窓辺の封筒
駅前のカフェで、私は毎週火曜の午後を過ごしている。
コーヒーを注文し、窓際の席に座り、本を開く。それは、日常の中で唯一、心が静かになる時間だ。
その日、いつもの席に、白い封筒が置かれていた。
宛名はなかったが、開けると短い手紙が入っていた。
「あなたが見ている景色は、きっと誰かも見ている。
だから、あなたは独りじゃない。」
差出人の名前も、日付もない。
でも、その一文が胸の奥にふっと入り込んできた。
外を見ると、信号待ちをしている人たちが、赤から青へと変わる瞬間に、一斉に歩き出した。
何百回も見た光景なのに、その日は不思議とあたたかく感じた。
コーヒーを飲み終え、帰り際、私は封筒を元の場所に戻した。
「もしかしたら、次に座る誰かにも、この言葉が必要かもしれない」と思ったからだ。
その日から、カフェの窓際の席に座るたび、私は少しだけ周りを見渡すようになった。
もしかしたら、私の隣にも、手紙を残した人がいるかもしれないと——。






