僕は人間だったのに。君は動物だった。
死なないでくれと願う僕。
早く死にたいと言う君。
僕らは幼い頃から一緒だったのに何もかもが違った。
僕はお金持ちで裕福に生まれたのに、君は貧乏で両親の顔さえも知らない。
僕は太っちょでなのに、君は骨と皮ばかり。
僕は人間だったのに。
君は動物だった。
少なくとも、僕の周りの人は君を動物と言っていた。
「死なないで」
僕は泣きながら君の手を握る。
優しい僕の両親は僕の頭を撫でながら慰める。
「動物には人間の言葉は通じないよ」
僕には両親の言うことが理解できない。
君はどう見ても人間なのに皆は君を動物と呼ぶ。
「私は早く死にたい」
君の弱々しい声は確かに言葉になっているのに。
誰一人、君の言葉を認めてくれない。
「また新しいのを買おう」
君がまだ死んでもいないのに僕の両親は優しく言った。
「スラムには腐るほどいる。だから拘っていちゃダメだよ」
いくらでも捕まえてこれる。
変な知恵や筋肉をつけて反抗する前に死んでしまう動物なんて。
僕の両親も、執事も、先生も、友達も、皆が皆おなじ考えだ。
きっと僕だけが違うんだ。
僕だけがおかしいんだ。
『動物』の死にこんなに動揺するなんて−−。
*
やがて君は死んだ。
君の身体は僕が拒むのも無視されて執事に奪われゴミ捨て場に捨てられた。
その日の内に僕には新しい動物があてがわれた。
人間の形をして、人間の言葉を喋る動物が。
大人になるまでに僕は何度も何度も泣いた。
同じ事で飽きることなく。
次こそは絶対に変えてやると思いながら。
***
そして今では僕の娘が同じようにして泣いている。
大人になった僕は娘にかつて自分がされたのと同じ行動で慰める。
つまり、死んだなら新しい『奴隷』を買ってくる。
そして、それが『人間』であるなんて決して伝えないし認めない。
大人になる過程で僕は学んだ。
これは『本物の人間』としてより強固になるための儀式なのだと。
『弱者に権利を与えたが故に人類は自らの歩みに長い停滞が必要になった』
僕の家系に伝わる言葉だ。
これが真実かはわからない。
だけど、少なくとも今の僕は『人間として』十分すぎるほどに『成功』していた。
娘が泣き続ける。
「パパ! この人は人間だよ!?」
僕は答える。
「違うよ。それは動物だよ」
これ以上ないほどに優しく。
長く守り続けてきた伝統の守護者として容赦なく。
「死んだらまた新しいのを買ってこよう。だから安心しなさい」




