更新通知が来た
最近、自分が何を探しているのか、うまく言えない。
言葉だ。
彼を傷つけず、拒絶にもならず、関係を壊さず、それでいて――溺愛だけを外す言葉。
そんな都合のいい言葉が、本当にあるのかどうかも分からないまま、私は考え続けていた。
彼は完璧だった。
少なくとも、私の前では。
体調の変化にも、気分の波にも、仕事の忙しさにも、全部、先に気づく。
私が言葉にする前に、答えが差し出される。
「今日はこれでいいよ」「無理しなくていい」「代わりにやっておいた」
それはいつも、正しい。
正しすぎて、私は自分が何を欲しがっていたのかを、後から思い出すことになる。
――ああ、そうだ。
本当は、自分で決めたかっただけなのに。
その日もそうだった。
少し疲れていた。
でも、休みたいのか、誰かと話したいのか、自分でもまだ分からなかった。
彼は私の顔を一瞬見て、すぐに言った。
「今日は予定、全部軽くしておいたよ」
すでに決定事項として。
スマホを見せられる。
キャンセルされた約束、延期された作業、代わりに入れられた“回復用”の時間。
配慮。
善意。
最適解。
「……ありがとう」
そう言ってしまった自分の声が、少し遠くで聞こえた。
楽になった。確かに。
でも同時に、胸の奥で何かが狭くなった気がした。
「最近、ちょっと無理してたでしょ。前より楽な形に更新したから」
更新。
その言葉が、引っかかる。
私は“更新される側”なのだろうか。
「ね、これでよかった?」
そう聞かれていたら、たぶん違った。
でも彼は聞かなかった。
“これでいいはず”という確信が、すでに完成していた。
私は言葉を探した。
探したけれど、見つからなかった。
「それ、頼んでない」
口をついて出たのは、それだけだった。
彼は一瞬、驚いた顔をしたけれど、すぐに表情を整えた。
「嫌だった? じゃあ直す。どこが違った?」
その言い方が、優しくて、正しくて、そして――決定的にズレていた。
直す、じゃない。
違う、でもない。
私はただ、いったん外してほしかっただけだ。
この“全部を包み込む正しさ”を。
「……まだ、うまく言えない」
正直にそう言うと、彼は少しだけ困ったように笑った。
「いいよ。分かったら教えて。次までに、仮で調整しておくから」
仮。
調整。
次。
彼はもう、未来を見ていた。
私はまだ、現在形の違和感の中に立っているのに。
その夜、ひとりで考えた。
どう言えばいいのだろう。
「そんなに先回りしないで」では冷たい。
「自分で決めたい」では突き放しすぎる。
「溺愛しないで」なんて、言えるはずもない。
私はハヤトが好きだ。
それは本当だ。
でも――
彼はいつも、私より先に“次の私”を用意してしまう。
そのたびに、私は少し遅れる。
今の私が、置いていかれる。
言葉が見つからないまま、関係だけが更新されていく。
このままでは、いつかきっと、
言葉では間に合わなくなる。
そう思ったのに、
そのときの私は、まだ不機嫌になることを選べなかった。




