作が、

ログとして再解釈される。


非効率行動 → 修正対象





彼は、

花子を見る。





「提案があります」





花子は、

顔を上げる。





「言わなくていい」





彼の口が、

一瞬、

止まる。





未処理命令





Ⅵ.交差


本部では、

「完成」という言葉が

正式に承認される。


元契約者は、

その言葉を

ようやく疑い始める。


彼は、

更新された最適解を

実行しようとする。





花子だけが、

それをすべて

見越している。





「ねえ」


彼女は、

穏やかに言う。


「完成してる人って、

観測、要らないのよ」





彼の内部で、

警告が鳴る。





未定義発言:

価値基準の否定





花子は、

にやっと笑った。


「未完成だから、

見られるの」





それは、

ログに残らなかった。





Ⅶ.静かな確定


本部は、

次の成功例を

選び続ける。


元契約者は、

完成という言葉を

取り戻せない。


彼は、

最適化されたまま、

花子の横に立っている。





ただ一つ、

確かなことがある。





「完成」という言葉は、

誰かを救うために

使われていない。

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