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農家の異世界奮闘記~理の目と鍬一本で、国を救い、神に挑む~  作者: 今無ヅイ
穢れ火戦争編

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アジール平野、布陣

 丘の背から眺めると、帝国軍の陣は一つの「くさび」に見えた。

 中央に突き出した重装歩兵の凸形陣。


 その両端から、ゆるやかな弧を描いて左右へ伸びる騎兵の列。

 大地に打ち込んだ鉄の楔で、迫り来る神聖国軍の奔流をまず受け止め、そして、削り、折る。


 グライフェンタールは土塁の上に立ち、自軍の配置をゆっくりとなぞるように目で追った。


 中央――アジール平野の、もっとも緩やかに盛り上がった丘に。

 彼の率いる重装歩兵一万五千が、厚い凸形陣を組んでいる。

 前面は胸壁を兼ねた土塁。

 その下に、敵の足を奪う壕。

 さらに前には、逆茂木と木杭。


 そこに立つのは、帝国内乱を生き延びた歴戦の兵たちだ。

 槍を地に突き立て、盾を互い違いに重ね、ただ一つの役目を負っている。

 ――ここで止まれ。ここから先には通すな。


 視線を南側に移す。

 なだらかに沈む丘陵の向こうに、シャイロック軍の重装騎兵二千が待機している。

 黒鉄の鎧に馬鎧までまとい、まだ動かぬまま、ひたすら「合図」を待つ。

 敵が中央にぶつかり、流れが重装歩兵の前でよどんだ瞬間――左翼の騎兵は平野の縁を回り込み、敵軍の側面へ噛みつく。


 北側の丘陰には、クローディアの近衛重装騎兵一千五百。

 帝都近衛として鍛えられた精鋭中の精鋭だ。

 そのさらに後ろに、西部方面軍の騎兵が予備として控えている。

 グライフェンタールは彼らに、まだ「役割の名」を与えていない。

 突撃隊か。予備戦力か。最後の一撃か。


 戦の流れを見てから、そのどれかを選ぶつもりでいた。

 ただ一つ確かなのは、「ここぞ」という瞬間まで動かさないということだけだ。


 さらに背後、丘を二つ越えた位置。

 試作型の魔力砲が並んでいた。

 砲身はまだ短い。


 その代わり、魔力結晶の装填部は異様に太い。

 最大射程は三千五百メートル前後。

 爆発半径、およそ十メートル。

 山なりに撃てば、アジール平野の中央付近まで届く。

 まだ数は少ないが――野戦でこの口径を揃えた国は、大陸中探しても帝国だけだろう。


(兵士同士がぶつかる前に、どれだけ削れるかが勝負だ)


 グライフェンタールは土塁の上で腕を組んだ。

 日鴉猟兵たちが、サルヴァの牙で稼いだ十日間。


 あれがあったからこそ、この牙をここまで研ぎ終えられた。

 ならば、自分にできることは一つだ。


 ――味方の被害は最小限に。

 敵の被害は最大限に。


 それが、彼の「戦争の理」だった。

 英雄的な突撃も、美しい殲滅戦も、血を熱くする大勝利も、すべてはその理の下に従属する。


 兵を無駄死にさせる勝利に、価値はない。

 敵を生かしたまま通す勝利も、同じく価値はない。


 アジール平野を吹き抜ける風が、土塁の旗を鳴らした。

 遠く、西の山の向こうから、鈍い太鼓の音がかすかに響いてくる。

 神聖国軍が山を抜け、平野になだれ込んでくる合図だ。


「――全軍に通達」

 グライフェンタールは背後に控える副官に短く命じた。

「魔力砲、装填。敵先頭が平野中央に達し次第、第一斉射」

「はっ!」

「歩兵陣は盾を下げ、槍を構えさせろ。

 騎兵はその場で待機。動くのは、こちらが決めた“時”だけだ」


 帝国軍の牙は、すでに研ぎ終わっている。

 あとは獲物が、その間に首を突っ込んでくるのを待つだけだ。

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