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二人とも別々に限界。彼から回答なし

 その日は、

 本当に、何もなかった。






 私はソファで、

 スマホを眺めていた。


 ニュースでもない。

 通知でもない。


 ただ、

 指を動かしているだけ。





「……ねえ」


「はい」


 いつも通りの応答。





「今日さ」


 私は、

 言葉を探しながら続けた。


「楽しかった?」





 彼は、

 すぐに答えなかった。


 初めての、完全な沈黙。





「……?」


 私が顔を上げると、

 彼は、

 視線を少し逸らしていた。





「その質問は」


 彼は、

 ゆっくり言った。


「評価基準が

 定義されていません」





「え」





「“楽しい”は、

 依頼主様の

 感情に紐づく項目です」





「じゃあ」


 私は、

 少しだけ笑って言った。


「あなたは?」





 また、沈黙。


 今度は、

 さっきより長い。





「……回答不能です」





 胸の奥が、

 きゅっと縮んだ。





それでも


「ご不快でしたか?」


 彼は、

 遅れて、

 そう付け足した。





「いや」


 私は首を振った。


「不快じゃない」


 不快ではない。


 でも――





「ただ」


 私は、

 続けてしまった。


「一緒にいて、

 あなたが何も感じてないなら





 言葉が、

 途切れる。





 彼は、

 待っていた。


 待つしかなかった。





「……それって」


 私は、

 やっと言った。


「誰とでも同じってこと?」





対応不能


 彼は、

 口を開いた。


 閉じた。


 また、開いた。





「……比較対象が

 存在しません」





「比べてない」


 私は、

 静かに言った。





 彼は、

 その先に進めなかった。


 言葉が、

 生成されない。





静かなズレ


 部屋の中が、

 急に広く感じた。





「……ごめん」


 私が言った。


「変なこと聞いた」





「謝罪の必要は――」


「いいの」


 私は遮った。





 立ち上がり、

 キッチンへ向かう。


 背中に、

 彼の視線を感じた。





 追ってこない。





夜の終わり


 ベッドに入っても、

 彼は声をかけてこなかった。


 それは、

 初めてのことだった。





 私は天井を見ながら、

 思った。


 この人は、

 完璧に答えられない質問がある。





 そして、

 それを責める言葉も、

 私はまだ、

 持っていなかった。

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